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「何だとって……今、俺何か間違ったか?」
「間違いしかないだろ。そもそも恋愛したことないって何だよ。そりゃ確かに恋愛のエキスパートだとは言わないけどな、さすがに混同するわけないだろ。馬鹿なのか?」
馬鹿、いただきました。
結弦はムッとした顔を拓へ向けた。
「馬鹿って言うな。だって普通にそう思うだろうが」
馬鹿、の次はため息をいただいた。今の拓による言動からも「好き」だという感情は一切伝わってこない。拓がこちらを好きになるはずないという確信とも言える考えに対しての裏づけでしかない。
「今のお前だってさ、どう見たって俺が好きなように見えないし伝わってこねーけど」
「……確かに俺はあまり感情出ないとか無口とか言われるけど。にしても俺の近くにそれなりにいてわからないのか? 俺がケーキってだけでお前にあそこまでするようなやつだとお前は思ってるわけか」
あそこまで、が何を指すのかはすぐに理解した。味わうためのキスだけでなく、結弦に触れたり抜き合ったりしたことを言っているのだろう。
あれは……ケーキを味わう延長じゃなくてやっぱそういう……?
おかげで結弦はまた顔が熱くなった。
「そ、……んなの、わかんねえ、し」
「まあ、経験ないもんな」
「おい決めつけんなよ」
「それこそ馬鹿でもわかんだろ」
「……お前、ほんとに俺好きなの? そんなで?」
「そうだって言ってるだろ」
「……何で」
「何でって言われても。お前は理由がはっきりしてからでないと人を好きにならないのか? 不器用そうなのに器用なことだな」
「……ほんとお前、俺好き?」
愛がちっとも感じられねえ、とつい微妙な顔をしていると引き寄せられ、キスされた。
「って、いきなり食おうとすんな!」
「食う? いや、今のはお前が好きなのかってうるさいから」
「うるさいって何だよ……! ほんと好きなの……? あと、そんなでいきなりキスされる俺の身になれ」
「お前も俺が好きなんだからいいだろ」
「っ、は? な、何言ってんの? 決め、決めつ、つけんな。すっ、好きじゃねえわ!」
だいたい今まで自分の中でも拓が好きだなどと思ったことない。
だというのに当然のように言われたせいだろこんなの。
結弦はムキになって言い返した。だがこんな自分を好きだと言ってくれる人に対し、いくら普段好き勝手食ってくるようなやつでも強く言いすぎたかとハッとなり、おずおず拓を見上げる。そんな結弦に気づいた拓は、まるで馬鹿を見るような顔で笑みさえ浮かべてきた。
何その顔。どういう?
「は。そんなゆでだこみたいな顔で思いきり動揺して言われても」
「た、たこじゃねえ! し。あ、赤くなってんのはお前があまりに俺を小馬鹿にするから多分ムッとして……」
「はいはい。もういいからちょっと黙って」
また引き寄せられ、キスされた。いい加減にしろと突き飛ばしてもいいはずだが、もういいかと結弦はそのまま委ねた。
同じことの繰り返しだしそもそも普段からケーキとして食われているし、だからだ。
そう、だから。だってそうだろう? 俺は元々男に興味ないし。こいつのことだって、フォークでかわいそうだから、仕方なく食わせてやってるんだ。
食わせて……。
「好きだけど?」
ふと拓があまりに当たり前のように言ってきた言葉が浮かんだ。
当たり前のように……こいつが俺を、好き……、?
「お前、顔の皮膚の下燃えてんのかってくらい赤いけど」
「う、うるさい」
キスの合間に言われ、結弦は相変わらずムキになったまま言い返す。だが先ほどと今では、内心のうろたえぶりは雲泥の差で違う。
ケーキとしてフォークである拓を渋々受け入れてきて、やたら距離の近い拓がひたすら不可解なせいで、気づけば「なぜ」と拓のことばかり考える羽目になっていた。ひたすら受け入れてあげつつ謎過ぎてと思っていた。全然気づかなかった。
好きだと言われた。それが今、ようやく自分の中で消化されていって気づかされる。
俺……こいつのこと、もしかしてだいぶ好きなんじゃねえか……。っていうか何で俺が気づいてないのに、こいつが気づいてんの?
