後輩の好意は重すぎて

Guidepost

文字の大きさ
3 / 20

3話

しおりを挟む
 朝、まだ少し眠気がさめやらないまま高典が寮の食堂で朝食をとっていると、忘れたくても記憶から抜けてくれない声で「高典先輩」と聞こえてきた。一気に目が覚めるとともにまだ半分以上残っている朝食のトレーをつかみ、高典は立ち上がろうとする。

「高典先輩どうしたんですか? トイレですか? それなら是非ご一緒したいところですが、ぐっと堪えてトレーは俺が見張っておきますからどうぞ行ってきてください」

 どうもこうもお前のせいだよ。というか是非一緒したいって、何。

「何でトイレ行くのにトレー持っていくんだよおかしいだろ……。というか何お前は当たり前のように俺の隣に座るだけじゃなく、当たり前のように俺の名前呼んでんの? あとお前に飯預けてなんて無理。一瞬たりとも目を離せるわけないだろ」

 第一印象は怪訝に思いつつも綺麗な顔立ちやスタイルがいいとどれも肯定的ではあったが、それらは即、今やほぼ見られない空港での反転フラップ式案内表示機のように「やばいやつ」に一瞬でパタパタと全て塗り替えられている。ちなみにどうでもいいことだが普通LEDなどで表示される出発案内板の旧式を知っているのは昔の映画やドラマの影響だったりする。昔の作品が何気に好きだ。
 とにかく、塗り替えられた印象での勝手なイメージではあるが、目を離せば食事に変なものでも混入されそうで怖い。

「おい、平向どうしたんだ? この後輩、お前の知り合い?」

 近くに座っていた同級生が聞いてくる。

「……知り合いたくなかった」
「は? 平向、何言ってんの?」
「高典先輩って思ってたより照れ屋さんなんですね、かわいい」

 うふふと嬉しそうに整った顔を綻ばせてくる周太を、高典はこの世で最も意味のわからない生物を発見したかのような顔で見た。

「何言ってんのはこいつだろ……お前ほんと何言ってんの?」
「俺、何か変なこと言いました?」
「変なことしか言ってない。あと名前で呼ぶな」
「では愛しい先輩とか大切なせんぱ……」
「名字って存在知ってる……?」
 
 近くに座っていた同級生は状況がわからないせいかむしろおかしげに笑っている。とはいえ訳のわからない周太と同類だと思われて距離を突然空けられないだけマシなのだろうか。
 結局せっかく作ってくれている食事を残すのも申し訳なくて高典は急いでかっ込んだ。

「そんなに慌てて食べたら消化よくないですよ高典先輩」
「お前といるほうが俺にはよくない。あと名字! 平向!」

 名字を言い放つと高典は立ち上がり、周太を無視してトレーを戻すと食堂を出た。
 今まで食堂で会った記憶がないものの、多分今までは知らない相手だから記憶にないだけだろう。今後は朝晩警戒しながら食堂へ向かわないとなのかと高典は小さくため息をついた。

 じゃなかった……。

 昼休みに学食へ向かった時に高典は実感した。
 知らない相手だから記憶になかったのではない。絶対に、間違いなく、周太があえて会いにきているからだ。
 寮の食堂では皆適当だが、学校だと制服のネクタイなどで学年の違いがわかりやすいからだろうか。それとも学校という場は学年違いというものを妙に意識する場だからだろうか。学食は別に学年別と決まっているわけではないが、何となく自然と学年別に皆集まっている。だから今までも周太がもし高典の周辺にいたとしたら、目立っていて気づかないはずなかった。

「……一年は皆向こうで食べてるよ」
「ですね。でも俺、高典先輩と食べたいです」
「平向」
「え?」
「だから! 勝手に名前呼ぶなって言ってんの。名字で呼んでくれない?」

 親しい間柄でもないのに、と高典は微妙な顔を周太へ向けた。多分普段なら名字で呼ばれようが名前で呼ばれようがここまで頑なではなかったと思う。下の学年のあまり知らない相手にいきなり名前で呼ばれたら普段でも「お前は俺の何?」くらいは思うかもしれないが、ここまで何度も「名前で呼ぶな」とは言わなかった気がする。

「俺にそんなに呼ばれたいんですね。ってことはその分一緒にいたいってこと? 嬉しいな」

 いや、何でそうなる。

「違う。呼ばれたくないし一緒にいたいなんて一言も言ってない。そうじゃなくて親しくもないのに名前で呼ぶなってことだか……」

 だから、と言いかけているとぎゅっと手を両手でつかまれ握られた。

「これからものすごく親しくなっていきますから問題ないですよ」
「問題しかねえよ……!」

 心底やばいやつだ、と高典は血の気が引いたような気持ちになりながら周太を見た。そしてデジャヴを感じつつ急いで昼食をかっ込み、席を立った。

「高典先輩は早食いなんですね。でも本当に消化によくないですよ」

 だからお前のせいだよ……!

 心の中で言い返しつつも無言で高典はトレーを返却口へと持って行った。どうせ言い返しても暖簾に腕押し、糠に釘だ。まともに返ってこないだろう。

 つか、これある意味ストーカーじゃないか?

 寮住まいなだけに高典も周太も同じところに住んでいる。だから住居を特定されたとか家の周りをうろつかれたといった被害は気持ちの上ではあっても、事実としては少し違う。ただ、ピンポイントで高典が寮の食堂や学食に来る時間を把握されているような気がしてならない。

 絶対にそうだ……。

 放課後、寮へ帰る時にまた実感した。昼休みに「じゃなかった……」と思ったことがデジャヴとなって浮かぶ。

「偶然ですね、高典先輩。一緒に帰りましょう!」
 学年違うのにこんなピンポイントな偶然ある?
「お前一年だろ。何で二年の靴箱にいんの?」
「通りたくなって」

 相変わらず顔だけはとてつもなく極上な様子でにっこりと周太は笑いかけてきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

処理中です...