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14話
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相変わらず周太の襲撃に脅かされつつ備える日々を過ごしていた高典だが、ここ数日はそういえばその周太がやって来ないなと何となく思っていた。
嬉しいはずだが、あまりに当たり前のようにやって来られてはドン引きしたり逃げようとしたりすることが続きすぎたのだろうか、少し不安さえ感じる。寂しいとかそういった甘い感情ではなく、多分「もしかして何か考えがあるのでは」「何かとんでもないことの前触れでは」といった不安だろうと高典は微妙な気持ちで思った。
しかし一日、二日どころか三日経っても四日経ってもちらりとも姿を見せてこない。
「な、なあ」
「んー」
教室でぼんやり自分の席に座って本を読んでいた祐理に話しかけると生返事が返ってきた。勉強に関しては特に好きとかはなく普段も文学少年にはまず見えない祐理だが、読書はかなり好きだったりする。高典は古い映画やドラマが好きなのでたまに映画化、ドラマ化された小説などなら話は合う。そんな祐理なので読み始めるとあまり相手をしてもらえないのはわかっている。だが生返事だろうがつい聞かずにはいられなかった。
「お前が紹介してきた変態いるだろ」
「んー」
「あいつ、最近なんかあったの」
「誰って?」
まだ本から目は離さずだが「んー」以外の言葉が口から出てきた。それだけでもよしと思う。
「だからあの変態」
「変態……に俺知り合いいないけど」
「だから紹介してきたやつ!」
「んー」
正直名前を呼ぶのも抵抗があり、今までもあまり呼ばないようにしてきた。意味は違うがどこかのファンタジー小説の「名前を呼んではいけないあの人」のような感覚というのだろうか。もちろん畏怖しているわけでもなんでもないが、名前を呼べば飛んでくるのではといったあり得ない呪いにかかっている気がするからだ。
もちろん実際にそんなことがあり得ないことはちゃんとわかっている。わかっているが、風邪を人にうつすと治るとか黒猫が横切ると不吉とか十三日の金曜日が不吉とかそういったジンクスみたいなものだ。名前を呼べば飛んでくる。
いや、でもここ数日姿見せないのが変に落ち着かないというか気になるから、いっそ試しに呼んでみてもいいのでは?
「あいつだよ、小雪! 小雪周太!」
口に、それもフルネームで口にしてしまい、高典は思わず身構えた。だが当たり前といえば当たり前だが周太が飛んでくる気配はない。
ふと見れば祐理が本から目を離し、怪訝な顔で高典を見ていた。
「何でそんな身構えてんの?」
「い、いや。とにかく小雪ってどうしてんだ」
「……? それは俺よりお前のほうがよく知ってんじゃないのか?」
「何でだよ」
「別に付き合ってる云々言うつもりはないけどさ」
「言ってるからな今」
「いつも一緒にいるし。あ、でもそういえばここんところいないな。どうしたんだ?」
「だからそれを俺がお前に聞いてたの」
「あー。何? 気になんのか?」
別に祐理は他のやつらのように茶化した顔や口調で聞いてきてはいない。単なる事実や思ったことを口にしているだけなのはわかっている。だがついムキになって「気にするはずないだろ!」と言い返してしまったのは仕方ないと高典は思う。周太にさんざん微妙な気持ちにさせられていて身構えたりしてしまうのがきっと条件反射になっているのだと思う。
「そうか」
普段高典はツンデレでも何でもない性格なのもあり、おかげで祐理は言葉通り受け取ってまた本に目を落とした。
まあでも俺のほうがよく知ってるのではって言ってたし、多分長郷も知らないってことだよな。
そう納得するしかない。だいたい気にする必要は本当にないはずだ。むしろ来なくなってよかったと安心するところではないだろうか。後ろ向きな考えをするタイプでもないはずだというのに何故何かあるのではと不安に駆られなくてはならないのか。
……不安? とも、違う、のか?
