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4Thursday
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「永久っ?」
驚いている三里を気持ちいいくらい無視しながら、永久は三年へ顔を向ける。
「申し訳ないんですがこれから会議がありますんで」
「え、あ」
淡々と冷たい声で言い放つ永久に、三年が圧倒されている。しかし腕を離す様子が見られない。三里が試しにぶんぶんと振ってみたが離れない。
するとまた嫌そうにため息ついた後で、永久が軽く手を伸ばして三年の手首を持った。途端、力を入れている様子はないというのに「っいっ?」と何やら叫んだ後、三年が手をようやく離してきた。
「失礼しました。……ほら、行きますよ……佐田先輩……」
いつもなら絶対に「先輩」とすら呼んできたことのない永久が、とてつもなく嫌そうではあるが名前を呼びながら三里を促してきた。
「お、おぅ」
「……あと、警告しておきますが例え妙なつもりがなくとも、相手が断ったら無理強いはしないことです。お名前はデータを調べたらわかりますんで覚えておいてください」
立ち去る前に永久は冷たく三年に言い放っていた。三里は永久の後に続きながら「な、なあ」と話しかける。だが永久は返事することなくさっさと階段へ向かった。三里もとりあえずは一旦黙って後に続くが、階段を上っている途中でまた声をかけた。
「なあ、永久ってば!」
「……何です」
名前まで呼ぶとさすがに無視はしないようで、永久は足を止めることなく渋々といった様子で返事してくる。
「いや、何つーか、その、あれ。サンキューな」
「……いえ」
三里が礼を伝えるも一言だけ呟いた後でまた永久は黙った。
「つか、何でお前あんなとこいたんだよ」
「……アンタは黙るということができないんですか」
「あ? あーできねぇな。何でだろって思ったから仕方ねーだろ。気になんだろが。何であんなとこいたんだとか、何で嫌いな俺助けてくれたんだとか」
一旦階段の踊り場へ来ると、永久はため息つきながら立ち止り、三里を振り返ってきた。
「アンタほんと、何か煩いです」
「ぁあ?」
「……俺は所用で五階にいたんです。そして階段で移動しようとしていたらアンタの声が否応なしに聞こえてきたんですよ。多分階段があったから余計聞こえやすかったのかもですが。だからあの場に出向けたんです」
「あ、そう……」
そんなに声、でかかったのかと三里が微妙な顔をしていると永久が鼻で笑ってきた。
「何ていうか、ほんと馬鹿ですよね」
「んだとっ?」
「だいたいあんなの一人追い払えないなら一人で三年のフロアなんて歩かないことです」
冷たく言い放つと、永久は歩きだそうとした。三里はすかさず永久の腕をつかむ。
「ちょ、まだ話してんだろーが」
そう言うも、とてつもなく冷たい視線を送られたので、三里は思わずぱっと手を離して降参のポーズをとる。
ため息つきながら永久は「……何です」と呟いてきた。相変わらず好かれるどころか一歩たりとも永久が「嫌い」という位置から進んでないのがとてもよくわかり、三里は微妙な顔する。助けてくれた気がしたので、少しは三里に対しての感情がマシになったかと思ったのだが、気のせいだったようだ。
とはいえ、何が何でも好かれてやると思ってから特に努力してもいない。
そりゃ永久の感情が変わるわけないか。
内心苦笑しつつ、三里は口を開いた。
「いやまあ、何で五階にいたのかは別にいーけどよ、何つーの、何であれだよ、嫌いだっつー俺助けてくれたんだよ」
