絆の序曲

Guidepost

文字の大きさ
36 / 45

36話

しおりを挟む
 最近は週に何度か、梓は灯とアルバイトを終えてから一緒に過ごしていた。

「……デートと言いたいとこだけど……灯ちゃんはそう思ってないだろうなあ」

 梓はつい苦笑する。もちろん先を急ぐつもりはないし、恋愛として見られない様子の灯にもそれでいいと言っていることに嘘偽りはない。
 ないけれども、だからといって自分まで何もしないつもりもそういう目で見ないつもりもない。
 一緒に過ごしているというのは相も変わらず、ギターの練習だ。灯の演奏はずいぶん上達した。デートとは思ってもらえないであろうことは少々残念だが、純粋にその上達は嬉しく思う。作詞作曲も、はっきりと言わないが続けているらしい。やはり本当に音楽が好きなのだろうなと梓は微笑んだ。
 家の事情などを考慮して、梓は別に無理やり音楽を続けるべきだと主張するつもりはない。決めるのは灯だ。ただ、後悔はなるべくして欲しくないなあと思うし、まだ何より高校生なのだ。選択肢を自ら減らす必要などないと思う。
灯の可能な範囲でできうる限り、無理をしないで欲しいが、楽しみつつもがんばって欲しい。将来の道はいくらでも作っていける。その道を自ら閉ざさないでいて欲しいし、せめて無意識に埋めてしまわないよう、少しでも手助けできれば嬉しいと思う。
 そしていくつもできた道を目にした上で灯が選び、しっかりと足を踏み出していくのなら梓はどんな道でもその歩みを応援したいと思う。

「……って保護者か俺は」

 ついまた苦笑する。
 保護者のつもりはない。今では灯に悪いが、ひたすら邪な気持ちで灯を見ている。それでも陰ながら支えたいと思わせられる子なのだと灯を思い浮かべた。
 保護者といえば柊もある意味、灯の保護者だ。もしくは灯警護係か。
 おかしく思いつつも、梓はどこか嬉しかったりもする。灯が好きだとお互いに知った上で、一旦引き下がった後あからさまに「協力はしねえ」という態度を隠そうともしない柊が嬉しい。
 梓は自覚があったわけではないが、ひたすら柊に遠慮していたのだろう。そしてそれが柊を傷つけてもいたのだと気づかされた。
 だが柊は遠慮をしないし隠さない。もちろん梓のせいもあるだろうが、基本的に素直ではない。それでもいつだって梓には真っ直ぐに見える。
 引き下がったことに関しては、お前が言うなかもしれないが遠慮せず柊も灯に気持ちを打ち明けて欲しいと今でも思っている。
ただ、そうすると灯はますます困惑し、下手をすると縮こまってしまうかもしれない。ずっと親友だった相手に告白され、その親友と少々複雑な関係である兄にも告白され。恐らく気を使い、ただ後退りをする灯しか見えない。それもあって、柊は口にしないのかもしれない。
 梓は柊に恐らく遠慮し、一旦は「まだそんなに好きではない」と身を引くつもりでいた。そして柊にとうとう怒りをぶつけられた。

 だからこそ、ごめんな。絶対俺は身を引かない。

 そしてその上で柊は遠慮なく、協力はしないという態度を出してくる。そんなの嬉しいに決まっている。

「おい、梓」

 不意に名前をよばれ、梓はハッとなり呼ばれた方を見た。

「悪い、ちょっと考えごとしてた。何?」
「考えごと、な。さっきから顔がニヤついてたんだけど。気持ち悪いなあって」

 いつの間にか梓のいるテラスに来ていた嵩音が楽しげに見てくる。

「いつから見てたんだよ、見物料とるけど?」
「むしろそんな表情見させられて、払ってもらいたいな」

 ひたすら楽しげな嵩音に、梓はいったい自分はそんなにニヤニヤとしていたのかと微妙になる。手持ち無沙汰にテーブルのコーヒーを飲めば、既に冷めきっていた。

「ちょっと好きな子のことと、あと弟のこと考えてた」
「好きな子はさておき、弟のこと考えてニヤつくの止めたほうがいいよ」
「まぁ、俺も言葉にするとないな、って思う」

