ヴェヒター

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5Friday

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 黄馬は瑠生の指が好きだ。もちろん本人が好きだからこそだが、瑠生の大きく男らしい節々としながらもしなやかに動く細めの長い指がとても好きだ。
 その指は時に優しく黄馬の頭を撫でたりマッサージしたりして癒してくれる。だが時にとても黄馬を翻弄させてもくる。
 最初の頃はその指が本当にどうしていいかわからずひたすら耐えていたような気がする。
 耐えてという表現は少し違うかもしれない。不快に思ったことはない。ただ、耐えないと自分がおかしくなってしまうのではないかと不安だった。
 その指が直接、黄馬自身に触れてくるといつも一気に熱が上がっていた。扱くどころか、つっと伝わされただけで達しそうになった。だというのに指は留まらずゆっくり触れてきた後、黄馬の傘部分を指の腹で刺激してきたり先の鈴口をぐりっと弄ってきたりする。
 その度に黄馬はまるで痛むかのように顔を歪ませ、耐える。かといって耐えきれるものでもなく、あっけなく熱を出す羽目になった。
 しばらくはそうされた後、瑠生は止めてくれていた。本当なら瑠生もキツいだろうから自分からもしてあげないとと思うのだが、達した後の脱力感と羞恥心に毎回負けてしまう。
 その内、達した後に瑠生がぬるぬるとそれを指に絡め、さらに奥を弄ってくるようになった。知識がないわけではないので何をするかわからないということはなかったが、だからといって悠長に構えることもできず。ただ抵抗しても結局止めてくれることはなく、優しく言い聞かせるようにして瑠生は黄馬の後ろをゆっくり弄るようになっていた。
 この段階でさすがに自分が上だとはもう思っていなかったが、やはりどうにも想像できなかった。しばらくはどうにも違和感が拭いされなかった。痛みは、いつも瑠生がゆっくり丁寧に解してくれたので大してなかったが、自分の中に例え指の一本だろうが異物として入っている感覚には中々慣れなかった。
 それでも感情と違い、体のほうはどんどん適応していくものだ。羞恥心が薄れることはなくても、ただでさえ瑠生の指が好きで、そしていつだって翻弄される黄馬にとって中を解し弄ってくる指が、物理的に慣れていかないはずなかった。
 気づけば結局そこまでも翻弄されていた。それでもまだ中だけで達するという感覚はわからなかったが、指で弄られながら黄馬自身をあろうことか瑠生の口や舌で嬲られ耐えられるはずもなく、いつも容易に達せさせられていた。
 そこから中だけで快楽を得てしまうまでは情けないことにあっという間だった気がする。
 そして指が慣れたら後は――

「黄馬……指だけでイきそ?」
「ん、ふ……っ、ぅ」

 当時からそうだったが、今でも相変わらず瑠生の指が好きで、そしてだからこそ弱い。耳に触れられようが肌に触れられようが、びくびく反応してしまう。ましてや黄馬自身に直接触れられると未だにあまり堪えられない。
 それを瑠生もよく知っているようで、最近はむしろあまり黄馬自身に触れてくれないのが何とも微妙な気持ちになったりもする。
 ただどのみち指でペニスを刺激されあっという間に達してしまうと、後がどうにも苦しいのでそれでいいのかもしれないとは思う。苦しいというのはどうしようもない。そう何度も達せるものではないのに耐えられずに達してしまうのは、快楽を通り越してつらさすらある。それでも達している時点で快楽を覚えてはいるわけで、どうしようもない感覚に苛まされる。

「沢山、感じて」
「い、や……それ、無理……」

 瑠生は絡み合っている時、たまに黄馬の何かを壊そうとさえ思っているのだろうかと感じる時がある。それくらいひたすら溺れさせられ、感じさせられる。
 指だけでも耐えがたいそこを瑠生のものでひたすら突き上げられると、黄馬は実際おかしくなってしまうのではないかと戦慄することがある。瑠生の硬く熱いそれが黄馬の中をみっちり満たし、傘の張った部分が否応なしに襞の溝をひっかけてくる。中を耐えがたいほど掻き回してくる上、それは黄馬の一番弱い部分をも刺激してくる。
 掻き回されるだけでも耐えがたいほどの快楽に苛まされるというのに、その部分を刺激されると毎回本気で堪らない。

