絆の序曲

Guidepost

文字の大きさ
38 / 45

38話

しおりを挟む
 柊は目の前で困惑しつつも少し嬉しそうにしている灯を複雑な気持ちで眺めていた。

「どう思う?」

 もちろんやるべきだ、と心の中では即答した。だがそれと同時に「梓め」という気持ちが沢山の風船のように次々湧き上がっては脳のどこかへ消えていく。

「シュウ?」

 柊を見て灯が怪訝そうに顔を覗き込んできた。この間、家で梓が「灯ちゃんってさ……」と苦笑していた時のことを柊は思い出す。

「……何」
「あー、いや。やっぱいいや」
「はぁっ? 言いかけて止めるとかムッツリかよっ?」
「何で言いかけて止めたらムッツリになんだよ」
「煩い。アカリが何だよ!」

 怪訝な顔で聞いてきた梓に対して柊はさらに聞き返した。梓が言いかけて止めたことで、灯にろくでもないことでもやらかしたのではないかと即、頭に浮かんだ自分の方がムッツリなのではという自問に対しては思い切り柊は流す。

「いや、何て言うか……無防備だよなって。本人わかってない分、余計にさ」
「……あぁ、それ……」

 普段から柊が灯に対して思っていることだけに、さすがに「何かしたのかよ」とは思わなかった。

 むしろわかりみしかない……。

 今、灯に覗き込まれたことで改めて柊は思った。もちろん今も灯にはそんな意識ないし、そもそもわかっていないだろう。まさか柊が覗き込む灯に対して心臓をやたらめったら鼓動させているとは確かに思わないだろう。
 それだけに本当に無防備だ。こちらの気持ちを軽率に乱してくる。その上、このまま少し顔を近づけるだけでキスしてしまえる。

「……はぁ」
「え、何でため息? 呆れてる? まあ俺がするっての、ちょっとアレだもんな。うん。止めとけってことだよな」
「ちげーよ、何わかった風に言ってんだよアカリ。わかってねえからな」

 そして家で梓が苦笑しながらそんなことを言ってきたということは、梓に好きだと言われたにも関わらず灯はこういったことを梓にもやらかしているのだろう。もちろん、柊に対してよりは意識してはいるだろうが、それでもちょくちょく無防備なところを見せているのだろう。

「……梓め」

 灯にではなく、梓にそしてムッとする。

「え、何?」

 思わず呟いた柊に、灯がますます顔を近づけてきた。
 わかっている。梓ならまだしも、柊は灯の親友だ。男同士の親友に対して顔を近づけたら無防備だなど、灯でなくとも普通思わないだろうことはわかっている。

 ……それでもやっぱアカリは無防備だよ。

 またもやため息つきたくなりながら、柊はさりげなく体勢を変えた。そして灯を見る。

「やれって思う」

 昨日も梓と灯はアルバイトの後、一緒にギターの練習していたらしい。前よりも回数が増えたような気がする。梓が遠慮しなくなったというのもあるし、灯が以前よりも前向きに音楽を楽しむようになったというのもあるだろう。どちらも柊にとってもいいことではある。
 だが、家で決して梓と灯を二人きりにさせないよう柊が目を光らせていることに梓が気づいている気もする。気づいていて、だからこそ二人きりで会えるギターの練習を増やしているように思える。

 クソ兄貴め。

 忌々しく思いつつ、実はそんな梓が少々嬉しかったりもするので柊としては複雑だ。
 そして今、柊と灯が何の話をしているかというと、その梓から「今度、外で弾き語りしてみよう」と灯は言われたらしい。梓に無茶振りされて弾き語りしたら褒めてもらい、それは凄く嬉しかったようだが、さらなる無茶振りがきたと灯は先ほどまで説明していた。
 自分だけが、と言ってもこの学校の生徒は沢山聴いているがとりあえず、自分だけが灯の歌うところを見ていたという優越感を軽く砕かれた上に音楽をもっと楽しむよう何気に提案している梓が恨めしい。

 俺だってな、アカリはもっと音楽に対して積極的になるべきだって思ってんだからな。

 負け犬のように心の中で吠えてから、ひたすら「梓め」とまた思う。そして柊としてもやればいいと思う。

「やれって思うぞ、俺も」

 柊はもう一度繰り返した。そして灯を見る。

「その時、お前は何て答えたんだよ」
「それはまだ無理って必死になって頭ぶんぶん振った」

 ああ、想像がつく。

 柊は微妙な顔になって思った。大方、真っ赤な顔をしてあわあわとしていたのだろう。それを見ていた梓の心情を思うと微妙にならざるを得ない。恐らく、ひたすらかわいいと思っただろう。そして「また無防備に」とも思っただろう。

