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36話
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最近は週に何度か、梓は灯とアルバイトを終えてから一緒に過ごしていた。
「……デートと言いたいとこだけど……灯ちゃんはそう思ってないだろうなあ」
梓はつい苦笑する。もちろん先を急ぐつもりはないし、恋愛として見られない様子の灯にもそれでいいと言っていることに嘘偽りはない。
ないけれども、だからといって自分まで何もしないつもりもそういう目で見ないつもりもない。
一緒に過ごしているというのは相も変わらず、ギターの練習だ。灯の演奏はずいぶん上達した。デートとは思ってもらえないであろうことは少々残念だが、純粋にその上達は嬉しく思う。作詞作曲も、はっきりと言わないが続けているらしい。やはり本当に音楽が好きなのだろうなと梓は微笑んだ。
家の事情などを考慮して、梓は別に無理やり音楽を続けるべきだと主張するつもりはない。決めるのは灯だ。ただ、後悔はなるべくして欲しくないなあと思うし、まだ何より高校生なのだ。選択肢を自ら減らす必要などないと思う。
灯の可能な範囲でできうる限り、無理をしないで欲しいが、楽しみつつもがんばって欲しい。将来の道はいくらでも作っていける。その道を自ら閉ざさないでいて欲しいし、せめて無意識に埋めてしまわないよう、少しでも手助けできれば嬉しいと思う。
そしていくつもできた道を目にした上で灯が選び、しっかりと足を踏み出していくのなら梓はどんな道でもその歩みを応援したいと思う。
「……って保護者か俺は」
ついまた苦笑する。
保護者のつもりはない。今では灯に悪いが、ひたすら邪な気持ちで灯を見ている。それでも陰ながら支えたいと思わせられる子なのだと灯を思い浮かべた。
保護者といえば柊もある意味、灯の保護者だ。もしくは灯警護係か。
おかしく思いつつも、梓はどこか嬉しかったりもする。灯が好きだとお互いに知った上で、一旦引き下がった後あからさまに「協力はしねえ」という態度を隠そうともしない柊が嬉しい。
梓は自覚があったわけではないが、ひたすら柊に遠慮していたのだろう。そしてそれが柊を傷つけてもいたのだと気づかされた。
だが柊は遠慮をしないし隠さない。もちろん梓のせいもあるだろうが、基本的に素直ではない。それでもいつだって梓には真っ直ぐに見える。
引き下がったことに関しては、お前が言うなかもしれないが遠慮せず柊も灯に気持ちを打ち明けて欲しいと今でも思っている。
ただ、そうすると灯はますます困惑し、下手をすると縮こまってしまうかもしれない。ずっと親友だった相手に告白され、その親友と少々複雑な関係である兄にも告白され。恐らく気を使い、ただ後退りをする灯しか見えない。それもあって、柊は口にしないのかもしれない。
梓は柊に恐らく遠慮し、一旦は「まだそんなに好きではない」と身を引くつもりでいた。そして柊にとうとう怒りをぶつけられた。
だからこそ、ごめんな。絶対俺は身を引かない。
そしてその上で柊は遠慮なく、協力はしないという態度を出してくる。そんなの嬉しいに決まっている。
「おい、梓」
不意に名前をよばれ、梓はハッとなり呼ばれた方を見た。
「悪い、ちょっと考えごとしてた。何?」
「考えごと、な。さっきから顔がニヤついてたんだけど。気持ち悪いなあって」
いつの間にか梓のいるテラスに来ていた嵩音が楽しげに見てくる。
「いつから見てたんだよ、見物料とるけど?」
「むしろそんな表情見させられて、払ってもらいたいな」
ひたすら楽しげな嵩音に、梓はいったい自分はそんなにニヤニヤとしていたのかと微妙になる。手持ち無沙汰にテーブルのコーヒーを飲めば、既に冷めきっていた。
「ちょっと好きな子のことと、あと弟のこと考えてた」
「好きな子はさておき、弟のこと考えてニヤつくの止めたほうがいいよ」
「まぁ、俺も言葉にするとないな、って思う」
お互い苦笑した後で、嵩音が椅子に座る。
「お前さ、弟のことでたまに悩んでたろ」
嵩音の言葉に梓は少しポカンとした顔を向けた。養子であることは言っていたが、柊と折り合いが悪いとは口にしたことない。
「何、その顔」
「あー、いや。弟のこと、言ったことなかったよなぁって」
「ああ、うん。聞いてない。でも何となく、ね」
少し笑った後に嵩音は続けてきた。
自分と実の弟とは昔からずっと仲がいいが、弟のように思っている大切ないとこと中々上手くいかないのだという。
「凄く気がかりで大事な、ほんと弟みたいな存在でさ」
だから何となくわかるのだと嵩音は笑った。
「悩んでただろうなって思ってたけどさ、その弟相手にニヤニヤしてたっていうなら、まぁよかったよね」
「……うん、ありがとう。お前もそのいとことやらと上手くいけばいいな」
「ああ。でも最近はさ、本当に好きな相手がいとこにできてかなり変わってきてるんだ。だから俺にとっては好きな相手様々かも」
「へぇ」
嵩音のいとことはパターンが違うだろうが、梓と柊も灯を通して変わったように思える。灯をまた思い出し梓はまた微笑んでいた。
「人を好きになるって凄いよな」
