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22話
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また抱きしめてくる葵に対し、奏真はされるがまま怪訝に思っていた。
演技はもうしていないと言っていた。本人に確認したし、その後雑談が続いていたように思う。だから今は素の葵であるはずだ。
じゃあ……何で抱きしめてくるんだ?
ただ、芸能人だからだろうかと思ったところで奏真はその考えに対して妙に納得した。
そうだ、多分芸能人だからだ。
芸能界での当たり前は奏真には到底わからない。とは言え、葵本人がさほど興味を持っていなさそうな食の世界に何故かつき合ってくれている。大抵は皆、「桐江って意外にも食うの好きだよな」と呆れてか面白そうに言ってくるぐらいで流してくる。もしくは理解できないから諭そうとしてくる。だが葵は文句を言ってくるわりに受け入れ、向き合ってくれている気がする。なら、奏真も理解できないでも、可能な範囲で受け入れるべきではないだろうか。
奏真は基本的に面倒くさがりだが、別に人が嫌いなわけでも何かに対し腹を立てているわけでもこの世を恨んでいるわけでもない。面倒くさいのと大抵のことに興味が湧かないだけで、向き合えないわけではない。
そういえば芸能界には何となく殺伐としたイメージを奏真は持っている。もしかしたらこういう行為は外国人のハグ的な感覚で、殺伐とした芸能界でわかりやすく親しみを表現するものなのかもしれない。
「お前、陸上やってるわりに華奢だよな」
耳元で葵の声がした。兄である奏一朗も抱きしめながら話してくるとその辺で声がすることがあるはずなのに、何となくほんのり違和感を覚えた。耳がくすぐったいような、ふわりと触れられているような感触がした気がする。
怪訝に思った後、浮かんだ。
「葵ってバンドでは何担当なの」
「……は? 急に何……つかお前が言うとバンドが趣味でやってるみたいに聞こえんだけど……。俺はギターボーカルだ」
「ああ、だからか」
「は? 何がだよ!」
恐らく声がいいからだ。プロのバンドでボーカルを担当するほど声がいいから、きっと今も兄の時と違った感覚がしたのだろうと奏真は納得した。
「おい、聞いてんのか」
「……うるさ……」
とは言え、例え声がよかろうが耳がムズムスしようが、煩いものは煩い。ため息混じりに呟けば「てめえ……」と唸るような声がした。
「この俺を振り回し過ぎなんだよ」
抱きしめたままで葵は文句を言い出した。奏真からすれば、まず抱擁を解いてからすればいいのにと思う。だが言えばまた倍になって返ってきそうなので黙っていた。ただ、黙っていても「聞いてんのか?」と煩い。
「抱きしめながら文句とか、意味わからないんだけど……」
「お前が悪いんだよ!」
俺……?
「……理不尽……」
「あーもう、クソ」
納得がいかないので理不尽だと言えば、むしろさらにぎゅっと抱きしめてくる。全くもって意味わからない。反応するのも面倒で、またされるがまま黙っていると葵の片手が奏真の背中から腰の辺りに触れてきた。また変にモゾモゾとした感じを覚えた。
「な……に?」
「腰も華奢だな」
「……変態なの……?」
「ち、違うわ!」
とうとう葵が抱擁を解いてきた。何故か少し赤い顔で奏真を睨んでくる。睨まれるいわれはないが、とりあえず今までの流れに所々意味わからないところがあった分、もしかしたらその際に奏真が無意識に何かやってしまったのだろうか。
「じゃあ……何で腰とか……」
「別に触れたいのは腰だけじゃねーよ」
ムッとした顔のまま、葵は手を上げて今度は奏真の唇に触れてきた。自分ではない他人の指が下唇の中心からそっと口角へとなぞるように触れてくる。
まただ……。
奏真は少し目を細めながら思った。また変な感じがした。ムズムスとした感覚が先ほどよりも強い。
その指は上唇をなぞり中心まで来ると、唇の割れ目にゆっくりと入ってきた。そして今度は歯列をなぞってくる。
何のつもりだと言おうとしたら、指は口内にまで入ってきた。そして舌に触れてくる。
「にゃにんああ」
「何言ってんのかわかんねーよ」
だったら口から指を出せと言いたいが、同じく何を言っているのか自分でもわからないし、これ以上何か言おうとすると涎が垂れそうだ。
避けようとしても逃れられず、その内に指が奏真の上顎を手前から奥へと擦ってきた。
「は、ぐ……」
モゾモゾなんてものではない。ぞわりと湧き起こる表現しがたい感覚が脳から背中に走り、奏真は涙目になりながら怪訝な気持ちで眉を潜めた。一体今、自分は何されているのだろうと思う。
先ほど、キスしていいかと聞かれたが、これがキスではないことくらいは奏真にもわかる。
これも演技か何かの一種? それとも何かのいたずら? もしくは嫌がらせなのか?
止めさせようにも何か言おうにもできず、だというのに無理やり強引にされている感じはしない。あくまでもゆっくり、それも優しさすらありそうな勢いでそっと触れてくる。
ただ、それが余計に奏真がモゾモゾとなるのを増長している気がしないでもない。
「ふ、……っく」
ふと、ろくな抵抗できないのは葵の力が強いからだと思っていたが、もしかしたら自分も大して抵抗できていないのではないだろうかと奏真はぼんやり思った。
結局、よくわからないまましばらくすると解放された。
演技はもうしていないと言っていた。本人に確認したし、その後雑談が続いていたように思う。だから今は素の葵であるはずだ。
じゃあ……何で抱きしめてくるんだ?
