絆の序曲

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39話

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 たまには家でゆっくり練習しようと梓が誘うと、灯は嬉しそうに「はい」と頷いていた。実際、家だと今のところ柊が必ず目を光らせているので当然何もできないし梓も一応今のところ何もするつもりない。だがそんなことを知る由もないはずの灯は相変わらず無防備だなと梓は苦笑する。
 もしくは完全に対象外過ぎて意識されていないとか、と考えてみたが「まあそれはないな」と即否定する。もちろん、好きだから意識してくれているという意味ではない。その辺は曖昧というか、灯はそこまで到達してくれてはまだいないだろう。
 ただ少なくとも梓が灯を好きだとはさすがに意識してくれているようだ。なので梓が「かわいい」と言うと非常に落ち着かない様子を見せてくれる。かわいい。
 そのわりに「家へおいで」と誘っても全然警戒しないんだよなあと苦笑せざるを得なかった。

「アズさん。どうしたら、アズさんみたいに綺麗に弾けるようになりますか?」

 週末、午前中にアルバイトを終えた灯が家へやってくると、さっそく梓は部屋へ連れてギターの練習を始めていた。もちろんそこには相変わらず柊もいる。
 梓にしてみても現状柊がいてくれたほうが助かるので、いつも予定を隠すことなく告げている。何が助かるかは言わずもがなだ。
 とりあえず、灯が梓を好きだと意識してくれた上で、もう少し成長というかせめて高校を卒業するくらいまでは自分の理性と戦いつつ手を出さないでいようと考えている。キスくらいはいいかなとは思っているが、それも告白の時はさておき、灯が梓の気持ちを受け入れてくれてからにしたい。

「ありがとうね。うーん、俺もまだまだだけど……そうだなぁ、かなり灯ちゃんも形になってきてるんだよ?」
「むしろ上手いだろ」

 ギターを弾かない柊にとっては灯の演奏を十分上手いと前から思っており、相変わらず控えめな灯が少々もどかしいようだ。

「う、上手くないよ」
「ねえ、灯ちゃん。やっぱり外で弾いてみるのがいいんじゃないかなあ。聴いてもらうことで自信もついてくるし、音も違うしな」
「そ、それはまだ無理!」

 梓の提案を聞いた途端、灯が真っ赤な顔で首を振ってきた。この間もそうだが、それはもう必死になって振ってくる。
 梓は少し口元を綻ばせたまま黙ってその様子を見ていた。

「? アズさん?」

 灯が怪訝そうに梓を見てくる。その横で柊も黙って梓を見ていた。

「まあ、無理には言わないよ。じゃあもう少し、俺と練習してから、ね」
「はい!」

 ホッとしつつ嬉しそうに灯が頷いてきた。

「……それから。そろそろ敬語、止めない?」
「あ、それは無理ですね」
「……そう」

 同じ流れでニコニコ「はい」と言ってくれないかと少し期待を込めてみたが、真顔で断られた。かわいいところをさらに沢山見せてくれるようになっても、頑固なところは健在なようだ。
 梓はそこそこショックだったりする。柊との関係のようにとまではいかなくとも、もう少し近くなれたらと思う。
 灯がトイレへ行った時、梓は「俺にも敬語なしで話して欲しい」と言えば「贅沢言うな」と柊に即答された。

「もっと深い関係になれば敬語、外してくれるかな」
「は? ざけんな、させるか」
「そんな睨みつけなくても俺も鬼じゃないんだから、今のこんな感じで灯ちゃんに無理やり何かしたりしないよ」
「まぁ、アイツのことだからずっとこんな感じかもな」

 柊がおかしそうに言ってくる。冗談のつもりだろうが、あまり笑えない。本当にその可能性がありすぎて笑えない。

「あー……、でもさ、さっきのはちょっとヤバかったかなあ」
「さっき?」
「うん。灯ちゃん、真っ赤な顔で首を振ってただろ、必死に」
「……あー……」

 柊が微妙な顔してきた。とはいえ恐らく肯定の意味だろう。

「な? ほんとかわいいんだから。でもあんな風にされるとさ」
「……何だよ」
「いじめてみたいって思ってしまうよな」
「はぁっ? おま……っ」

 何とも言えないおかしな顔を柊がしてきたところで灯が戻ってきた。

「どうかした?」
「何でもないよ」

 梓がニコニコ答えると、柊が「アカリ」と呼びかける。

「何?」

 少し笑みを浮かべたような表情で灯が座ると、柊が梓から離そうとしてきた。

「何、シュウ」

 さすがに怪訝そうになる灯に梓が苦笑していると、柊が微妙な顔を灯へ向けた。

「……アカリ。こいつ危険な顔してたから、絶対二人きりになるなよ」
「は?」

 灯は益々ポカンとしている。だが少ししてから「二人きり」という言葉に反応したのか「な、何言ってんだよ」と困ったような顔を赤らめていた。

 やっぱりかわいいよなぁ。

 梓はしみじみ思う。その分、どうにも手が出せないのだが。

 ……あと柊もかわいいよな。

 内心笑いながらついでに思った。

「柊はさておき、灯ちゃん」
「俺をさておくな」
「はい」
「アカリもスルーするな」
「柊も後で相手してあげるから」
「い、いらねえよ……!」

 ほんと、俺の弟もかわいいんだから。

 つい微笑むと、梓は続けた。

「灯ちゃん、とりあえずもう少ししたら俺との練習も控えなきゃでしょ」
「え……?」

 灯が少しショックを受けたような顔をする。その横で柊が「また会わないとか考えてんのか」といったムッとしたような顔をしている。この二人は結構呑気だなと梓は今度は苦笑した。

「忘れてる? 君ら受験生な」
「あー」
「あ」

 柊は忘れていたというよりはあまり念頭に置いていないといった風だが、灯は本当にうっかりしていたようだ。むしろ何となく灯も受験は大丈夫な気がしてきた。

「大丈夫そうなら何よりだけどね。とりあえず俺としてはそっち主に頑張って欲しいし、無事受験が終わってまた練習ちゃんと再開して、そして春になったら外で弾こうね」
「は、……ぃ」

 元気な様子で頷きかけた灯だが、外でという言葉に語尾が小さくなっていた。
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