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40話
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忘れていたわけではない。ないのだが、確かに灯は念頭になかった。ようやく梓とまたギターの練習ができるようになって嬉しかったのだ。嬉しくて、楽しくて、そしてうっかりしていた。
もちろん、勉強は日々変わらずこつこつやっている。そうしないとついていけなくなることはわかっているし、自分は要領がよくないのでまとめてドンと効率よくなんてできない。こつこつやるしかない。
「……受験……」
そう。ただ、うっかりしていたので受験勉強という気持ちで勉強していなかった。
「まぁ、もーすぐ冬休みだしな。そりゃ本番間近だわな」
昼休みに灯がボソリと呟くと、柊が他人事のように言ってきた。うっかりしていた灯が言うことではないが、何故そんなに他人事風なのだと思った後に「それはそうか」と気づいた。
柊はとても頭がいい。普段、勉強をがんばっているように見えないが、いつも試験の結果もとてもいい。
「それでいて運動もできるし背も高いし顔もいいとか詐欺だ……」
「何の話だよ」
思わず口にしていた灯に、柊が怪訝そうな表情を向けてきた。
「シュウの話!」
「なっ、何だよ……。つか受験の話じゃなかったのか?」
「受験の話だよ」
「どこが……? アカリ、大丈夫か?」
柊が今度は心配そうに灯を見てきた。自分の受験が他人事そうだというのに、灯に対してはやたら過保護な柊に、灯はつい吹き出す。
「アカリ、ほんと大丈夫か? 頭」
「って、頭の心配なのっ? 頭は正常だよ。確かにシュウみたいに賢くはないけどな」
「は? あー、別に俺もそんなに」
「賢くないとか言うなよな。アズさんと同じ大学、余裕なんだろ?」
「別にヨユーってわけじゃねーぞ。つかお前、頭いいだろ」
「俺は結構必死なの。にしても、中学ならわかるけど、同じ高校でも差が出るの、不思議だよね。でもシュウは高校受験、わりと適当だっただろ」
「失礼なこと言うな。俺も一応それなりにはやったぞ、多分」
普通は多分なんてつかないよと灯が苦笑していると、携帯電話の通知音に気づく。見れば梓からだった。
『そういえば、もしよかったら勉強するの手伝うから』
「アカリ? どーしたんだよ、何か顔、ニヤついてんぞ」
柊の言葉に灯はハッとなった。
「ニヤついてないけど」
「ニヤついてた」
「……ニヤついてない」
「ったく、お前はほんと変なとこ頑固だよな。で、何。れんちゃんのこととか?」
呆れたようにため息ついてくる柊が灯の携帯電話を指差してきた。
「あ、ううん。アズさん」
「あぁ?」
「ちょっとシュウ、何で急に柄悪くなんの」
今度は灯が呆れると、柊がムッとしたような顔をしてきた。
「なってねー。アイツ何言ってきたんだよ。んで何でお前ニヤついたわけ」
「だからニヤついてないってば。アズさんがね、勉強見てくれるっぽい」
ニヤついてはいなかったが、今は実際笑いながら灯は画面を柊に見せた。すると柊がその携帯電話を引ったくってくる。
「ちょ、何っ、スマホ返せ!」
取り返そうとする灯の手をいとも簡単に避けながら、柊は画面に何やら打ち込んでいる。
「勝手にっ、ちょ、シュウ!」
どうやら送信したらしい柊は何食わぬ顔で携帯電話を返してきた。画面を見ると『誰がお前なんかと。柊と仲よく勉強するからいらねえ』と入っている。そして既読がついている。
「シュ、シュ……ッ」
「何だよ、蛇の真似?」
「違っ」
違うと言いかけていると、また通知音が聞こえた。灯は慌てて画面を見る。