思わず梓が口にすると、嵩音は「ちょっとくさいけど」と笑った後に「そうだな」と頷いていた。
「……デートと言いたいとこだけど……灯ちゃんはそう思ってないだろうなあ」
梓はつい苦笑する。もちろん先を急ぐつもりはないし、恋愛として見られない様子の灯にもそれでいいと言っていることに嘘偽りはない。
ないけれども、だからといって自分まで何もしないつもりもそういう目で見ないつもりもない。
一緒に過ごしているというのは相も変わらず、ギターの練習だ。灯の演奏はずいぶん上達した。デートとは思ってもらえないであろうことは少々残念だが、純粋にその上達は嬉しく思う。作詞作曲も、はっきりと言わないが続けているらしい。やはり本当に音楽が好きなのだろうなと梓は微笑んだ。
家の事情などを考慮して、梓は別に無理やり音楽を続けるべきだと主張するつもりはない。決めるのは灯だ。ただ、後悔はなるべくして欲しくないなあと思うし、まだ何より高校生なのだ。選択肢を自ら減らす必要などないと思う。
灯の可能な範囲でできうる限り、無理をしないで欲しいが、楽しみつつもがんばって欲しい。将来の道はいくらでも作っていける。その道を自ら閉ざさないでいて欲しいし、せめて無意識に埋めてしまわないよう、少しでも手助けできれば嬉しいと思う。
そしていくつもできた道を目にした上で灯が選び、しっかりと足を踏み出していくのなら梓はどんな道でもその歩みを応援したいと思う。
「……って保護者か俺は」
ついまた苦笑する。
保護者のつもりはない。今では灯に悪いが、ひたすら邪な気持ちで灯を見ている。それでも陰ながら支えたいと思わせられる子なのだと灯を思い浮かべた。
保護者といえば柊もある意味、灯の保護者だ。もしくは灯警護係か。
おかしく思いつつも、梓はどこか嬉しかったりもする。灯が好きだとお互いに知った上で、一旦引き下がった後あからさまに「協力はしねえ」という態度を隠そうともしない柊が嬉しい。
梓は自覚があったわけではないが、ひたすら柊に遠慮していたのだろう。そしてそれが柊を傷つけてもいたのだと気づかされた。
だが柊は遠慮をしないし隠さない。もちろん梓のせいもあるだろうが、基本的に素直ではない。それでもいつだって梓には真っ直ぐに見える。
引き下がったことに関しては、お前が言うなかもしれないが遠慮せず柊も灯に気持ちを打ち明けて欲しいと今でも思っている。
ただ、そうすると灯はますます困惑し、下手をすると縮こまってしまうかもしれない。ずっと親友だった相手に告白され、その親友と少々複雑な関係である兄にも告白され。恐らく気を使い、ただ後退りをする灯しか見えない。それもあって、柊は口にしないのかもしれない。
梓は柊に恐らく遠慮し、一旦は「まだそんなに好きではない」と身を引くつもりでいた。そして柊にとうとう怒りをぶつけられた。
だからこそ、ごめんな。絶対俺は身を引かない。
そしてその上で柊は遠慮なく、協力はしないという態度を出してくる。そんなの嬉しいに決まっている。
「おい、梓」
不意に名前をよばれ、梓はハッとなり呼ばれた方を見た。
「悪い、ちょっと考えごとしてた。何?」
「考えごと、な。さっきから顔がニヤついてたんだけど。気持ち悪いなあって」
いつの間にか梓のいるテラスに来ていた嵩音が楽しげに見てくる。
「いつから見てたんだよ、見物料とるけど?」
「むしろそんな表情見させられて、払ってもらいたいな」
ひたすら楽しげな嵩音に、梓はいったい自分はそんなにニヤニヤとしていたのかと微妙になる。手持ち無沙汰にテーブルのコーヒーを飲めば、既に冷めきっていた。
「ちょっと好きな子のことと、あと弟のこと考えてた」
「好きな子はさておき、弟のこと考えてニヤつくの止めたほうがいいよ」
「まぁ、俺も言葉にするとないな、って思う」
お互い苦笑した後で、嵩音が椅子に座る。
「お前さ、弟のことでたまに悩んでたろ」
嵩音の言葉に梓は少しポカンとした顔を向けた。養子であることは言っていたが、柊と折り合いが悪いとは口にしたことない。
「何、その顔」
「あー、いや。弟のこと、言ったことなかったよなぁって」
「ああ、うん。聞いてない。でも何となく、ね」
少し笑った後に嵩音は続けてきた。
自分と実の弟とは昔からずっと仲がいいが、弟のように思っている大切ないとこと中々上手くいかないのだという。
「凄く気がかりで大事な、ほんと弟みたいな存在でさ」
だから何となくわかるのだと嵩音は笑った。
「悩んでただろうなって思ってたけどさ、その弟相手にニヤニヤしてたっていうなら、まぁよかったよね」
「……うん、ありがとう。お前もそのいとことやらと上手くいけばいいな」
「ああ。でも最近はさ、本当に好きな相手がいとこにできてかなり変わってきてるんだ。だから俺にとっては好きな相手様々かも」
「へぇ」
嵩音のいとことはパターンが違うだろうが、梓と柊も灯を通して変わったように思える。灯をまた思い出し梓はまた微笑んでいた。
「人を好きになるって凄いよな」
思わず梓が口にすると、嵩音は「ちょっとくさいけど」と笑った後に「そうだな」と頷いていた。
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