ヴェヒター

Guidepost

文字の大きさ
154 / 203
5Friday

19 ※

しおりを挟む
 瑠生はひたすら不機嫌だった。
 あの後皆の前へ戻ると、宏が近づいてきて楽しげに「どうだった?」と聞いてくる。

「……黄馬は出場させませんから」

 感想についてはスルーしながら瑠生がハッキリと告げると、宏はがっかりした顔をする。

「……黄馬なら優勝も考えられそうなのにねえ」
「駄目です」
「じゃあ瑠生が出る?」

 ニコニコ言われ、瑠生はグッと声を詰まらせた。
 正直出たくない。先ほどは渋々やりますと言ったが、今ももちろん化粧を含め女装だってしたくない。だが黄馬を、あの化粧した黄馬を皆に晒すことを思えば大したことないと心を決めた。

「俺が出ますから、黄馬は出ません」
「……了解。ちょうどね、君たちが出ていった後に誰を出場させるかって話してたんだ。君たちは保留にして。一応三人ということで絞ろうとしてたんだけど難しいね? とりあえず候補は俺と慶一、永久。そしてここにいない拓実。あとは瑠生ね」

 いやそれだけ候補いたら別に俺は必要じゃなくないか……?

 思わず頭にそう浮かんだが、何ごともきちんとしておきたいと思っている宏をわかっているので口にせず、黙って頷く。

「日を開けて、今度は拓実がいる時にもう一度皆で並んで決めようかなって思ってるよ。瑠生もその時は女装、してね」

 ニッコリ言われ、やはり頷くしかできなかった。
 他のメンバーの中で楽しんでいる者がすればいいと思ったりするのだが、候補の中で楽しみそうなのは宏くらいだろう。そして宏は恐らく出ないと瑠生は踏んでいる。本人は出ることになっても嫌がらないどころか普通に楽しむだろうが、千鶴が決して許さないとしか思えなかった。
 その後ムッとしたまま黄馬を自室へ連れ込んだわけだが、ひたすら不機嫌なままの瑠生に、黄馬は「機嫌、直してくれないかな」と気がかりそうに見てきた。

「……黄馬としてもある意味やらされてただろうから不機嫌になっていいことじゃないのはわかってる」

 瑠生はボソリと呟く。

「でもあんな姿を他のヤツに見せてると思うと落ち着かないから、無理」

 ふいっと顔を逸らすと、黄馬が困ったように近づいてきた。

「……じゃあどうすれば機嫌、直してくれる?」
「……キスして」

 黙った後にまたボソリと呟くと、少しだけ息を飲む音が聞こえてきた。だがすぐに黄馬がおずおず、瑠生の頬にキスしてきた。
 普段黄馬からしてくれることなど皆無といっても過言ではないので内心とてつもなく動揺しつつ、わざと「頬?」と不機嫌そうに言う。するとまた少しの躊躇があった後、黄馬の唇が瑠生の唇に触れてきた。そのまますぐ離れそうだったので、瑠生は舌で黄馬の上唇の内側を舐めた。

「……っ」

 黄馬は少しピクリとした後、そのままキスを続けてくる。しばらくしてようやく唇が離れた後「これで機嫌、よくなった?」と聞いてきた。
 元々黄馬は悪くない。そして自分が勝手に機嫌を悪くしているのも瑠生はわかっている。だが今の状況が嬉しくそして楽しいと思え、瑠生は「まだ」と首を振る。機嫌に関しては頬にキスをしてくれた時点で実は直っている。

「キス、したのに」
「シャツのボタン、外して」
「え?」

 口癖かと思うほどよく言ってくる「え」を瑠生は完全にスルーして「早く」とだけ呟く。黄馬はまた躊躇したものの、ゆっくりボタンを外していった。
 その動作も、そして羞恥心のせいで赤くなっている表情も堪らなく瑠生を刺激してくる。ボタンの外れたシャツの隙間から胸のあたりがちらりと見えるのもまた、いい感じに落ち着かない。
 黄馬が「外したけど」と告げてくると、瑠生は思わずニッコリ笑いそうになって俯いた。

「瑠生?」
「……じゃあ一人でしてるとこ、見せて」
「は?」

 今度は口癖どころか本気で意味わからないといった気持ちのこもった「は」を聞かされた。さすがにそうだろうなと思いつつ「早く」とだけ呟くも、今度は黄馬も抵抗を見せてきた。

「い、いやだよ。何それ。そこまでできるわけないだろ」
「なぜ」
「なぜって……は、恥ずかしいからに決まってる……」

 その言葉に嘘がないのは瑠生も知っている。当時も、ようやく体のあちこちに触れても何とか受け入れてくれるようになった頃、瑠生は初めて黄馬のものに触れた。それまでは慣れてもらうため、本当に忍耐を試された。
 初めて触れた時はズボンの上からだった。ズボンを脱がそうにも真っ赤になっていたので、かわいそうかなと思う気持ちと、そして少しのいたずら心が湧いたのだ。

