ヴェヒター

Guidepost

文字の大きさ
68 / 203
3Wednesday

27

しおりを挟む
「風紀の分のさー、会計資料ちょっと風紀に持ってくわ」

 今まで必死になって作ったデータをUSBメモリに入れ、青葉はさりげなさを装って立ち上がった。

「……いってらっしゃぁい」

 雑誌を読んでいた睦はじっと青葉を見た後にニヤリと笑いながら手を振ってきた。その表情に少しだけうっとなりながら、青葉は何でもない風を装って隣の部屋へ向かう。
 自分の気持ちはまだ睦に言ってなかった。だからバレていないはず、と内心言い聞かせる。

「基久せんぱーい。これー」

 相変わらずな態度で、机に座って何らかの入力していた基久に対して、青葉は無造作にUSBメモリを渡した。

「何、これ? っていうか青葉、何でそんな顔赤いんだ?」
「はっ? あ、赤くねぇよ! 基久先輩、委員長のくせにいい加減なこと言うなよな!」
「委員長関係ないと思うんだけどな。で、これ何?」
「そっちの会計データ! いるでしょ」
「ああ。そっか、ありがとう」

 何だろうという顔でUSBメモリを見ていた基久が、ニッコリ笑いながら礼を言ってくる。その様子は本当に裏もなく、あっけらかんと明るい。

 ……慶一くんも、もし男とつき合うとしてもこういう爽やかなイケメンのがやっぱいいかな。俺みたいに性格悪いのは絶対無理かな。……っていやいや、俺諦めるつもりだよね?

 青葉がふるふる頭を振ると、慶一の姿が見えた。急に頭を振ってきて「どうしたの」とポカンと聞いてくる基久を無視し、青葉はそっと慶一の様子を窺う。
 慶一も何やら資料でも作成しているのか、じっとパソコンを見ながらキーボードをひたすら叩いている。いつも無表情なので特に変わった様子はないが、それでもひたすら仕事をしている慶一を見て青葉は少し俯きながら口元を緩めた。

「ほんとどうしたんだ?」

 するとまた基久が聞いてくる。

「な、んでもねーし。とりあえず基久先輩、渡したからねー」

 ムッとした顔しながら青葉は言い返すと、また生徒会室のほうへ戻った。

「おかえりー、あお。……慶一くん、いた?」

 席へ戻ると隣の睦が頬杖つきながらニヤニヤ聞いてくる。

「はっ? え? あ、え、えっとい、いた」

 見てないと言えばよかったものを、つい正直に答えてしまう。こればかりは性格なのかもしれないと青葉は自分が微妙になる。性格が悪いのは自覚しているが、嘘はどうにも苦手だった。とはいえ睦に「慶一が好きだ」と言うつもりないし、できればどうしようもなくなる前に諦める予定ではある。

「へぇ。後でじゃあ拉致して楽しんでこよーかなー」

 睦がニコニコ青葉を見てきた。

「……あんま変なことばっかしてたら好きになってもらえねーんじゃねーの?」
「えー? 別に変なことしてねーでしょ? 気持ちいーことしかしてねーじゃん今までも」
「……そーなんだけどさー」
「そー言うならあおも一緒にしなよ。んで俺が変なことしねーよーに見張ればいーんじゃね?」
「……俺は……もーしねーし……」

 ニッコリ言われ、青葉は少し俯きつつ顔をそらしながら呟いた。

「何で?」
「何で……、って。……むつ好きなんでしょ? なのによく俺誘うよね?」
「だって楽しーほーがいーじゃん」
「……慶一くんが楽しくないよ……きっと」
「……は? ……あお、何言ってんの? らしくねーよね」
「別に……俺は俺だし。つか興味ねーの! そんだけ!」

 青葉は言い放つとまた立ち上がり、再度生徒会室を出て行った。風紀室も横切って廊下に出る時、たまたまだが慶一と目が合った。そのまま構わず廊下へ出ると、しばらく歩き続けてから青葉はその場に蹲った。
 耳が熱い。慶一と目が合っただけだというのに、心臓がというよりもはや内臓がおかしい。気持ち悪さすら覚え、青葉は蹲ったまま口を押さえる。

「……しんぞー、口から出るんかも」

 それくらい気持ち悪い。ドキドキを通り越してドンドンと打ちつけてくる心臓のせいで流れている血液までも脈打っている感じがする。さすがに自分でもちょっとおかしいのではないかと思った。
 今までさんざんいたぶり、からかい、そして犯した相手に対して今さら何これ、と呆れる。

 目が合っただけなんだけど!