「っぁ、あっ、ああ、あっ」
「気持ちいい? 黄馬……言って」
「ん、ん……っ」

 その上、口にしてと強要してくる。それが嫌で堪らないはずなのに、黄馬の羞恥心はかき乱され、さらに疼きが酷くなった。

「んんっ、ぁ……っあ……、ああ……っ」
「ここ? ねえ黄馬……」

 一度聞くと黄馬が何か言わないと許してくれない。執拗にキツいところを突き上げられたり、逆にゆるゆると刺激されたりと、どちらにしても耐えがたい苦しみにも似た快楽を寄こしてくる。

「ん、……そ、こ……、そこ……っ」
「ここ……?」
「っん、ぁ、気持ち、い……」
「そっか……」

 何とか言葉を発すると、ようやく瑠生は満足したように微笑み、律動を速めてきた。何度も突き上げられ、それをまたギリギリまで抜かれ、結局それも堪らなくつらくはあるのだが、何とか普通にお互い達せられるので一番楽といえば楽なのだ。黄馬が先に達してしまうと本当に何度も達する羽目になるので、できれば一緒に達したいと毎回思う。
 まるでこう言えば黄馬が瑠生との行為を苦痛としか思っていないようだが、それは違う。むしろあまりに気持ちよすぎて、いつかこの行為から離れられなくなるのではないかとさえ思ってしまう。それが、何よりも怖い。

「っあ……、あっ、あ」

 擦り上げてくるような瑠生の熱に黄馬はなす術もなくどんどん高みに登らされる。心もとなささえ感じ、思いきりぎゅっと瑠生を抱きしめると「それ、反則……」と呟かれた。

「瑠生……瑠生……」
「それも……。黄馬の中、だけでも凄いのに……、そんな風に……呼ばれたら、も……」

 囁くように言うと、瑠生はひときわ激しく動いてきた。足を抱え込まれ壊れるのではと思うほど黄馬の体は揺さぶられた。

「ああっ、あ……っ」
「こぅ……ま……っ」

 瑠生の体がびくびく震える。黄馬の中にじわりとした熱を感じた。それと同時に黄馬もまた絶頂に飛んだかと思うと、一気に深いところへ落ちて行く。
 何よりも、怖い。だけれども、きっと例え壊れても自分は瑠生と共にいたいと思うのだろうとも、思う。落ちていく意識の中で黄馬はそっと思った。
 一方、終わった後眠りに陥った黄馬を、瑠生は抱きよせながらじっと見ていた。

 とても大事で大切で愛らしく美しい人。

 いつも本人からは「ほんとそれ、ないから」と否定されるが、瑠生は冗談で言ってなどいない。
 好きになってから今に至るまで、気持ちは冷めるどころか膨れ上がる一方だった。今は何とか他の誰かの前であろうがキスしたり気持ちを隠すことなく主張することで、かろうじて気持ちの均等は保たれているとは思っている。
 だが好きだという気持ちがどんどん膨れ上がるせいで、それだけでは抑えられないほどの独占欲が均等を崩しそうな気がして、自分ながらに困惑している。
 だからこうして行為中、黄馬が許して欲しいと訴える勢いでひたすら愛を注ぐ。それによっていっそ黄馬が壊れたらいいとさえどこかで思ってしまう。
 もちろん、大切な黄馬の体を傷つけたいなどほんの少しも思わないし、心を傷つけたいとも思っていない。ただ、自分がいないと駄目だと、こうして激しく愛されないと駄目だといつか黄馬が思えばいい、と自分の中の片隅で思っている。

 そういった壊れ方を、どうか、してくれれば、いい。

 そんな風にひそかに思いながら瑠生は今もそっと、大切に大切に黄馬を抱き寄せる。
 つき合い始めた頃と何ら変わらない健全ではない自分の欲を、瑠生は理解している。いや、変わらないのではない。むしろ酷くなっている。
 こんな仄暗い欲望が黄馬にばれてしまったら自分は嫌われるだろうか、と思うことがある。監禁したいほど独占欲が強いと最初の頃はっきり言ったくらい、どんなことでも伝えている瑠生が唯一明確に伝えていない感情だ。壊れてくれ、などと言ってしまってはもう終わりなのではないかとさえ思える。
 ただ、自分の望みだろうとは思うが、きっと黄馬なら「ほんと瑠生は」なんて苦笑しながらも、ぎゅっと抱き返してくれるのではないか、なんて思ったりもしている。
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