「生徒会、いえ風紀の者なら誰でもあの場は何らかのアクションを起こしていたと思いますが」
「あ、ですよねー……」
永久の言葉を聞いて三里は何ともいえない顔になる。聞いてみれば、何でもヘッタクレもなかった。いくら嫌いでも真面目な永久なら、生徒会の一員としてああいう場面は見過ごさないだろう。
ただ何となくつまらない気がしてムッとした顔で少し俯いていると「……アンタは何であんなところにいたんです」と言われた。三里はポカンとしながら永久を見る。
「……何です?」
その表情に気づいた永久が少しイライラした様子で聞いてくる。
「え、いや、だってお前がそーゆーこと聞いてくんの、珍しくねぇか?」
「そうです? まあどうしても知りたいわけでもないので、じゃあ結構です」
実際どうでもよさそうに言うと、永久は今度こそ踊り場から階段を上り始めた。
「クソ、ちょっとは歩み寄ろうとしろよ!」
「何のために」
「同じ生徒会メンバーってだけじゃなく見回りメンバーでもあんだぞ。だいたいテメェそんなじゃ大人げねぇだろが!」
「アンタにだけは大人げないと言われたくないですね」
二人は言い合いながら階段を上る。
「るせぇな! ……あれだ、食堂出てエレベーター乗ったら、何かめっちゃ喧嘩してるカップルが一緒に乗ってきたんだよ!」
「は? 何の話です」
「あんなとこにいた理由だよ! すげぇ落ちつかねえから途中で降りるしかなかったんだよな。んでエレベーター待つよりは階段使おって思って歩いてたら変なヤツに絡まれたんだっつーの」
そこまで言うと三里は永久を見た。永久はほんの少しだけ唖然としたような顔した後、生ぬるい目で三里を見返してくる。
「……アンタ、どこまで間が悪い人なんですかね……」
「は?」
三里がムッとした顔するも、永久は今度こそ一人でスタスタと階段を上っていった。
「ちょ、待てよ……」
「もう待つ意味ありませんよね? ……アンタもいい加減さっさと歩いたらどうです」
永久の声は相変わらず冷たい。それでも何となくだが、以前よりは完全なる拒否という感じがほんの少しではあるものの薄れている気がした。だがポカンとしていると、気にすることなく本当にさっさと上っていく永久に「……やっぱ気のせいか」と口を引きつらせる。
何となく一瞬、前までの永久だったらまず待ってくれたかどうかも怪しい上に、例え待って話をしたり聞いてくれたとしてもその後何も言うことなくさっさと歩いていた気がしたのだ。ましてや三里に「アンタも歩いたらどうです」なんて言ってこなかった気もする。
だがもう一度考えると気のせいかもしれないとも思える。三里は人づきあいが上手くないが、別にそれに対して悲観にくれることもないし基本的に発想は前向きと言うと聞こえがいいが、要は物事に拘らないというか適当だ。だから永久が変わっている気がしたのも多分自分の楽観的な発想のようにも思えるし、結局のところ前と比べてどうなのか違いを口にできるほど明確にわかってはない。あくまでひたすら「気がする」だけだ。
だけだが、どう思おうが自分の中では何となく気分が上昇する。自分でもよくわからないが、ほんのり嬉しく思えてくる。
永久がやたらめったら三里を嫌ってくるからこちらも嫌いだと思っているだけで、元々三里は永久を嫌いになる原因が特にない。なので「とてつもなく最高に嫌い」から「かなり嫌い」であろうが少しでも永久の嫌い度数がマシになっていると思えると、例え気のせいだろうが恐らく嬉しいのだろう。
あれ? 俺、安くね?