『柊、灯ちゃんのスマホ、勝手に弄るなよ。あとお前はお前で受験勉強勝手にしなさい。灯ちゃん、ちゃんと教えるからね』
「よ、よかった……怒ってない」
「ッチ」
舌打ちをしている柊を軽く睨むと、怯むどころか笑われた。
「シュウ! ほんともう……」
「まぁアイツがこんなで騙されるわけねーわな。でもアイツに勉強、教えて貰うってんなら俺も参加するからな」
「何で? シュウ、余裕なんじゃないの?」
「別にヨユーじゃねーってば。後、言ったろ、アイツと二人きりはヤバいから」
何を言っているのだと思いながらも灯の顔は熱くなる。そんな灯を見ながら柊がため息ついてきた。
「お前さー……あんなヤツに憧れてんのは知ってるけど……ほんとに好きとかねーの?」
「な、な、なん、何でっ」
確かに動揺したが、柊にジト目で見られて灯は思わず頭を馬鹿みたいに振っていた。
「おい、頭もげる」
「もげないよ!」
「もげないにしても、めまいはするだ……っほら、何やってんだお前は」
柊が言いかけている途中に実際クラクラした灯を柊が支えてきた。
「……ごめん、ありがとう」
「っあーもう。動揺し過ぎ」
「びっくりしたんだよ。……そりゃアズさんのことは好きだけど……でも」
梓のことは本当に好きだ。ただ、そういう好きなのかと問われたらやはり自信ない。そういう好きでもいいような気もする。しかし真面目に好きだと、そして返事を急がないと言ってくれている梓に対していい加減な対応をしたくなかった。
「あー……いい。別に無理に答えなくていいし、ゆっくり考えろ。俺が悪かった」
柊が降参、といった風に手を上げてきた。
「ううん、シュウは悪くないよ。俺がはっきりしないから……」
「いや、やっぱ好きとかそーゆーのは難しいと思うぞ、俺も……」
「そ、うかな……ありがとう、シュウ」
「お、おぅ」
「……でも勝手に返信するのはもう禁止だから。したらもう料理、教えないからな」
柊が料理を教えてくれと言ってきた時は本気で驚いたが、時間がある時にたまに灯は教えていた。
「マジかよごめんなさい!」
もちろん、勉強は日々変わらずこつこつやっている。そうしないとついていけなくなることはわかっているし、自分は要領がよくないのでまとめてドンと効率よくなんてできない。こつこつやるしかない。
「……受験……」
そう。ただ、うっかりしていたので受験勉強という気持ちで勉強していなかった。
「まぁ、もーすぐ冬休みだしな。そりゃ本番間近だわな」
昼休みに灯がボソリと呟くと、柊が他人事のように言ってきた。うっかりしていた灯が言うことではないが、何故そんなに他人事風なのだと思った後に「それはそうか」と気づいた。
柊はとても頭がいい。普段、勉強をがんばっているように見えないが、いつも試験の結果もとてもいい。
「それでいて運動もできるし背も高いし顔もいいとか詐欺だ……」
「何の話だよ」
思わず口にしていた灯に、柊が怪訝そうな表情を向けてきた。
「シュウの話!」
「なっ、何だよ……。つか受験の話じゃなかったのか?」
「受験の話だよ」
「どこが……? アカリ、大丈夫か?」
柊が今度は心配そうに灯を見てきた。自分の受験が他人事そうだというのに、灯に対してはやたら過保護な柊に、灯はつい吹き出す。
「アカリ、ほんと大丈夫か? 頭」
「って、頭の心配なのっ? 頭は正常だよ。確かにシュウみたいに賢くはないけどな」
「は? あー、別に俺もそんなに」
「賢くないとか言うなよな。アズさんと同じ大学、余裕なんだろ?」
「別にヨユーってわけじゃねーぞ。つかお前、頭いいだろ」
「俺は結構必死なの。にしても、中学ならわかるけど、同じ高校でも差が出るの、不思議だよね。でもシュウは高校受験、わりと適当だっただろ」
「失礼なこと言うな。俺も一応それなりにはやったぞ、多分」
