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16話
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寝ぼけすぎじゃないかなと、吏人は下着以外何も着ていない自分の姿を見下ろし怪訝に思って眉間にシワを寄せた。だがすぐに「まぁ、いいか」といつものように思う。
そんな吏人もゴミ箱に気づくとさすがに唖然としたし自分に引いた。確かに昨日は夜、拓と何もすることなく眠ったが、それにしても寝ぼけて抜くなんてどれだけだよと微妙になった。そういえば拓の夢を見ていた気がする。ただ、いくら拓のことが好きで、しかも覚えてしまった拓との快楽が堪らなくよくてもこれはない。浅ましさを通り越してものすごく痛々しい。寝ぼけて寝間着を脱いでいたのが可愛く思えてきた。寝間着が脱げていたことを話せても拓にすら、自慰までもしていたらしいとは言えない。
微妙な気持ちのまま台所へ向かうと、大だけでなく既に拓もいた。
「おはよ。拓がもういるの、珍しいな」
「俺はいつもの時間だけど……りと兄が遅いんだよ、あともう少し遅かったら起こしに行こうと思ってた」
「そっか」
自分が遅かったか、と苦笑した後にふと小さな違和感を覚えた。いつもなら様子を窺う前に拓は部屋に来そうなものだ。
……でもまぁいいか。来られてたらほぼ裸で寝てただけでなくゴミ箱の中身もバレてたかもしんないし。
「あ、っていうか聞いてよ。俺、びっくりしちゃって」
「どうかしたのか?」
焼けた食パンと目玉焼き、そしてレタスにトマト、キュウリが乗った皿を空いた席に置いて吏人に座るよう促しながら、大が聞いてきた。
「朝起きたらパジャマ上下脱げててさ。多分俺、寝ぼけて脱いだっぽい」
あはは、と吏人が笑いながら言えば、大が苦笑してきた。
「寝ぼけて脱いでたら、それ夢遊病な勢いでヤバいって」
「そうかなぁ」
拓に至ってはせっかく食パンの上に目玉焼きとサラダを綺麗に乗せて食べていたようだが、食べかけのそれをぼとぼとと皿に落としていた。
「拓、落ちてる」
「ぬ、脱げてたの?」
「おいおい拓、反応し過ぎだろ」
大が笑いながら言うも、拓は吏人を真剣な表情でじっと見てきた。
「脱げてたの?」
「う、うん」
「……うわ、マジ死ねって感じ……」
勢いに少々戸惑いつつ吏人が頷くと、拓は何やら呟いている。
「拓? 何か言った?」
「何も言ってない。……、……え、何このゲロみたいに無秩序な皿」
パンから落ちていたことに気づいていなかったのか、皿を見た拓が困惑したような顔をしている。それに対して大に「人が食ってんのにゲロは止めろよ」と突っ込まれている。拓の反応に少し戸惑っていた吏人も「そうだよ」と笑いながら食パンに齧りついた。
食べ終わって拓がそのまま学校へ行こうとするのを、大が慌てて止め出した。
「後でさすがに直すかと思ってたのに!」
「……何の話」
「寝癖! 今日のは一際酷いって! それで出たら恥ずかしいだろ?」
「は? 別に恥ずかしくないし」
「いやいや、そこは恥ずかしがろう? やり方わからないならお兄ちゃんがやってあげるから……!」
そのやり取りに苦笑していた吏人は、そういえばと思い出して大に話しかけた。
「兄さん今日早いって言ってたろ? 俺がやっておくから」
「いや、俺気にしないから」
それに対し拓が「何で?」といった表情で返してくる。
「少しは、身だしなみも気にしなさい」
「うん、拓はもう少し気にしてもいいと思う」
二人の兄に言われ、拓は微妙な顔をしつつも渋々頷いていた。
あまりに酷い寝癖だったので一旦拓の髪を軽く濡らし、ヘアオイルを手に馴染ませてから拓の髪につけた。ドライヤーで乾かしながら髪を整えていると「吏人、さっき何塗ったの」と聞かれる。
「え? ヘアオイルだけど」
「髪に油つけんの?」
「……言い方……。まぁそうなんだけど違う」
「何でそんなの知ってんの」
「別に凄い技でもなんでもないけどな? 雑誌とか……後はクラスの女子が教えてくれたり」
「は? 何で女がわざわざ吏人にそんなこと教えてくんの?」
拓が急にムッとした様子で見上げてきた。
「わざわざっていうか、何か話の流れだったと思うけど。普通にクラスの子らで話したりするだろ?」
「しない」
「……拓はもっと俺以外にもニコニコしたらいいのに」
「やだ」
「……うーん、まぁ多分実際されたら俺も嫌かも、かな?」
ただでさえ今でもモテているらしいのに、大変なことになりそうだと吏人は内心苦笑する。
「ほんと?」
「うん。あ、ほら、髪がさらさらになってきた。俺のオイル、これからも使っていいから。ドライヤーの熱から守ってくれるし拓の髪、艶々になるぞ」
「ふーん」
「どうでもよさそうだな」
興味のなさそうな拓の反応に、吏人は苦笑した。
「だってどうでもいいし。でも吏人に髪乾かしてもらうのは気持ちいい。俺じゃあ多分やらないだろし、また吏人がして?」
「仕方ないなぁ。うん、いいよ」
ああ、やっぱり拓は可愛いな。
目を瞑りながら言ってくる拓に対して吏人が改めてそう思っていると、ふと自分の髪も誰かに撫でられたような気がした。
当然のことだが、もちろん吏人と拓以外には誰もいない。
? 気のせい、か。