ふとそんな風に思ったが、まあいいかと三里も階段を上り始めた。
三里の脳内でのみだが、何が何でも好かれてやる宣言をしている以上、何らかのアクションを起こせればいいのだろう。だがよくよく考えなくとも正直今までちゃんと誰かとつき合ったことは数えるほどしかない。おまけに人づきあいが下手だというのに、一体どうしようと思ってそんな宣言を例え自分の脳内だけであれ行ったのか、改めて自分で自分がよくわからない。簡単に好かれるものなら自分で「社交性がない」などと自覚していないだろう。
チャラく見えるかどうかは結局不明だが、とりあえずその他一般の生徒にはある程度好かれている気はする。だがそれはやはり外見に興味を持たれているのではないかと思える。
永久は外見どころか三里が大嫌いだ。そんな状態の、それも同性からどうしたら好かれるのかなどさっぱりわからない。それでもとりあえず宣言だけはいつも心に留めておこう、などと三里はまた新たな目標を自分に掲げた。
驚いている三里を気持ちいいくらい無視しながら、永久は三年へ顔を向ける。
「申し訳ないんですがこれから会議がありますんで」
「え、あ」
淡々と冷たい声で言い放つ永久に、三年が圧倒されている。しかし腕を離す様子が見られない。三里が試しにぶんぶんと振ってみたが離れない。
するとまた嫌そうにため息ついた後で、永久が軽く手を伸ばして三年の手首を持った。途端、力を入れている様子はないというのに「っいっ?」と何やら叫んだ後、三年が手をようやく離してきた。
「失礼しました。……ほら、行きますよ……佐田先輩……」
いつもなら絶対に「先輩」とすら呼んできたことのない永久が、とてつもなく嫌そうではあるが名前を呼びながら三里を促してきた。
「お、おぅ」
「……あと、警告しておきますが例え妙なつもりがなくとも、相手が断ったら無理強いはしないことです。お名前はデータを調べたらわかりますんで覚えておいてください」
立ち去る前に永久は冷たく三年に言い放っていた。三里は永久の後に続きながら「な、なあ」と話しかける。だが永久は返事することなくさっさと階段へ向かった。三里もとりあえずは一旦黙って後に続くが、階段を上っている途中でまた声をかけた。
「なあ、永久ってば!」
「……何です」
名前まで呼ぶとさすがに無視はしないようで、永久は足を止めることなく渋々といった様子で返事してくる。
「いや、何つーか、その、あれ。サンキューな」
「……いえ」
三里が礼を伝えるも一言だけ呟いた後でまた永久は黙った。
「つか、何でお前あんなとこいたんだよ」
「……アンタは黙るということができないんですか」
「あ? あーできねぇな。何でだろって思ったから仕方ねーだろ。気になんだろが。何であんなとこいたんだとか、何で嫌いな俺助けてくれたんだとか」
一旦階段の踊り場へ来ると、永久はため息つきながら立ち止り、三里を振り返ってきた。
「アンタほんと、何か煩いです」
「ぁあ?」
「……俺は所用で五階にいたんです。そして階段で移動しようとしていたらアンタの声が否応なしに聞こえてきたんですよ。多分階段があったから余計聞こえやすかったのかもですが。だからあの場に出向けたんです」
「あ、そう……」
そんなに声、でかかったのかと三里が微妙な顔をしていると永久が鼻で笑ってきた。
「何ていうか、ほんと馬鹿ですよね」
「んだとっ?」
「だいたいあんなの一人追い払えないなら一人で三年のフロアなんて歩かないことです」
冷たく言い放つと、永久は歩きだそうとした。三里はすかさず永久の腕をつかむ。
「ちょ、まだ話してんだろーが」
そう言うも、とてつもなく冷たい視線を送られたので、三里は思わずぱっと手を離して降参のポーズをとる。
ため息つきながら永久は「……何です」と呟いてきた。相変わらず好かれるどころか一歩たりとも永久が「嫌い」という位置から進んでないのがとてもよくわかり、三里は微妙な顔する。助けてくれた気がしたので、少しは三里に対しての感情がマシになったかと思ったのだが、気のせいだったようだ。
とはいえ、何が何でも好かれてやると思ってから特に努力してもいない。
そりゃ永久の感情が変わるわけないか。
内心苦笑しつつ、三里は口を開いた。
「いやまあ、何で五階にいたのかは別にいーけどよ、何つーの、何であれだよ、嫌いだっつー俺助けてくれたんだよ」
「生徒会、いえ風紀の者なら誰でもあの場は何らかのアクションを起こしていたと思いますが」
「あ、ですよねー……」