 それでもやっぱり嬉しかった。別に気持ちが通じ合っているわけでもないし向こうは下手したら青葉と認識すらしてなかったかもしれない。目が合ったと青葉が思い込んでいるだけで、たまたま青葉の方向を見ただけなのかもしれない。それだというのに「合った」ということが嬉しくて堪らない。

 ……好きって、ヤバくね……?

 ようやく立ち上がると青葉は息を吸い込み、思いきり吐き出した。
 情けないが恐らく自分にとってこれは初恋だ。高校に入って初めてなど、本気で微妙になりそうだが仕方ない。

 ……そして自覚した途端失恋だけどな。

 歩きながら青葉は微妙な顔して思う。散々弄んだ青葉のことを慶一が好きなわけないというだけでなく、諦めなければならない。
 普通に考えると諦めるほうがおかしいのかもしれない。いくら兄も同じ相手が好きなのだとしても、だったら競い合えばいいのかもしれない。
 でも、と青葉は少し俯いた。
 睦のことも好きなのだ。もちろん慶一に対して抱いている気持ちとは全く違う。恋愛として好きなのではない。

 大切な身内として好き。

 小さい頃からいつも一緒にいてくれて、おもしろいことたくさん教えてくれて、かわいがってくれた睦が好きだし、青葉はまだ慶一への気持ちを自覚しだしたところだ。恐らく睦は前から好きだったのだろう。だったら自分が諦めるほうが妥当な気がした。

 大丈夫、諦められる。そこまで好きじゃない。

 すたすた歩きながら、青葉は内心自分に言い聞かせた。
 少し胸は痛んだ。少しではあるが、ちくりといった感じではなくジクジクした痛みだ。まるで化膿でもしそうな、悪化しそうな痛みのようで青葉は自分に舌打ちする。

「……キメェんだよ、俺」

 最近ちゃんとセックスしていないからかもしれない。ずっとそういうことしてなくて、ようやく慶一と二人きりになった時も結局慶一を手でイかせただけだった。
 青葉は柔道部が練習しているであろうグラウンド側の武道館へ向かう。

「北條、何か用?」

 柔道部にいる友人が青葉に気づき、声かけてきた。

「セックスしてねーんだよね……」
「は? え、ちょ、何の話だよ? そんな不健全なこと健全にスポーツしてる俺らに持ち込んでくんなよ、つか風紀が何言ってんだよ……」
「ちげーし。別にお前らに突っ込みたいなんて思ってねーし。いいからイケメン何人か貸してよ。組敷きてーし」
「発言がもうアウトだろ!」
「うるせーな。知ってんだろ、俺いい練習相手になるよ? 変なことはしねーよ。でも遠慮なく投げるけどね」

 セックス以外にも発散方法はある。スポーツは嫌いじゃない。好きだ。
 青葉は柔道着を友人に借りると、その場で着替え始めて周りの数名を赤くさせつつ友人には叱られた。

「ちょー投げてあげるから、来て?」

 青葉はいつものように人を見下すかのような笑みを浮かべ、掌を上に向けると指を手前に曲げて柔道部員を挑発した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

義兄が溺愛してきます

ゆう
BL
桜木恋(16)は交通事故に遭う。 その翌日からだ。 義兄である桜木翔(17)が過保護になったのは。 翔は恋に好意を寄せているのだった。 本人はその事を知るよしもない。 その様子を見ていた友人の凛から告白され、戸惑う恋。 成り行きで惚れさせる宣言をした凛と一週間付き合う(仮)になった。 翔は色々と思う所があり、距離を置こうと彼女(偽)をつくる。 すれ違う思いは交わるのか─────。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

学校一のイケメンとひとつ屋根の下

おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった! 学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……? キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子 立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。 全年齢

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

処理中です...