桃色ハプニング

Guidepost

文字の大きさ
14 / 20

14話

しおりを挟む
 一方拓も、前にも大から「何言ってんの」と呆れたように見られた気がする、と生ぬるい気持ちになりながら思った。
 そうだ、と拓は心の中で頷く。前回は気持ちがよすぎると他の誰かに触られているような感触がするのか的なことを聞いた。前回にしても今回にしても、他人が拓に言ってきたら同じく「何言ってんの」としか返しようがなかった気がする。生ぬるい気持ちににもなるし、ほんのり自分が居たたまれない。

「……もし、もしだけど、さ。もし、りと兄が、っていうかりと兄の周り? がおかしいの、悪魔のせいだって言ったら大兄、どう思う?」
「えー? 拓が夢見がちになったなぁってちょっとほのぼのするかなあ」
「……っち」
「今、舌打ちした?」
「俺がそんな風になると思ってんの?」
「まぁ、思ってないかな。でも、もしもなんて話自体、お前がしてくんの珍しいんだよなぁ」
「本気の話だって言ったら」

 大を真っ直ぐ見上げて言えば、大が少し目を見開いたように見返してきた。

「拓……お前……」

 真剣な顔つきに、拓も真剣な表情でごくりと唾を飲み込む。

「ほんと、何言ってんの」

 だが次の瞬間には、大は吹き出していた。

「わ、笑うな!」
「いや、だって……何言い出すのかと」

 わかる。

 拓にもわかる。悪魔なんているはずがないし、吏人が悪魔に悪戯されている、なんてふざけた話でしかない。実際悪魔を目の当たりにした拓でもそう思う。それでもムッとして大を睨んだ。
 食事も風呂も終えて後は寝るだけになった頃、拓は少し悶々としていた。
キスをしていた時にセオが吏人の体をまさぐっていたことを思い出す。あの時最初は全然見えていなかった。だが吏人が言った後にセオは姿を現してきた。
 そして今日、ソファーでのことも思い出す。大もそして吏人も全然見えていなかったが、拓には最初から明確に見えていた。セオは拓を挑発するように楽しみながら、吏人の体に触れていた。気づいた時は怒りと驚きで唖然としていた。大に呼びかけられてようやくハッとなり、拓は二人には見えていない悪魔から吏人を守るように抱きつきに行った。大の視線から吏人を隠すためもある。
 改めてやはり二人には見えないのだということと、拓も見えたり見えなかったりするのだと理解した。恐らくセオ次第なのだろう。
 今後吏人と抱き合う度にセオが見え隠れするのかと思うとさすがに悶々としてしまう。可愛い吏人を大になら見せつけてやりたいかもしれないが、セオには嫌だ。

 ……だってあいつ、俺の吏人に今までだってきっと散々触れてる。それにあいつ、下手したら吏人のこと……。

 いくら体液のやり取りはしないと本人が言っていても絶対という保証はない。それに本当にしないのだとしても、触れるだけで十分腹立たしい。しかもセオは絶対とは言わないが、吏人に好意を持っているような気がするのだ。悪魔なので人間と同じように誰かを愛するのかは知らないが、少なくとも拓は落ち着かないし吏人が心配だ。
 とはいえ、吏人に触れるのを我慢するのも拓にはあまりできそうにない。

「……どうしよ」
「拓?」

 廊下を歩きながら拓が悶々としていたら、吏人の声がした。慌てて振り向くと、怪訝な顔をした吏人がいた。

「吏人……」
「どうしたんだよ、何かあったのか?」

 ついポツリと漏れてしまった、どうしようという言葉を聞かれてしまったのだろう。吏人が心配そうに近づいてきた。

「ううん、何もないよ大丈夫。明日の時間割どうだっけかなと思っただけ」
「拓は時間割を気にする子だっけ……?」
「吏人はたまに失礼だよ。一応気にする。体操服とかいる時あるし」
「そっか。……また後ろ、髪跳ねてる。こっちも気にしたらいいと思うんだけど」

 ふわりと笑った後に吏人が手を伸ばしてきた。優しく拓の髪に触れる指の感触がそっと肌にも伝わってくる。気持ちの温かさや嬉しさと共にぞわりと悦楽にひたりたくなるような感覚が背筋に走った。堪らなくなって思わずぎゅっと目を瞑りそうになる。

「……髪は多分寝て起きたらどうにかなってる」
「いや、むしろ酷くなるんじゃ……」
「大丈夫だって。……吏人、俺今日は何かだらだらしてたからかむしろ凄く眠くて。もう寝るね、おやすみ」

 小さく微笑むと、拓は二センチだけ背丈が上の吏人に軽くキスをした。

「うん。おやすみ、拓」

 吏人も微笑みながら軽いキスを返してくれた。
 自分の部屋に入ると、拓は小さくため息を吐く。吏人が優しくて可愛くて、そしてちゃんと拓を弟としてだけでなく好きでいてくれてキスを返してくれる。それが嬉しくて、吐く息が少し震える。付き合ってからもう一年は余裕で経っているのにそういったことがまだ全然当たり前でなく、ひたすら新鮮でいて嬉しさが溢れてくる。

「吏人……好き」

 一体どうしたら吏人を悪魔から守れるのだろう。ついでにどうしたら独り占めできるのだろう。あとさらについでだが今すぐにでも吏人に触れたい。
 純粋な恋慕を通り越して最早歪みと淀みさえ発しながら拓はまた悶々としだした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

染まらない花

煙々茸
BL
――六年前、突然兄弟が増えた。 その中で、四歳年上のあなたに恋をした。 戸籍上では兄だったとしても、 俺の中では赤の他人で、 好きになった人。 かわいくて、綺麗で、優しくて、 その辺にいる女より魅力的に映る。 どんなにライバルがいても、 あなたが他の色に染まることはない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

この変態、規格外につき。

perari
BL
俺と坂本瑞生は、犬猿の仲だ。 理由は山ほどある。 高校三年間、俺が勝ち取るはずだった“校内一のイケメン”の称号を、あいつがかっさらっていった。 身長も俺より一回り高くて、しかも―― 俺が三年間片想いしていた女子に、坂本が告白しやがったんだ! ……でも、一番許せないのは大学に入ってからのことだ。 ある日、ふとした拍子に気づいてしまった。 坂本瑞生は、俺の“アレ”を使って……あんなことをしていたなんて!

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

処理中です...