改めて「不安」と浮かべてみると何となく違和感はある。とはいえ心細いといった感情では、確実にない。ただ気になってしまうだけだ。
いや、だから何で気にすんの、俺は。
思いきりため息をつくと、面倒になってそのまま机に突っ伏し、居眠りすることにした。
翌日、そしてまたさらに翌日となっても周太は顔を見せてこなかった。明日でもう一週間になる。
別に気にしてないんだからね、という典型的なツンデレのようなことを自分に言い聞かせつつ、気を取り直そうと高典はルームメイトの雄士に「ちょっとジュース買ってくるわ」と断りを入れてから部屋を出た。自分のフロアの自動販売機へ向かうとまた欲しいジュースが切れている。もういっそこの一列全部同じ種類にしてもいいのではと思いつつ、仕方なくまた階上の自動販売機がある場所へ向かった。
そこでいつものジュースを買い、部屋へ戻る前に何となく無意識に近くのソファーへ座ってそのままプルトップを開けた。だがいざ飲もうとした瞬間、背後から「高典先輩見つけた!」という声とともに結構な勢いで抱き着かれ、ジュースが思いきり顔やTシャツを濡らしていく。
「……何か弁明は?」
「……ごめんなさい」
思いきりジュースまみれになった顔で背後の存在を引き離してジロリと睨みつつ言えば素直に謝ってくる。
高典としても怒ればいいのか引けばいいのか、それとも久しぶりに見て妙にホッとする気持ちについて少し考えればいいのかわからなくてとりあえず「先に確認くらいしろよ」と口にした。
「確認してからならいくらでも抱き着いていいんですか」
「そこじゃない……!」
何故ずっとやって来なかったかわからないままだが、久しぶりに見た気がする周太は相変わらずだった。
嬉しいはずだが、あまりに当たり前のようにやって来られてはドン引きしたり逃げようとしたりすることが続きすぎたのだろうか、少し不安さえ感じる。寂しいとかそういった甘い感情ではなく、多分「もしかして何か考えがあるのでは」「何かとんでもないことの前触れでは」といった不安だろうと高典は微妙な気持ちで思った。
しかし一日、二日どころか三日経っても四日経ってもちらりとも姿を見せてこない。
「な、なあ」
「んー」
教室でぼんやり自分の席に座って本を読んでいた祐理に話しかけると生返事が返ってきた。勉強に関しては特に好きとかはなく普段も文学少年にはまず見えない祐理だが、読書はかなり好きだったりする。高典は古い映画やドラマが好きなのでたまに映画化、ドラマ化された小説などなら話は合う。そんな祐理なので読み始めるとあまり相手をしてもらえないのはわかっている。だが生返事だろうがつい聞かずにはいられなかった。
「お前が紹介してきた変態いるだろ」
「んー」
「あいつ、最近なんかあったの」
「誰って?」
まだ本から目は離さずだが「んー」以外の言葉が口から出てきた。それだけでもよしと思う。
「だからあの変態」
「変態……に俺知り合いいないけど」
「だから紹介してきたやつ!」
「んー」
正直名前を呼ぶのも抵抗があり、今までもあまり呼ばないようにしてきた。意味は違うがどこかのファンタジー小説の「名前を呼んではいけないあの人」のような感覚というのだろうか。もちろん畏怖しているわけでもなんでもないが、名前を呼べば飛んでくるのではといったあり得ない呪いにかかっている気がするからだ。
もちろん実際にそんなことがあり得ないことはちゃんとわかっている。わかっているが、風邪を人にうつすと治るとか黒猫が横切ると不吉とか十三日の金曜日が不吉とかそういったジンクスみたいなものだ。名前を呼べば飛んでくる。
いや、でもここ数日姿見せないのが変に落ち着かないというか気になるから、いっそ試しに呼んでみてもいいのでは?
「あいつだよ、小雪! 小雪周太!」
口に、それもフルネームで口にしてしまい、高典は思わず身構えた。だが当たり前といえば当たり前だが周太が飛んでくる気配はない。
ふと見れば祐理が本から目を離し、怪訝な顔で高典を見ていた。
「何でそんな身構えてんの?」
「い、いや。とにかく小雪ってどうしてんだ」
「……? それは俺よりお前のほうがよく知ってんじゃないのか?」
「何でだよ」
「別に付き合ってる云々言うつもりはないけどさ」
「言ってるからな今」
「いつも一緒にいるし。あ、でもそういえばここんところいないな。どうしたんだ?」
「だからそれを俺がお前に聞いてたの」
「あー。何? 気になんのか?」
別に祐理は他のやつらのように茶化した顔や口調で聞いてきてはいない。単なる事実や思ったことを口にしているだけなのはわかっている。だがついムキになって「気にするはずないだろ!」と言い返してしまったのは仕方ないと高典は思う。周太にさんざん微妙な気持ちにさせられていて身構えたりしてしまうのがきっと条件反射になっているのだと思う。
「そうか」
普段高典はツンデレでも何でもない性格なのもあり、おかげで祐理は言葉通り受け取ってまた本に目を落とした。
まあでも俺のほうがよく知ってるのではって言ってたし、多分長郷も知らないってことだよな。
そう納得するしかない。だいたい気にする必要は本当にないはずだ。むしろ来なくなってよかったと安心するところではないだろうか。後ろ向きな考えをするタイプでもないはずだというのに何故何かあるのではと不安に駆られなくてはならないのか。
……不安? とも、違う、のか?
改めて「不安」と浮かべてみると何となく違和感はある。とはいえ心細いといった感情では、確実にない。ただ気になってしまうだけだ。
いや、だから何で気にすんの、俺は。
思いきりため息をつくと、面倒になってそのまま机に突っ伏し、居眠りすることにした。
翌日、そしてまたさらに翌日となっても周太は顔を見せてこなかった。明日でもう一週間になる。
別に気にしてないんだからね、という典型的なツンデレのようなことを自分に言い聞かせつつ、気を取り直そうと高典はルームメイトの雄士に「ちょっとジュース買ってくるわ」と断りを入れてから部屋を出た。自分のフロアの自動販売機へ向かうとまた欲しいジュースが切れている。もういっそこの一列全部同じ種類にしてもいいのではと思いつつ、仕方なくまた階上の自動販売機がある場所へ向かった。
そこでいつものジュースを買い、部屋へ戻る前に何となく無意識に近くのソファーへ座ってそのままプルトップを開けた。だがいざ飲もうとした瞬間、背後から「高典先輩見つけた!」という声とともに結構な勢いで抱き着かれ、ジュースが思いきり顔やTシャツを濡らしていく。
「……何か弁明は?」
「……ごめんなさい」
思いきりジュースまみれになった顔で背後の存在を引き離してジロリと睨みつつ言えば素直に謝ってくる。
高典としても怒ればいいのか引けばいいのか、それとも久しぶりに見て妙にホッとする気持ちについて少し考えればいいのかわからなくてとりあえず「先に確認くらいしろよ」と口にした。
「確認してからならいくらでも抱き着いていいんですか」
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