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14話
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一方拓も、前にも大から「何言ってんの」と呆れたように見られた気がする、と生ぬるい気持ちになりながら思った。
そうだ、と拓は心の中で頷く。前回は気持ちがよすぎると他の誰かに触られているような感触がするのか的なことを聞いた。前回にしても今回にしても、他人が拓に言ってきたら同じく「何言ってんの」としか返しようがなかった気がする。生ぬるい気持ちににもなるし、ほんのり自分が居たたまれない。
「……もし、もしだけど、さ。もし、りと兄が、っていうかりと兄の周り? がおかしいの、悪魔のせいだって言ったら大兄、どう思う?」
「えー? 拓が夢見がちになったなぁってちょっとほのぼのするかなあ」
「……っち」
「今、舌打ちした?」
「俺がそんな風になると思ってんの?」
「まぁ、思ってないかな。でも、もしもなんて話自体、お前がしてくんの珍しいんだよなぁ」
「本気の話だって言ったら」
大を真っ直ぐ見上げて言えば、大が少し目を見開いたように見返してきた。
「拓……お前……」
真剣な顔つきに、拓も真剣な表情でごくりと唾を飲み込む。
「ほんと、何言ってんの」
だが次の瞬間には、大は吹き出していた。
「わ、笑うな!」
「いや、だって……何言い出すのかと」
わかる。
拓にもわかる。悪魔なんているはずがないし、吏人が悪魔に悪戯されている、なんてふざけた話でしかない。実際悪魔を目の当たりにした拓でもそう思う。それでもムッとして大を睨んだ。
食事も風呂も終えて後は寝るだけになった頃、拓は少し悶々としていた。
キスをしていた時にセオが吏人の体をまさぐっていたことを思い出す。あの時最初は全然見えていなかった。だが吏人が言った後にセオは姿を現してきた。
そして今日、ソファーでのことも思い出す。大もそして吏人も全然見えていなかったが、拓には最初から明確に見えていた。セオは拓を挑発するように楽しみながら、吏人の体に触れていた。気づいた時は怒りと驚きで唖然としていた。大に呼びかけられてようやくハッとなり、拓は二人には見えていない悪魔から吏人を守るように抱きつきに行った。大の視線から吏人を隠すためもある。
改めてやはり二人には見えないのだということと、拓も見えたり見えなかったりするのだと理解した。恐らくセオ次第なのだろう。
今後吏人と抱き合う度にセオが見え隠れするのかと思うとさすがに悶々としてしまう。可愛い吏人を大になら見せつけてやりたいかもしれないが、セオには嫌だ。
……だってあいつ、俺の吏人に今までだってきっと散々触れてる。それにあいつ、下手したら吏人のこと……。
いくら体液のやり取りはしないと本人が言っていても絶対という保証はない。それに本当にしないのだとしても、触れるだけで十分腹立たしい。しかもセオは絶対とは言わないが、吏人に好意を持っているような気がするのだ。悪魔なので人間と同じように誰かを愛するのかは知らないが、少なくとも拓は落ち着かないし吏人が心配だ。
とはいえ、吏人に触れるのを我慢するのも拓にはあまりできそうにない。
「……どうしよ」
「拓?」
廊下を歩きながら拓が悶々としていたら、吏人の声がした。慌てて振り向くと、怪訝な顔をした吏人がいた。
「吏人……」
「どうしたんだよ、何かあったのか?」
ついポツリと漏れてしまった、どうしようという言葉を聞かれてしまったのだろう。吏人が心配そうに近づいてきた。
「ううん、何もないよ大丈夫。明日の時間割どうだっけかなと思っただけ」
「拓は時間割を気にする子だっけ……?」
「吏人はたまに失礼だよ。一応気にする。体操服とかいる時あるし」
「そっか。……また後ろ、髪跳ねてる。こっちも気にしたらいいと思うんだけど」
ふわりと笑った後に吏人が手を伸ばしてきた。優しく拓の髪に触れる指の感触がそっと肌にも伝わってくる。気持ちの温かさや嬉しさと共にぞわりと悦楽にひたりたくなるような感覚が背筋に走った。堪らなくなって思わずぎゅっと目を瞑りそうになる。
「……髪は多分寝て起きたらどうにかなってる」
「いや、むしろ酷くなるんじゃ……」
「大丈夫だって。……吏人、俺今日は何かだらだらしてたからかむしろ凄く眠くて。もう寝るね、おやすみ」
小さく微笑むと、拓は二センチだけ背丈が上の吏人に軽くキスをした。
「うん。おやすみ、拓」
吏人も微笑みながら軽いキスを返してくれた。
自分の部屋に入ると、拓は小さくため息を吐く。吏人が優しくて可愛くて、そしてちゃんと拓を弟としてだけでなく好きでいてくれてキスを返してくれる。それが嬉しくて、吐く息が少し震える。付き合ってからもう一年は余裕で経っているのにそういったことがまだ全然当たり前でなく、ひたすら新鮮でいて嬉しさが溢れてくる。
「吏人……好き」
一体どうしたら吏人を悪魔から守れるのだろう。ついでにどうしたら独り占めできるのだろう。あとさらについでだが今すぐにでも吏人に触れたい。