普通は多分なんてつかないよと灯が苦笑していると、携帯電話の通知音に気づく。見れば梓からだった。
『そういえば、もしよかったら勉強するの手伝うから』
「アカリ? どーしたんだよ、何か顔、ニヤついてんぞ」
柊の言葉に灯はハッとなった。
「ニヤついてないけど」
「ニヤついてた」
「……ニヤついてない」
「ったく、お前はほんと変なとこ頑固だよな。で、何。れんちゃんのこととか?」
呆れたようにため息ついてくる柊が灯の携帯電話を指差してきた。
「あ、ううん。アズさん」
「あぁ?」
「ちょっとシュウ、何で急に柄悪くなんの」
今度は灯が呆れると、柊がムッとしたような顔をしてきた。
「なってねー。アイツ何言ってきたんだよ。んで何でお前ニヤついたわけ」
「だからニヤついてないってば。アズさんがね、勉強見てくれるっぽい」
ニヤついてはいなかったが、今は実際笑いながら灯は画面を柊に見せた。すると柊がその携帯電話を引ったくってくる。
「ちょ、何っ、スマホ返せ!」
取り返そうとする灯の手をいとも簡単に避けながら、柊は画面に何やら打ち込んでいる。
「勝手にっ、ちょ、シュウ!」
どうやら送信したらしい柊は何食わぬ顔で携帯電話を返してきた。画面を見ると『誰がお前なんかと。柊と仲よく勉強するからいらねえ』と入っている。そして既読がついている。
「シュ、シュ……ッ」
「何だよ、蛇の真似?」
「違っ」
違うと言いかけていると、また通知音が聞こえた。灯は慌てて画面を見る。
『柊、灯ちゃんのスマホ、勝手に弄るなよ。あとお前はお前で受験勉強勝手にしなさい。灯ちゃん、ちゃんと教えるからね』
「よ、よかった……怒ってない」
「ッチ」
舌打ちをしている柊を軽く睨むと、怯むどころか笑われた。
「シュウ! ほんともう……」
「まぁアイツがこんなで騙されるわけねーわな。でもアイツに勉強、教えて貰うってんなら俺も参加するからな」
「何で? シュウ、余裕なんじゃないの?」
「別にヨユーじゃねーってば。後、言ったろ、アイツと二人きりはヤバいから」
何を言っているのだと思いながらも灯の顔は熱くなる。そんな灯を見ながら柊がため息ついてきた。
「お前さー……あんなヤツに憧れてんのは知ってるけど……ほんとに好きとかねーの?」
「な、な、なん、何でっ」
確かに動揺したが、柊にジト目で見られて灯は思わず頭を馬鹿みたいに振っていた。
「おい、頭もげる」
「もげないよ!」
「もげないにしても、めまいはするだ……っほら、何やってんだお前は」
柊が言いかけている途中に実際クラクラした灯を柊が支えてきた。
「……ごめん、ありがとう」
「っあーもう。動揺し過ぎ」
「びっくりしたんだよ。……そりゃアズさんのことは好きだけど……でも」
梓のことは本当に好きだ。ただ、そういう好きなのかと問われたらやはり自信ない。そういう好きでもいいような気もする。しかし真面目に好きだと、そして返事を急がないと言ってくれている梓に対していい加減な対応をしたくなかった。
「あー……いい。別に無理に答えなくていいし、ゆっくり考えろ。俺が悪かった」
柊が降参、といった風に手を上げてきた。
「ううん、シュウは悪くないよ。俺がはっきりしないから……」
「いや、やっぱ好きとかそーゆーのは難しいと思うぞ、俺も……」
「そ、うかな……ありがとう、シュウ」
「お、おぅ」
「……でも勝手に返信するのはもう禁止だから。したらもう料理、教えないからな」
柊が料理を教えてくれと言ってきた時は本気で驚いたが、時間がある時にたまに灯は教えていた。
「マジかよごめんなさい!」
応援ありがとうございます!
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