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朝、まだ少し眠気がさめやらないまま高典が寮の食堂で朝食をとっていると、忘れたくても記憶から抜けてくれない声で「高典先輩」と聞こえてきた。一気に目が覚めるとともにまだ半分以上残っている朝食のトレーをつかみ、高典は立ち上がろうとする。
「高典先輩どうしたんですか? トイレですか? それなら是非ご一緒したいところですが、ぐっと堪えてトレーは俺が見張っておきますからどうぞ行ってきてください」
どうもこうもお前のせいだよ。というか是非一緒したいって、何。
「何でトイレ行くのにトレー持っていくんだよおかしいだろ……。というか何お前は当たり前のように俺の隣に座るだけじゃなく、当たり前のように俺の名前呼んでんの? あとお前に飯預けてなんて無理。一瞬たりとも目を離せるわけないだろ」
第一印象は怪訝に思いつつも綺麗な顔立ちやスタイルがいいとどれも肯定的ではあったが、それらは即、今やほぼ見られない空港での反転フラップ式案内表示機のように「やばいやつ」に一瞬でパタパタと全て塗り替えられている。ちなみにどうでもいいことだが普通LEDなどで表示される出発案内板の旧式を知っているのは昔の映画やドラマの影響だったりする。昔の作品が何気に好きだ。
とにかく、塗り替えられた印象での勝手なイメージではあるが、目を離せば食事に変なものでも混入されそうで怖い。
「おい、平向どうしたんだ? この後輩、お前の知り合い?」
近くに座っていた同級生が聞いてくる。
「……知り合いたくなかった」
「は? 平向、何言ってんの?」
「高典先輩って思ってたより照れ屋さんなんですね、かわいい」
うふふと嬉しそうに整った顔を綻ばせてくる周太を、高典はこの世で最も意味のわからない生物を発見したかのような顔で見た。
「何言ってんのはこいつだろ……お前ほんと何言ってんの?」
「俺、何か変なこと言いました?」
「変なことしか言ってない。あと名前で呼ぶな」
「では愛しい先輩とか大切なせんぱ……」
「名字って存在知ってる……?」
近くに座っていた同級生は状況がわからないせいかむしろおかしげに笑っている。とはいえ訳のわからない周太と同類だと思われて距離を突然空けられないだけマシなのだろうか。
結局せっかく作ってくれている食事を残すのも申し訳なくて高典は急いでかっ込んだ。
「そんなに慌てて食べたら消化よくないですよ高典先輩」
「お前といるほうが俺にはよくない。あと名字! 平向!」
名字を言い放つと高典は立ち上がり、周太を無視してトレーを戻すと食堂を出た。
今まで食堂で会った記憶がないものの、多分今までは知らない相手だから記憶にないだけだろう。今後は朝晩警戒しながら食堂へ向かわないとなのかと高典は小さくため息をついた。
じゃなかった……。
昼休みに学食へ向かった時に高典は実感した。
知らない相手だから記憶になかったのではない。絶対に、間違いなく、周太があえて会いにきているからだ。
寮の食堂では皆適当だが、学校だと制服のネクタイなどで学年の違いがわかりやすいからだろうか。それとも学校という場は学年違いというものを妙に意識する場だからだろうか。学食は別に学年別と決まっているわけではないが、何となく自然と学年別に皆集まっている。だから今までも周太がもし高典の周辺にいたとしたら、目立っていて気づかないはずなかった。
「……一年は皆向こうで食べてるよ」
「ですね。でも俺、高典先輩と食べたいです」
「平向」
「え?」
「だから! 勝手に名前呼ぶなって言ってんの。名字で呼んでくれない?」
親しい間柄でもないのに、と高典は微妙な顔を周太へ向けた。多分普段なら名字で呼ばれようが名前で呼ばれようがここまで頑なではなかったと思う。下の学年のあまり知らない相手にいきなり名前で呼ばれたら普段でも「お前は俺の何?」くらいは思うかもしれないが、ここまで何度も「名前で呼ぶな」とは言わなかった気がする。
「俺にそんなに呼ばれたいんですね。ってことはその分一緒にいたいってこと? 嬉しいな」
いや、何でそうなる。
「違う。呼ばれたくないし一緒にいたいなんて一言も言ってない。そうじゃなくて親しくもないのに名前で呼ぶなってことだか……」
だから、と言いかけているとぎゅっと手を両手でつかまれ握られた。
「これからものすごく親しくなっていきますから問題ないですよ」
「問題しかねえよ……!」
心底やばいやつだ、と高典は血の気が引いたような気持ちになりながら周太を見た。そしてデジャヴを感じつつ急いで昼食をかっ込み、席を立った。
「高典先輩は早食いなんですね。でも本当に消化によくないですよ」
だからお前のせいだよ……!
心の中で言い返しつつも無言で高典はトレーを返却口へと持って行った。どうせ言い返しても暖簾に腕押し、糠に釘だ。まともに返ってこないだろう。
つか、これある意味ストーカーじゃないか?
寮住まいなだけに高典も周太も同じところに住んでいる。だから住居を特定されたとか家の周りをうろつかれたといった被害は気持ちの上ではあっても、事実としては少し違う。ただ、ピンポイントで高典が寮の食堂や学食に来る時間を把握されているような気がしてならない。
絶対にそうだ……。
放課後、寮へ帰る時にまた実感した。昼休みに「じゃなかった……」と思ったことがデジャヴとなって浮かぶ。
「偶然ですね、高典先輩。一緒に帰りましょう!」
学年違うのにこんなピンポイントな偶然ある?