言いすぎたかとおずおず見上げた時、拓がドヤ顔していたのがやたら腹立たしい。拓に「お前も俺が好きなんだから」と当然のように言われたのが腹立たしい。結弦は自分のことですら全く自覚できていなかったのに、拓のほうは見透かすかのように把握していたことがとてつもなく腹立たしい。
腹立たしい、のにむず痒くてソワソワして。
「もうやだ……お前マジ嫌い……」
「はは」
嫌いという言葉を全く信用していないのか、少し乾いた小さな笑い声が聞こえた。もう一度嫌いだと言おうとしたが、キスで塞がれる。
「お前はキス、好きだよなあ」
何度もキスされ、息を荒げていると少し楽しげに言われた。
「好、きじゃ」
「はいはい。俺も、キスも、好きじゃないってな。気持ちいいこともか?」
「……き、じゃないし……」
何とか言い返すも、むしろ穏やかと言ってもいい笑みを浮かべられた。
「とりあえず、俺が近寄んなて言ったのにそれ聞かないばかりか安易に狙われた馬鹿に、仕置きは必要だよな」
「……は? 何でだよ。不可抗力だし、だいたい結崎さんはフォークじゃねえってば」
「ほんとお前は。俺以外の男に言い寄られてんじゃないぞって言ってんだよ。まあいい」
「言い寄……って、またまあいい、かよ!」
「ああ、まあいい。何度言っても馬鹿なのか、わからないんだから、体に教え込む」
「また馬鹿って……っつかお前はおやじかよ……!」
この日、とうとう、初めて、結弦は後ろを侵食された。指だけでなく拓のものが自分の尻穴に入るというあり得ない事態に、痛みや怖さよりも動揺が半端なかった。だがそれだけでなく羞恥心に隠れて主張してくる自分の本心に、何とか口元が緩まないよう尻以上に気を使う羽目になった。
「間違いしかないだろ。そもそも恋愛したことないって何だよ。そりゃ確かに恋愛のエキスパートだとは言わないけどな、さすがに混同するわけないだろ。馬鹿なのか?」
馬鹿、いただきました。
結弦はムッとした顔を拓へ向けた。
「馬鹿って言うな。だって普通にそう思うだろうが」
馬鹿、の次はため息をいただいた。今の拓による言動からも「好き」だという感情は一切伝わってこない。拓がこちらを好きになるはずないという確信とも言える考えに対しての裏づけでしかない。
「今のお前だってさ、どう見たって俺が好きなように見えないし伝わってこねーけど」
「……確かに俺はあまり感情出ないとか無口とか言われるけど。にしても俺の近くにそれなりにいてわからないのか? 俺がケーキってだけでお前にあそこまでするようなやつだとお前は思ってるわけか」
あそこまで、が何を指すのかはすぐに理解した。味わうためのキスだけでなく、結弦に触れたり抜き合ったりしたことを言っているのだろう。
あれは……ケーキを味わう延長じゃなくてやっぱそういう……?
おかげで結弦はまた顔が熱くなった。
「そ、……んなの、わかんねえ、し」
「まあ、経験ないもんな」
「おい決めつけんなよ」
「それこそ馬鹿でもわかんだろ」
「……お前、ほんとに俺好きなの? そんなで?」
「そうだって言ってるだろ」
「……何で」
「何でって言われても。お前は理由がはっきりしてからでないと人を好きにならないのか? 不器用そうなのに器用なことだな」
「……ほんとお前、俺好き?」
愛がちっとも感じられねえ、とつい微妙な顔をしていると引き寄せられ、キスされた。
「って、いきなり食おうとすんな!」
「食う? いや、今のはお前が好きなのかってうるさいから」
「うるさいって何だよ……! ほんと好きなの……? あと、そんなでいきなりキスされる俺の身になれ」
「お前も俺が好きなんだからいいだろ」
「っ、は? な、何言ってんの? 決め、決めつ、つけんな。すっ、好きじゃねえわ!」
だいたい今まで自分の中でも拓が好きだなどと思ったことない。
だというのに当然のように言われたせいだろこんなの。
結弦はムキになって言い返した。だがこんな自分を好きだと言ってくれる人に対し、いくら普段好き勝手食ってくるようなやつでも強く言いすぎたかとハッとなり、おずおず拓を見上げる。そんな結弦に気づいた拓は、まるで馬鹿を見るような顔で笑みさえ浮かべてきた。
何その顔。どういう?
