ドラマのような恋を

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23話

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 好きだという気持ちが溢れそうで葵はついまた抱きしめていたのだが、相変わらず奏真は抵抗してこなかった。また演技だの何だのと勘違いしている可能性は否めない上に、今ここで「好きだ」とまた言おうものなら間違いなく台詞だと奏真が思いそうな気がする。葵はとりあえずその辺は考えないことにした。
 改めて抱きしめ、奏真の華奢な体を実感した。以前は貧相な体だと思っていたが、こうしてちゃんと触れてみると走っているだけあって細いながらもそれなりに引き締まっている。

「お前、陸上やってるわりに華奢だよな」

 とはいえ口に出た言葉はどうにもひねくれていて、我ながら素直でないなと微妙になる。ただ、耳元で言った後に奏真がほんのり体を震わせたように思えた。それに気を取られていると奏真が「葵ってバンドでは何担当なの」と本当に突然聞いてきた。

 今の流れで、何故そういう質問が出るんだ。

「……は? 急に何……つかお前が言うとバンドが趣味でやってるみたいに聞こえんだけど……。俺はギターボーカルだ」
「ああ、だからか」
「は? 何がだよ!」

 本当にこいつは何を考えているのか謎過ぎる。

 葵が微妙に思いつつ聞くも、何か考えているのか返事がない。

「おい、聞いてんのか」
「……うるさ……」

 え、俺が煩がられるとこなのか?

 おまけにため息までつかれた。納得いかない。体が華奢だという話で何か言われるならまだしも、全然関係のないことを言われ、わからないからそれについて聞いたら煩いと言われた。さすがにこれは理不尽ではないのか。
 だというのに怒りは湧かない。むしろこんな扱いを受けてもなお、この平凡なのに変わった男がかわいく思えてしまう。

「てめえ……。この俺を振り回し過ぎなんだよ」

 文句を言いつつもさらに抱きしめる。奏真の匂いが鼻を擽る。匂いといっても香水をつけているわけでなく体臭が濃いわけでもない。匂いまで平凡なのかもしれないが、それでも他とは違う、奏真の匂いだ。
 ついため息が漏れそうになり、葵は気を逸らすためにもじっと黙っている奏真に「聞いてんのか?」とまた文句をつけた。

「抱きしめながら文句とか、意味わからないんだけど……」
「お前が悪いんだよ!」
「……理不尽……」

 お前が言うのか?

 微妙に思いつつも、やはりかわいい。自分でも意味わからないくらい、こんなに理不尽でわけのわからない変わり者がかわいくて仕方ない。

「あーもう、クソ」

 さらに強く抱きしめた。触れる体は温かい。気温の高い外と違い、空調の効いている室内だとその体温は心地よかった。
 女とはやはり違う体だが、自分とも違う。背中に這わせていた手を下へやり、腰に触れた。やはり女のような括れはないが、華奢なせいか自分とは違った細さを葵は感じた。

「な……に?」
「腰も華奢だな」
「……変態なの……?」
「ち、違うわ!」

 思わず抱きしめていた手を離した。顔が熱い。照れ隠しにもならないだろうに、葵は奏真を睨んだ。

「じゃあ……何で腰とか……」
「別に触れたいのは腰だけじゃねーよ」

 キスは嫌だと先ほど言われた。それでもやってしまっていいような気がしつつ、やはりこういうことで奏真に嫌な思いはさせたくなかった。

 手で触れるくらいならいんじゃね?

 嫌な思いはさせたくないが、葵だって大人でもないので我慢の限界はある。抱きしめても抵抗はないようだったし、触れるくらいなら……と唇で触れる代わりに自分の手で触れた。
 まず、男の唇も女と同じで柔らかいのだなと思った。その後にその柔らかい唇が奏真の唇なのだと意識してしまうと、もう駄目だった。途中、何言っているのかわからないが奏真が抗議してきても、さらに指で奏真の口内を余すことなく堪能していた。
 それまでも多少何らかの反応を見せていた奏真だが、上顎を擦ると明らかに今までとは違う様子を見せてきた。おまけに苦しいからか気持ちがいいからかわからないが、いつの間にか涙目になっている。顔も、葵にとっては堪らない表情を見せてきた。
 これ以上は駄目だ、と葵はようやく奏真から離れた。これ以上触れていると、嫌な思いしかさせなさそうだ。自分が堪えられそうにない。多分無理やりにでもどうにかしてしまいそうだ。
 離れて見る奏真は、今もまだ涙目でほんのり顔色が上気している。

「あー……クソ」

 平凡なくせに何だよその表情。

「……くそって言うなら俺のほうだし……」

 心なしか奏真の声が上ずっているように聞こえた。それすら今の葵にとっては興奮材料になってしまう。

「……悪い」
「人の口……弄って楽しいの?」
「おい……微妙に俺を変態扱いするな……」

 好きな相手の口なら楽しいに決まっているだろうという反論は飲み込んでいたが、変態扱いはいくら何でも嫌だ。やはりもう一度好きだと言おう、と葵は決めた。

「でも」
「お前が好きだからに決まってんだろ」
「……、え、これも演……」
「演技じゃねーから……!」
「?」
「怪訝な顔するな。俺は、お前が、好きなんだよ!」
「は……?」
「あークソ。芸能人で有名人の俺に向かって、それも好きだって言われて『は』っとか言えんのてめえだけだからなっ?」

 奏真は平凡で基本無表情な顔を存分にポカンとさせている。

「んだよ、その顔は」
「……そんな態度なのに好きとか、本気?」
「待て、そこ? まずそこなのか?」

 演技でなく好きだと言われているとようやく理解してくれたにしても、まず思うところはそこではないのではないだろうかと葵は微妙になった。

 ほら、男同士だろとか、芸能人が? とか、何と言うか……。

「……どこ? 好きなら好きらしくしてくれないとわからない」
「え、あ? え、ちょ、それって……あの、俺を受け入れ……?」
「それは別の話だけど……」

 結局別なのかよ……っ?
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