「キスとかされた?」
「な、な、何でっ? どこからそーなんだよ、されてないよ!」

 されてないのか、と柊はさらに微妙になる。

 ……まぁ、何だ。お疲れ、兄貴。

 告白と同時にキスという、柊からしたら光の速さで手を出した印象しかなかったが、意外にも梓は堪えているのかもしれない。
 柊にやたらと遠慮なんてつまらないことを無意識だろうがしてたくせに、梓は一見軽そうなところがある。過去にも何度か家に幾人かの彼女を連れ込んでた記憶はちゃんと柊の中に残っている。恐らく相手はいつも同じ歳だったような気がする。もっと昔だと年上っぽい人もいたかもしれない。
 相手が自分と同性の男だというのもあるだろうが、今までや告白をした時のように息をするかの如くサラリと手を出さないのは、多分灯の性格が一番大きいだろうなとは思う。それもあって、柊も梓が速攻キスをしでかしたと聞いた時は昔の彼女たちのことを知っていても驚いた。
 その上、梓は柊や灯と年齢にすれば三つしか変わらないが、年下というだけでなく大学生と高校生ではやはり少々勝手も違うのだろう。
 少しばかり同情していると灯が「でも二人でいると何か……いじわ……あ、いや、やっぱ何でもない」と赤い顔を逸らしながら言いかけて止めてきた。

 よし、クソ兄貴、とりあえずは暫くそのままひたすら我慢しやがれ。

 同情していたはずの柊は笑顔を固まらせつつ心の中で思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

はじまりの朝

さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。 ある出来事をきっかけに離れてしまう。 中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。 これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。 ✳『番外編〜はじまりの裏側で』  『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。

三ヶ月だけの恋人

perari
BL
仁野(にの)は人違いで殴ってしまった。 殴った相手は――学年の先輩で、学内で知らぬ者はいない医学部の天才。 しかも、ずっと密かに想いを寄せていた松田(まつだ)先輩だった。 罪悪感にかられた仁野は、謝罪の気持ちとして松田の提案を受け入れた。 それは「三ヶ月だけ恋人として付き合う」という、まさかの提案だった――。

【完結】俺とあの人の青い春

月城雪華
BL
 高校一年の夏、龍冴(りょうが)は二つ上の先輩である椰一(やいち)と付き合った。  けれど、告白してくれたにしては制限があまりに多過ぎると思っていた。  ぼんやりとした不信感を抱いていたある日、見知らぬ相手と椰一がキスをしている場面を目撃してしまう。  けれど友人らと話しているうちに、心のどこかで『椰一はずっと前から裏切っていた』と理解していた。  それでも悲しさで熱い雫が溢れてきて、ひと気のない物陰に座り込んで泣いていると、ふと目の前に影が差す。 「大丈夫か?」  涙に濡れた瞳で見上げると、月曜日の朝──その数日前にも件の二人を見掛け、書籍を落としたのだがわざわざ教室まで届けてくれたのだ──にも会った、一学年上の大和(やまと)という男だった。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

仮面王子は下僕志願

灰鷹
BL
 父親の顔は知らず、奔放な母のもとで育った渡辺響は、安定した職業に就くために勉強だけはずっと頑張ってきた。その甲斐あって有名進学校に進学できたものの、クラスメイトとは話題も合わず、ボッチキャラとして浮いていた。クラスの中で唯一、委員長の川嶋昴陽だけが響のことを気にかけてくれて、面倒見のよい彼に秘かに恋心を抱いていた。しかし、修学旅行の最終日に川嶋が隣で寝ていた朝倉にキスしようとしているところを目撃し、反射的にそれを写真に収めてしまう。写真を消せと川嶋に詰め寄られるが、怒りをあらわにした彼の態度に反発し――。女子から「王子」と呼ばれる人気者優等生×寂しさを抱えるボッチな茶髪男子、の失恋から始まるハートフル青春BL。   ※ アルファポリス様で開催されている『青春BLカップ』コンテストに応募しています。今回は投票制ではないですが、閲覧ポイントでランキングが変わるそうなので、完結後にまとめてではなくリアルタイムでお読みいただけると、めちゃくちゃ励みになります。 ※ 視点は攻め受け両方で章ごとに変わります。完結した作品に加筆してコンテスト期間中の完結を目指します。不定期更新。

ジャスミン茶は、君のかおり

霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。 大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。 裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。 困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。 その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。

処理中です...