「は。そんなゆでだこみたいな顔で思いきり動揺して言われても」
「た、たこじゃねえ! し。あ、赤くなってんのはお前があまりに俺を小馬鹿にするから多分ムッとして……」
「はいはい。もういいからちょっと黙って」
また引き寄せられ、キスされた。いい加減にしろと突き飛ばしてもいいはずだが、もういいかと結弦はそのまま委ねた。
同じことの繰り返しだしそもそも普段からケーキとして食われているし、だからだ。
そう、だから。だってそうだろう? 俺は元々男に興味ないし。こいつのことだって、フォークでかわいそうだから、仕方なく食わせてやってるんだ。
食わせて……。
「好きだけど?」
ふと拓があまりに当たり前のように言ってきた言葉が浮かんだ。
当たり前のように……こいつが俺を、好き……、?
「お前、顔の皮膚の下燃えてんのかってくらい赤いけど」
「う、うるさい」
キスの合間に言われ、結弦は相変わらずムキになったまま言い返す。だが先ほどと今では、内心のうろたえぶりは雲泥の差で違う。
ケーキとしてフォークである拓を渋々受け入れてきて、やたら距離の近い拓がひたすら不可解なせいで、気づけば「なぜ」と拓のことばかり考える羽目になっていた。ひたすら受け入れてあげつつ謎過ぎてと思っていた。全然気づかなかった。
好きだと言われた。それが今、ようやく自分の中で消化されていって気づかされる。
俺……こいつのこと、もしかしてだいぶ好きなんじゃねえか……。っていうか何で俺が気づいてないのに、こいつが気づいてんの?
言いすぎたかとおずおず見上げた時、拓がドヤ顔していたのがやたら腹立たしい。拓に「お前も俺が好きなんだから」と当然のように言われたのが腹立たしい。結弦は自分のことですら全く自覚できていなかったのに、拓のほうは見透かすかのように把握していたことがとてつもなく腹立たしい。
腹立たしい、のにむず痒くてソワソワして。
「もうやだ……お前マジ嫌い……」
「はは」
嫌いという言葉を全く信用していないのか、少し乾いた小さな笑い声が聞こえた。もう一度嫌いだと言おうとしたが、キスで塞がれる。
「お前はキス、好きだよなあ」
何度もキスされ、息を荒げていると少し楽しげに言われた。
「好、きじゃ」
「はいはい。俺も、キスも、好きじゃないってな。気持ちいいこともか?」
「……き、じゃないし……」
何とか言い返すも、むしろ穏やかと言ってもいい笑みを浮かべられた。
「とりあえず、俺が近寄んなて言ったのにそれ聞かないばかりか安易に狙われた馬鹿に、仕置きは必要だよな」
「……は? 何でだよ。不可抗力だし、だいたい結崎さんはフォークじゃねえってば」
「ほんとお前は。俺以外の男に言い寄られてんじゃないぞって言ってんだよ。まあいい」
「言い寄……って、またまあいい、かよ!」
「ああ、まあいい。何度言っても馬鹿なのか、わからないんだから、体に教え込む」
「また馬鹿って……っつかお前はおやじかよ……!」
この日、とうとう、初めて、結弦は後ろを侵食された。指だけでなく拓のものが自分の尻穴に入るというあり得ない事態に、痛みや怖さよりも動揺が半端なかった。だがそれだけでなく羞恥心に隠れて主張してくる自分の本心に、何とか口元が緩まないよう尻以上に気を使う羽目になった。
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