永久の言葉を聞いて三里は何ともいえない顔になる。聞いてみれば、何でもヘッタクレもなかった。いくら嫌いでも真面目な永久なら、生徒会の一員としてああいう場面は見過ごさないだろう。
ただ何となくつまらない気がしてムッとした顔で少し俯いていると「……アンタは何であんなところにいたんです」と言われた。三里はポカンとしながら永久を見る。
「……何です?」
その表情に気づいた永久が少しイライラした様子で聞いてくる。
「え、いや、だってお前がそーゆーこと聞いてくんの、珍しくねぇか?」
「そうです? まあどうしても知りたいわけでもないので、じゃあ結構です」
実際どうでもよさそうに言うと、永久は今度こそ踊り場から階段を上り始めた。
「クソ、ちょっとは歩み寄ろうとしろよ!」
「何のために」
「同じ生徒会メンバーってだけじゃなく見回りメンバーでもあんだぞ。だいたいテメェそんなじゃ大人げねぇだろが!」
「アンタにだけは大人げないと言われたくないですね」
二人は言い合いながら階段を上る。
「るせぇな! ……あれだ、食堂出てエレベーター乗ったら、何かめっちゃ喧嘩してるカップルが一緒に乗ってきたんだよ!」
「は? 何の話です」
「あんなとこにいた理由だよ! すげぇ落ちつかねえから途中で降りるしかなかったんだよな。んでエレベーター待つよりは階段使おって思って歩いてたら変なヤツに絡まれたんだっつーの」
そこまで言うと三里は永久を見た。永久はほんの少しだけ唖然としたような顔した後、生ぬるい目で三里を見返してくる。
「……アンタ、どこまで間が悪い人なんですかね……」
「は?」
三里がムッとした顔するも、永久は今度こそ一人でスタスタと階段を上っていった。
「ちょ、待てよ……」
「もう待つ意味ありませんよね? ……アンタもいい加減さっさと歩いたらどうです」
永久の声は相変わらず冷たい。それでも何となくだが、以前よりは完全なる拒否という感じがほんの少しではあるものの薄れている気がした。だがポカンとしていると、気にすることなく本当にさっさと上っていく永久に「……やっぱ気のせいか」と口を引きつらせる。
何となく一瞬、前までの永久だったらまず待ってくれたかどうかも怪しい上に、例え待って話をしたり聞いてくれたとしてもその後何も言うことなくさっさと歩いていた気がしたのだ。ましてや三里に「アンタも歩いたらどうです」なんて言ってこなかった気もする。
だがもう一度考えると気のせいかもしれないとも思える。三里は人づきあいが上手くないが、別にそれに対して悲観にくれることもないし基本的に発想は前向きと言うと聞こえがいいが、要は物事に拘らないというか適当だ。だから永久が変わっている気がしたのも多分自分の楽観的な発想のようにも思えるし、結局のところ前と比べてどうなのか違いを口にできるほど明確にわかってはない。あくまでひたすら「気がする」だけだ。
だけだが、どう思おうが自分の中では何となく気分が上昇する。自分でもよくわからないが、ほんのり嬉しく思えてくる。
永久がやたらめったら三里を嫌ってくるからこちらも嫌いだと思っているだけで、元々三里は永久を嫌いになる原因が特にない。なので「とてつもなく最高に嫌い」から「かなり嫌い」であろうが少しでも永久の嫌い度数がマシになっていると思えると、例え気のせいだろうが恐らく嬉しいのだろう。
あれ? 俺、安くね?
ふとそんな風に思ったが、まあいいかと三里も階段を上り始めた。
三里の脳内でのみだが、何が何でも好かれてやる宣言をしている以上、何らかのアクションを起こせればいいのだろう。だがよくよく考えなくとも正直今までちゃんと誰かとつき合ったことは数えるほどしかない。おまけに人づきあいが下手だというのに、一体どうしようと思ってそんな宣言を例え自分の脳内だけであれ行ったのか、改めて自分で自分がよくわからない。簡単に好かれるものなら自分で「社交性がない」などと自覚していないだろう。
チャラく見えるかどうかは結局不明だが、とりあえずその他一般の生徒にはある程度好かれている気はする。だがそれはやはり外見に興味を持たれているのではないかと思える。
永久は外見どころか三里が大嫌いだ。そんな状態の、それも同性からどうしたら好かれるのかなどさっぱりわからない。それでもとりあえず宣言だけはいつも心に留めておこう、などと三里はまた新たな目標を自分に掲げた。
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