 お互い苦笑した後で、嵩音が椅子に座る。

「お前さ、弟のことでたまに悩んでたろ」

 嵩音の言葉に梓は少しポカンとした顔を向けた。養子であることは言っていたが、柊と折り合いが悪いとは口にしたことない。

「何、その顔」
「あー、いや。弟のこと、言ったことなかったよなぁって」
「ああ、うん。聞いてない。でも何となく、ね」

 少し笑った後に嵩音は続けてきた。
 自分と実の弟とは昔からずっと仲がいいが、弟のように思っている大切ないとこと中々上手くいかないのだという。

「凄く気がかりで大事な、ほんと弟みたいな存在でさ」

 だから何となくわかるのだと嵩音は笑った。

「悩んでただろうなって思ってたけどさ、その弟相手にニヤニヤしてたっていうなら、まぁよかったよね」
「……うん、ありがとう。お前もそのいとことやらと上手くいけばいいな」
「ああ。でも最近はさ、本当に好きな相手がいとこにできてかなり変わってきてるんだ。だから俺にとっては好きな相手様々かも」
「へぇ」

 嵩音のいとことはパターンが違うだろうが、梓と柊も灯を通して変わったように思える。灯をまた思い出し梓はまた微笑んでいた。

「人を好きになるって凄いよな」

 思わず梓が口にすると、嵩音は「ちょっとくさいけど」と笑った後に「そうだな」と頷いていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

はじまりの朝

さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。 ある出来事をきっかけに離れてしまう。 中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。 これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。 ✳『番外編〜はじまりの裏側で』  『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。

【完結】俺とあの人の青い春

月城雪華
BL
 高校一年の夏、龍冴(りょうが)は二つ上の先輩である椰一(やいち)と付き合った。  けれど、告白してくれたにしては制限があまりに多過ぎると思っていた。  ぼんやりとした不信感を抱いていたある日、見知らぬ相手と椰一がキスをしている場面を目撃してしまう。  けれど友人らと話しているうちに、心のどこかで『椰一はずっと前から裏切っていた』と理解していた。  それでも悲しさで熱い雫が溢れてきて、ひと気のない物陰に座り込んで泣いていると、ふと目の前に影が差す。 「大丈夫か?」  涙に濡れた瞳で見上げると、月曜日の朝──その数日前にも件の二人を見掛け、書籍を落としたのだがわざわざ教室まで届けてくれたのだ──にも会った、一学年上の大和(やまと)という男だった。

三ヶ月だけの恋人

perari
BL
仁野(にの)は人違いで殴ってしまった。 殴った相手は――学年の先輩で、学内で知らぬ者はいない医学部の天才。 しかも、ずっと密かに想いを寄せていた松田(まつだ)先輩だった。 罪悪感にかられた仁野は、謝罪の気持ちとして松田の提案を受け入れた。 それは「三ヶ月だけ恋人として付き合う」という、まさかの提案だった――。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

仮面王子は下僕志願

灰鷹
BL
 父親の顔は知らず、奔放な母のもとで育った渡辺響は、安定した職業に就くために勉強だけはずっと頑張ってきた。その甲斐あって有名進学校に進学できたものの、クラスメイトとは話題も合わず、ボッチキャラとして浮いていた。クラスの中で唯一、委員長の川嶋昴陽だけが響のことを気にかけてくれて、面倒見のよい彼に秘かに恋心を抱いていた。しかし、修学旅行の最終日に川嶋が隣で寝ていた朝倉にキスしようとしているところを目撃し、反射的にそれを写真に収めてしまう。写真を消せと川嶋に詰め寄られるが、怒りをあらわにした彼の態度に反発し――。女子から「王子」と呼ばれる人気者優等生×寂しさを抱えるボッチな茶髪男子、の失恋から始まるハートフル青春BL。   ※ アルファポリス様で開催されている『青春BLカップ』コンテストに応募しています。今回は投票制ではないですが、閲覧ポイントでランキングが変わるそうなので、完結後にまとめてではなくリアルタイムでお読みいただけると、めちゃくちゃ励みになります。 ※ 視点は攻め受け両方で章ごとに変わります。完結した作品に加筆してコンテスト期間中の完結を目指します。不定期更新。

ジャスミン茶は、君のかおり

霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。 大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。 裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。 困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。 その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。

処理中です...