「お前一年だろ。何で二年の靴箱にいんの?」
「通りたくなって」
相変わらず顔だけはとてつもなく極上な様子でにっこりと周太は笑いかけてきた。
「高典先輩どうしたんですか? トイレですか? それなら是非ご一緒したいところですが、ぐっと堪えてトレーは俺が見張っておきますからどうぞ行ってきてください」
どうもこうもお前のせいだよ。というか是非一緒したいって、何。
「何でトイレ行くのにトレー持っていくんだよおかしいだろ……。というか何お前は当たり前のように俺の隣に座るだけじゃなく、当たり前のように俺の名前呼んでんの? あとお前に飯預けてなんて無理。一瞬たりとも目を離せるわけないだろ」
第一印象は怪訝に思いつつも綺麗な顔立ちやスタイルがいいとどれも肯定的ではあったが、それらは即、今やほぼ見られない空港での反転フラップ式案内表示機のように「やばいやつ」に一瞬でパタパタと全て塗り替えられている。ちなみにどうでもいいことだが普通LEDなどで表示される出発案内板の旧式を知っているのは昔の映画やドラマの影響だったりする。昔の作品が何気に好きだ。
とにかく、塗り替えられた印象での勝手なイメージではあるが、目を離せば食事に変なものでも混入されそうで怖い。
「おい、平向どうしたんだ? この後輩、お前の知り合い?」
近くに座っていた同級生が聞いてくる。
「……知り合いたくなかった」
「は? 平向、何言ってんの?」
「高典先輩って思ってたより照れ屋さんなんですね、かわいい」
うふふと嬉しそうに整った顔を綻ばせてくる周太を、高典はこの世で最も意味のわからない生物を発見したかのような顔で見た。
「何言ってんのはこいつだろ……お前ほんと何言ってんの?」
「俺、何か変なこと言いました?」
「変なことしか言ってない。あと名前で呼ぶな」
「では愛しい先輩とか大切なせんぱ……」
「名字って存在知ってる……?」
近くに座っていた同級生は状況がわからないせいかむしろおかしげに笑っている。とはいえ訳のわからない周太と同類だと思われて距離を突然空けられないだけマシなのだろうか。
結局せっかく作ってくれている食事を残すのも申し訳なくて高典は急いでかっ込んだ。
「そんなに慌てて食べたら消化よくないですよ高典先輩」
「お前といるほうが俺にはよくない。あと名字! 平向!」
名字を言い放つと高典は立ち上がり、周太を無視してトレーを戻すと食堂を出た。
今まで食堂で会った記憶がないものの、多分今までは知らない相手だから記憶にないだけだろう。今後は朝晩警戒しながら食堂へ向かわないとなのかと高典は小さくため息をついた。
じゃなかった……。
昼休みに学食へ向かった時に高典は実感した。
知らない相手だから記憶になかったのではない。絶対に、間違いなく、周太があえて会いにきているからだ。
寮の食堂では皆適当だが、学校だと制服のネクタイなどで学年の違いがわかりやすいからだろうか。それとも学校という場は学年違いというものを妙に意識する場だからだろうか。学食は別に学年別と決まっているわけではないが、何となく自然と学年別に皆集まっている。だから今までも周太がもし高典の周辺にいたとしたら、目立っていて気づかないはずなかった。
「……一年は皆向こうで食べてるよ」
「ですね。でも俺、高典先輩と食べたいです」
「平向」
「え?」
「だから! 勝手に名前呼ぶなって言ってんの。名字で呼んでくれない?」
親しい間柄でもないのに、と高典は微妙な顔を周太へ向けた。多分普段なら名字で呼ばれようが名前で呼ばれようがここまで頑なではなかったと思う。下の学年のあまり知らない相手にいきなり名前で呼ばれたら普段でも「お前は俺の何?」くらいは思うかもしれないが、ここまで何度も「名前で呼ぶな」とは言わなかった気がする。
「俺にそんなに呼ばれたいんですね。ってことはその分一緒にいたいってこと? 嬉しいな」
いや、何でそうなる。
「違う。呼ばれたくないし一緒にいたいなんて一言も言ってない。そうじゃなくて親しくもないのに名前で呼ぶなってことだか……」
だから、と言いかけているとぎゅっと手を両手でつかまれ握られた。
「これからものすごく親しくなっていきますから問題ないですよ」
「問題しかねえよ……!」
心底やばいやつだ、と高典は血の気が引いたような気持ちになりながら周太を見た。そしてデジャヴを感じつつ急いで昼食をかっ込み、席を立った。
「高典先輩は早食いなんですね。でも本当に消化によくないですよ」
だからお前のせいだよ……!
心の中で言い返しつつも無言で高典はトレーを返却口へと持って行った。どうせ言い返しても暖簾に腕押し、糠に釘だ。まともに返ってこないだろう。
つか、これある意味ストーカーじゃないか?
寮住まいなだけに高典も周太も同じところに住んでいる。だから住居を特定されたとか家の周りをうろつかれたといった被害は気持ちの上ではあっても、事実としては少し違う。ただ、ピンポイントで高典が寮の食堂や学食に来る時間を把握されているような気がしてならない。
絶対にそうだ……。
放課後、寮へ帰る時にまた実感した。昼休みに「じゃなかった……」と思ったことがデジャヴとなって浮かぶ。
「偶然ですね、高典先輩。一緒に帰りましょう!」
学年違うのにこんなピンポイントな偶然ある?
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