純粋な恋慕を通り越して最早歪みと淀みさえ発しながら拓はまた悶々としだした。
そうだ、と拓は心の中で頷く。前回は気持ちがよすぎると他の誰かに触られているような感触がするのか的なことを聞いた。前回にしても今回にしても、他人が拓に言ってきたら同じく「何言ってんの」としか返しようがなかった気がする。生ぬるい気持ちににもなるし、ほんのり自分が居たたまれない。
「……もし、もしだけど、さ。もし、りと兄が、っていうかりと兄の周り? がおかしいの、悪魔のせいだって言ったら大兄、どう思う?」
「えー? 拓が夢見がちになったなぁってちょっとほのぼのするかなあ」
「……っち」
「今、舌打ちした?」
「俺がそんな風になると思ってんの?」
「まぁ、思ってないかな。でも、もしもなんて話自体、お前がしてくんの珍しいんだよなぁ」
「本気の話だって言ったら」
大を真っ直ぐ見上げて言えば、大が少し目を見開いたように見返してきた。
「拓……お前……」
真剣な顔つきに、拓も真剣な表情でごくりと唾を飲み込む。
「ほんと、何言ってんの」
だが次の瞬間には、大は吹き出していた。
「わ、笑うな!」
「いや、だって……何言い出すのかと」
わかる。
拓にもわかる。悪魔なんているはずがないし、吏人が悪魔に悪戯されている、なんてふざけた話でしかない。実際悪魔を目の当たりにした拓でもそう思う。それでもムッとして大を睨んだ。
食事も風呂も終えて後は寝るだけになった頃、拓は少し悶々としていた。
キスをしていた時にセオが吏人の体をまさぐっていたことを思い出す。あの時最初は全然見えていなかった。だが吏人が言った後にセオは姿を現してきた。
そして今日、ソファーでのことも思い出す。大もそして吏人も全然見えていなかったが、拓には最初から明確に見えていた。セオは拓を挑発するように楽しみながら、吏人の体に触れていた。気づいた時は怒りと驚きで唖然としていた。大に呼びかけられてようやくハッとなり、拓は二人には見えていない悪魔から吏人を守るように抱きつきに行った。大の視線から吏人を隠すためもある。
改めてやはり二人には見えないのだということと、拓も見えたり見えなかったりするのだと理解した。恐らくセオ次第なのだろう。
今後吏人と抱き合う度にセオが見え隠れするのかと思うとさすがに悶々としてしまう。可愛い吏人を大になら見せつけてやりたいかもしれないが、セオには嫌だ。
……だってあいつ、俺の吏人に今までだってきっと散々触れてる。それにあいつ、下手したら吏人のこと……。
いくら体液のやり取りはしないと本人が言っていても絶対という保証はない。それに本当にしないのだとしても、触れるだけで十分腹立たしい。しかもセオは絶対とは言わないが、吏人に好意を持っているような気がするのだ。悪魔なので人間と同じように誰かを愛するのかは知らないが、少なくとも拓は落ち着かないし吏人が心配だ。
とはいえ、吏人に触れるのを我慢するのも拓にはあまりできそうにない。
「……どうしよ」
「拓?」
廊下を歩きながら拓が悶々としていたら、吏人の声がした。慌てて振り向くと、怪訝な顔をした吏人がいた。
「吏人……」
「どうしたんだよ、何かあったのか?」
ついポツリと漏れてしまった、どうしようという言葉を聞かれてしまったのだろう。吏人が心配そうに近づいてきた。
「ううん、何もないよ大丈夫。明日の時間割どうだっけかなと思っただけ」
「拓は時間割を気にする子だっけ……?」
「吏人はたまに失礼だよ。一応気にする。体操服とかいる時あるし」
「そっか。……また後ろ、髪跳ねてる。こっちも気にしたらいいと思うんだけど」
ふわりと笑った後に吏人が手を伸ばしてきた。優しく拓の髪に触れる指の感触がそっと肌にも伝わってくる。気持ちの温かさや嬉しさと共にぞわりと悦楽にひたりたくなるような感覚が背筋に走った。堪らなくなって思わずぎゅっと目を瞑りそうになる。
「……髪は多分寝て起きたらどうにかなってる」
「いや、むしろ酷くなるんじゃ……」
「大丈夫だって。……吏人、俺今日は何かだらだらしてたからかむしろ凄く眠くて。もう寝るね、おやすみ」
小さく微笑むと、拓は二センチだけ背丈が上の吏人に軽くキスをした。
「うん。おやすみ、拓」
吏人も微笑みながら軽いキスを返してくれた。
自分の部屋に入ると、拓は小さくため息を吐く。吏人が優しくて可愛くて、そしてちゃんと拓を弟としてだけでなく好きでいてくれてキスを返してくれる。それが嬉しくて、吐く息が少し震える。付き合ってからもう一年は余裕で経っているのにそういったことがまだ全然当たり前でなく、ひたすら新鮮でいて嬉しさが溢れてくる。
「吏人……好き」
一体どうしたら吏人を悪魔から守れるのだろう。ついでにどうしたら独り占めできるのだろう。あとさらについでだが今すぐにでも吏人に触れたい。
純粋な恋慕を通り越して最早歪みと淀みさえ発しながら拓はまた悶々としだした。
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