ただ、芸能人だからだろうかと思ったところで奏真はその考えに対して妙に納得した。
そうだ、多分芸能人だからだ。
芸能界での当たり前は奏真には到底わからない。とは言え、葵本人がさほど興味を持っていなさそうな食の世界に何故かつき合ってくれている。大抵は皆、「桐江って意外にも食うの好きだよな」と呆れてか面白そうに言ってくるぐらいで流してくる。もしくは理解できないから諭そうとしてくる。だが葵は文句を言ってくるわりに受け入れ、向き合ってくれている気がする。なら、奏真も理解できないでも、可能な範囲で受け入れるべきではないだろうか。
奏真は基本的に面倒くさがりだが、別に人が嫌いなわけでも何かに対し腹を立てているわけでもこの世を恨んでいるわけでもない。面倒くさいのと大抵のことに興味が湧かないだけで、向き合えないわけではない。
そういえば芸能界には何となく殺伐としたイメージを奏真は持っている。もしかしたらこういう行為は外国人のハグ的な感覚で、殺伐とした芸能界でわかりやすく親しみを表現するものなのかもしれない。
「お前、陸上やってるわりに華奢だよな」
耳元で葵の声がした。兄である奏一朗も抱きしめながら話してくるとその辺で声がすることがあるはずなのに、何となくほんのり違和感を覚えた。耳がくすぐったいような、ふわりと触れられているような感触がした気がする。
怪訝に思った後、浮かんだ。
「葵ってバンドでは何担当なの」
「……は? 急に何……つかお前が言うとバンドが趣味でやってるみたいに聞こえんだけど……。俺はギターボーカルだ」
「ああ、だからか」
「は? 何がだよ!」
恐らく声がいいからだ。プロのバンドでボーカルを担当するほど声がいいから、きっと今も兄の時と違った感覚がしたのだろうと奏真は納得した。
「おい、聞いてんのか」
「……うるさ……」
とは言え、例え声がよかろうが耳がムズムスしようが、煩いものは煩い。ため息混じりに呟けば「てめえ……」と唸るような声がした。
「この俺を振り回し過ぎなんだよ」
抱きしめたままで葵は文句を言い出した。奏真からすれば、まず抱擁を解いてからすればいいのにと思う。だが言えばまた倍になって返ってきそうなので黙っていた。ただ、黙っていても「聞いてんのか?」と煩い。
「抱きしめながら文句とか、意味わからないんだけど……」
「お前が悪いんだよ!」
俺……?
「……理不尽……」
「あーもう、クソ」
納得がいかないので理不尽だと言えば、むしろさらにぎゅっと抱きしめてくる。全くもって意味わからない。反応するのも面倒で、またされるがまま黙っていると葵の片手が奏真の背中から腰の辺りに触れてきた。また変にモゾモゾとした感じを覚えた。
「な……に?」
「腰も華奢だな」
「……変態なの……?」
「ち、違うわ!」
とうとう葵が抱擁を解いてきた。何故か少し赤い顔で奏真を睨んでくる。睨まれるいわれはないが、とりあえず今までの流れに所々意味わからないところがあった分、もしかしたらその際に奏真が無意識に何かやってしまったのだろうか。
「じゃあ……何で腰とか……」
「別に触れたいのは腰だけじゃねーよ」
ムッとした顔のまま、葵は手を上げて今度は奏真の唇に触れてきた。自分ではない他人の指が下唇の中心からそっと口角へとなぞるように触れてくる。
まただ……。
奏真は少し目を細めながら思った。また変な感じがした。ムズムスとした感覚が先ほどよりも強い。
その指は上唇をなぞり中心まで来ると、唇の割れ目にゆっくりと入ってきた。そして今度は歯列をなぞってくる。
何のつもりだと言おうとしたら、指は口内にまで入ってきた。そして舌に触れてくる。
「にゃにんああ」
「何言ってんのかわかんねーよ」
だったら口から指を出せと言いたいが、同じく何を言っているのか自分でもわからないし、これ以上何か言おうとすると涎が垂れそうだ。
避けようとしても逃れられず、その内に指が奏真の上顎を手前から奥へと擦ってきた。
「は、ぐ……」
モゾモゾなんてものではない。ぞわりと湧き起こる表現しがたい感覚が脳から背中に走り、奏真は涙目になりながら怪訝な気持ちで眉を潜めた。一体今、自分は何されているのだろうと思う。
先ほど、キスしていいかと聞かれたが、これがキスではないことくらいは奏真にもわかる。
これも演技か何かの一種? それとも何かのいたずら? もしくは嫌がらせなのか?
止めさせようにも何か言おうにもできず、だというのに無理やり強引にされている感じはしない。あくまでもゆっくり、それも優しさすらありそうな勢いでそっと触れてくる。
ただ、それが余計に奏真がモゾモゾとなるのを増長している気がしないでもない。
「ふ、……っく」
ふと、ろくな抵抗できないのは葵の力が強いからだと思っていたが、もしかしたら自分も大して抵抗できていないのではないだろうかと奏真はぼんやり思った。
結局、よくわからないまましばらくすると解放された。
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