最近どうにも変だなと思うことはあるが、多分自分は案外神経質なのかもしれない。吏人は「じゃあ学校、行こうか」と拓に笑いかけながら思った。
そんな吏人もゴミ箱に気づくとさすがに唖然としたし自分に引いた。確かに昨日は夜、拓と何もすることなく眠ったが、それにしても寝ぼけて抜くなんてどれだけだよと微妙になった。そういえば拓の夢を見ていた気がする。ただ、いくら拓のことが好きで、しかも覚えてしまった拓との快楽が堪らなくよくてもこれはない。浅ましさを通り越してものすごく痛々しい。寝ぼけて寝間着を脱いでいたのが可愛く思えてきた。寝間着が脱げていたことを話せても拓にすら、自慰までもしていたらしいとは言えない。
微妙な気持ちのまま台所へ向かうと、大だけでなく既に拓もいた。
「おはよ。拓がもういるの、珍しいな」
「俺はいつもの時間だけど……りと兄が遅いんだよ、あともう少し遅かったら起こしに行こうと思ってた」
「そっか」
自分が遅かったか、と苦笑した後にふと小さな違和感を覚えた。いつもなら様子を窺う前に拓は部屋に来そうなものだ。
……でもまぁいいか。来られてたらほぼ裸で寝てただけでなくゴミ箱の中身もバレてたかもしんないし。
「あ、っていうか聞いてよ。俺、びっくりしちゃって」
「どうかしたのか?」
焼けた食パンと目玉焼き、そしてレタスにトマト、キュウリが乗った皿を空いた席に置いて吏人に座るよう促しながら、大が聞いてきた。
「朝起きたらパジャマ上下脱げててさ。多分俺、寝ぼけて脱いだっぽい」
あはは、と吏人が笑いながら言えば、大が苦笑してきた。
「寝ぼけて脱いでたら、それ夢遊病な勢いでヤバいって」
「そうかなぁ」
拓に至ってはせっかく食パンの上に目玉焼きとサラダを綺麗に乗せて食べていたようだが、食べかけのそれをぼとぼとと皿に落としていた。
「拓、落ちてる」
「ぬ、脱げてたの?」
「おいおい拓、反応し過ぎだろ」
大が笑いながら言うも、拓は吏人を真剣な表情でじっと見てきた。
「脱げてたの?」
「う、うん」
「……うわ、マジ死ねって感じ……」
勢いに少々戸惑いつつ吏人が頷くと、拓は何やら呟いている。
「拓? 何か言った?」
「何も言ってない。……、……え、何このゲロみたいに無秩序な皿」
パンから落ちていたことに気づいていなかったのか、皿を見た拓が困惑したような顔をしている。それに対して大に「人が食ってんのにゲロは止めろよ」と突っ込まれている。拓の反応に少し戸惑っていた吏人も「そうだよ」と笑いながら食パンに齧りついた。
食べ終わって拓がそのまま学校へ行こうとするのを、大が慌てて止め出した。
「後でさすがに直すかと思ってたのに!」
「……何の話」
「寝癖! 今日のは一際酷いって! それで出たら恥ずかしいだろ?」
「は? 別に恥ずかしくないし」
「いやいや、そこは恥ずかしがろう? やり方わからないならお兄ちゃんがやってあげるから……!」
そのやり取りに苦笑していた吏人は、そういえばと思い出して大に話しかけた。
「兄さん今日早いって言ってたろ? 俺がやっておくから」
「いや、俺気にしないから」
それに対し拓が「何で?」といった表情で返してくる。
「少しは、身だしなみも気にしなさい」
「うん、拓はもう少し気にしてもいいと思う」
二人の兄に言われ、拓は微妙な顔をしつつも渋々頷いていた。
あまりに酷い寝癖だったので一旦拓の髪を軽く濡らし、ヘアオイルを手に馴染ませてから拓の髪につけた。ドライヤーで乾かしながら髪を整えていると「吏人、さっき何塗ったの」と聞かれる。
「え? ヘアオイルだけど」
「髪に油つけんの?」
「……言い方……。まぁそうなんだけど違う」
「何でそんなの知ってんの」
「別に凄い技でもなんでもないけどな? 雑誌とか……後はクラスの女子が教えてくれたり」
「は? 何で女がわざわざ吏人にそんなこと教えてくんの?」
拓が急にムッとした様子で見上げてきた。
「わざわざっていうか、何か話の流れだったと思うけど。普通にクラスの子らで話したりするだろ?」
「しない」
「……拓はもっと俺以外にもニコニコしたらいいのに」
「やだ」
「……うーん、まぁ多分実際されたら俺も嫌かも、かな?」
ただでさえ今でもモテているらしいのに、大変なことになりそうだと吏人は内心苦笑する。
「ほんと?」
「うん。あ、ほら、髪がさらさらになってきた。俺のオイル、これからも使っていいから。ドライヤーの熱から守ってくれるし拓の髪、艶々になるぞ」
「ふーん」
「どうでもよさそうだな」
興味のなさそうな拓の反応に、吏人は苦笑した。
「だってどうでもいいし。でも吏人に髪乾かしてもらうのは気持ちいい。俺じゃあ多分やらないだろし、また吏人がして?」
「仕方ないなぁ。うん、いいよ」
ああ、やっぱり拓は可愛いな。
目を瞑りながら言ってくる拓に対して吏人が改めてそう思っていると、ふと自分の髪も誰かに撫でられたような気がした。
当然のことだが、もちろん吏人と拓以外には誰もいない。
? 気のせい、か。
最近どうにも変だなと思うことはあるが、多分自分は案外神経質なのかもしれない。吏人は「じゃあ学校、行こうか」と拓に笑いかけながら思った。
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