「脱ぎたくない?」

 そう囁きながら瑠生はゆっくりした動きでズボンの上から指を這わせる。

「……っぁ」

 指の腹で微かにわかる程度に、その部分を刺激させた。瑠生の指が滑るたび、そこはゆっくり擡げてくる。

「っちょ、っと……瑠、生……やめ……」
「何を?」

 黄馬を見ながら聞くと、黄馬は涙目になりながら怪訝そうな目を瑠生へ向けてきた。その表情にまた我慢を強いられる。

「……そ、れ」
「それ? ……あーこうやって触れること?」

 もっととぼけようかと思ったが、あまり苛めたいのでもないので、瑠生は微笑みながら囁いた。黄馬は真っ赤な顔をして俯きながらコクコク頷く。

「これ、駄目? 何で? だって黄馬のここ、硬くなってる……」

 耳元に唇を近づけてささやくと、黄馬がビクリと体を震わせた。その間も瑠生は構わずズボンの上からゆっくり窮屈そうになったその部分をなぞる。
 そこは間違いなく硬くなっているだけではなく、かなり熱をもっている。中でどうなっているのか想像して、瑠生はまた堪らなくなった。本当は今すぐ下を脱がせ、思いきり扱いてあげたいと思う。
 いや、あげたいのではなく自分がそうしたい。だが瑠生はひたすらもどかしいであろう接触を続ける。ますます硬くなり、だんだんしめっぽくなってくることにそして言い知れぬ楽しさを感じた。

「も……や、め……」
「黄馬はこんな風にそっと触れるだけでそんなに感じるのか? ほら、もう濡れてるだろ……?」
「ぅ、あ」

 黄馬がぎゅっと目を閉じて堪えようとしているのがわかった。だが度々びくびく体を震わせてくる。優しくキスしたり開いているほうの手で髪や耳を撫でたりしながら、瑠生はひたすらゆっくりそこへ指を這わせていた。

「こ、んな、の……っ、ぅあ……っ」

 もどかしさに体を少し捩らせていたくらいだった黄馬が、だんだん堪えられなくなっていく様はとてつもなく瑠生を煽ってきた。

「も……っ、ん……っ」

 そしてとうとうズボンと下着を着けたまま達してしまったらしいとわかると、ショックを受けている黄馬に「黄馬、かわいい……」と呟きながら改めて優しくキスした。
 ふとその時のことを思い出し、瑠生は思わず口元を綻ばせてしまった。

「瑠生……機嫌なんてもう悪くないよね……?」

 案の定、それを黄馬に見られていた。ニッコリ笑ってきた黄馬はシャツのボタンを留め出す。

「……わかった。一人でしなくていい。でも駄目……代わりに俺にさせて」
「え、ちょ……」

 機嫌悪い振りはもうできないし、黄馬が一人でするところも見られなくなったのは非常に残念だと思いつつ、だが黄馬を堪能することまで放棄はできない、と瑠生は手を伸ばした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

俺がこんなにモテるのはおかしいだろ!? 〜魔法と弟を愛でたいだけなのに、なぜそんなに執着してくるんだ!!!〜

小屋瀬
BL
「兄さんは僕に守られてればいい。ずっと、僕の側にいたらいい。」 魔法高等学校入学式。自覚ありのブラコン、レイ−クレシスは、今日入学してくる大好きな弟との再会に心を踊らせていた。“これからは毎日弟を愛でながら、大好きな魔法制作に明け暮れる日々を過ごせる”そう思っていたレイに待ち受けていたのは、波乱万丈な毎日で――― 義弟からの激しい束縛、王子からの謎の執着、親友からの重い愛⋯俺はただ、普通に過ごしたいだけなのにーーー!!!

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

従順な俺を壊して 【颯斗編】

川崎葵
BL
腕っ節の強い不良達が集まる鷹山高校でトップを張る、最強の男と謳われる火神颯斗。 無敗を貫き通す中、刺激のない毎日に嫌気がさしていた。 退屈な日常を捨て去りたい葛藤を抱えていた時、不思議と気になってしまう相手と出会う。 喧嘩が強い訳でもなく、真面目なその相手との接点はまるでない。 それでも存在が気になり、素性を知りたくなる。 初めて抱く感情に戸惑いつつ、喧嘩以外の初めての刺激に次第に心動かされ…… 最強の不良×警視総監の息子 初めての恋心に戸惑い、止まらなくなる不良の恋愛譚。 本編【従順な俺を壊して】の颯斗(攻)視点になります。 本編の裏側になるので、本編を知らなくても話は分かるように書いているつもりですが、話が交差する部分は省略したりしてます。 本編を知っていた方が楽しめるとは思いますので、長編に抵抗がない方は是非本編も……

学校一のイケメンとひとつ屋根の下

おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった! 学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……? キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子 立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。 全年齢

兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?

perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。 その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。 彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。 ……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。 口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。 ――「光希、俺はお前が好きだ。」 次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。

義兄が溺愛してきます

ゆう
BL
桜木恋(16)は交通事故に遭う。 その翌日からだ。 義兄である桜木翔(17)が過保護になったのは。 翔は恋に好意を寄せているのだった。 本人はその事を知るよしもない。 その様子を見ていた友人の凛から告白され、戸惑う恋。 成り行きで惚れさせる宣言をした凛と一週間付き合う(仮)になった。 翔は色々と思う所があり、距離を置こうと彼女(偽)をつくる。 すれ違う思いは交わるのか─────。

処理中です...