46 / 65
Infinity編
1話
しおりを挟む
宮嶋 寛人(みやじま ひろと)は昔から歌が得意だった。あと、ギターの演奏も好きで、高校生の時はよく大きな駅前で弾き語りをしていた。友人とすることもあったが、自由にできるのもあり、一人でするほうが多かった。
目立つことは別に好きではないが、ギターや歌が昔から好きだった。
その後スカウトされ、プロとしてデビューできることになった時も、有名になれるとか目立つといったことにテンションは特に上がらなかった。だが好きなことを職業にできると思うと嬉しかった。
「ゴンはどのみち頭よくねぇから芸能人になれてよかったんじゃねぇの」
事務所のソファーに座り、雑誌を読みながら言ってくる相手を、寛人はじろりと睨む。
「うるせぇんだよカンジ」
あと別に頭は悪くねぇんだよ、普通なんだよ、と心の中でだけつけ足す。声に出さないのは、相手のほうがどう見ても頭が悪そうにしか見えないというのにその実、かなり頭がいいことを寛人は知っているからだ。言うだけ馬鹿馬鹿しい。
「あ? 俺はうるさくねぇだろ。今るせーのはどっちかっつーとエンだろが」
柑治こと大黒 貫士(おおぐろ かんじ)が舌打ちしながら寛人を見てきた。ウェーブがかった髪を面倒そうにかきあげている。綺麗にグラデーションの入った髪は毛先が明るめだが、ぜんぜん傷んでいるように見えない。面倒くさがりのわりに手入れはきちんとしているのだろう。
自分から人を馬鹿にしたようなことを言っておきながらその態度、と苛つくが確かに今一番煩いのは貫士ではなかった。
「はぁっ? てめ、ざけんなよ。その日は俺と過ごすために開けとけっつっただろが! ぁあっ? クソ、わかったよ! 俺もその大福食べ比べってやつ、行くからな!」
プロとしてデビューすることになったが、ソロではなかった。Infinityという五人のバンドの一人、厳として寛人はデビューした。Infinityはあっという間に有名になっていった。そしてその中でも一番人気があると言われている、ギターも弾くメインボーカルの焔、本名穂村 葵(ほむら あおい)、が先ほどから一人でやたら煩い。もちろん実際一人で騒いでいるのではないが、電話しているので一見、一人で煩い感じになっている。恐らく電話相手は今葵がつき合っている桐江 奏真(きりえ そうま)だろう。今まで女とつき合っているところしか知らなかったので、男とつき合いだしたことには何気に驚いた。芸能界では同性愛もさほど珍しくないが、葵にそういう気はなさそうだったのと、何よりあんな平凡そうな相手に本気だということが一番驚く。
ファンや同業者からすらもかわいい爽やか系男子だと思われているものの、その実やたら偉そうで生意気な葵が相手に振り回されている様子は正直楽しいが、そこまで好きなのかとも驚く。
っつか、大福の食べ比べ……?
ちなみにむしろいつもよく彼女に電話をしている、一番年下である風真 凛太(かざま りんた)は今、コーヒーテーブルに置かれている菓子に夢中のためわりと静かだ。たまに近くで雑誌を読んでいる貫士に「フータ、俺にもそれよこせ」と言われて「はい」と素直に渡したり「これは俺の」と渡さなかったりしている。風太としてバンドではドラムスを担当している凛太は、顔が整っているのは前提の上でタレ目と八重歯が特徴的な元気系男子として知られている。実際ここでもやたら元気だが、いまだに何となく底が知れないというか何を考えているかいまいちよくわからないところがある。恐らくはひたすら自由なのだろう。
「エンは確かにうるせぇけど、俺が言ってる意味とちげぇだろが」
またじろりと貫士を睨めば、むしろ楽しそうにニヤリと笑われた。それがまた苛立たしい。
「じゃあどういう意味で言ってんだ? 俺は確かに馬鹿だから耳が痛いですって意味か?」
「ぁあっ?」
「喧嘩するなら外でやってね。週刊誌にくだらないネタ提供してあげるといいよ」
寛人がキレかけているところでいつものように水乃 基希(みずの もとき)がニコニコ笑顔ですっぱりと言い放ってきた。基希は翠という名前でキーボードを担当している。一番年上でこのバンドのリーダーである基希は、周りから面倒見のよい優しいお兄さん系だと見られている。もちろん実際もそうだ。お兄さんというよりお母さんに近いかもしれない。料理も上手い。そして落ち着いており基本穏やかだ。髪は茶髪に青のポイントヘアカラーが入っている。だが派手さは感じられず基希に似合っていてシックな雰囲気さえある。
ちなみに凛太とは違う意味で底知れない怖さを持っており、メンバーの誰もが基希だけは怒らせたくないと思っている。
「は。んなもんやってられっかよ」
貫士も小馬鹿にしたように言いながらも、また雑誌に集中し出した。
貫士は柑治という名前でバンドではベースを担当している。全員がもちろん歌も演奏も上手いのだが、貫士のベースは寛人的に悔しいながらも特に上手いと思う。葵とつき合っている奏真が貫士のベースを一番気に入っているそうだが、奏真の耳は確かだと寛人は思っている。
頭も相当いいらしいし演奏や歌も上手い。貫士を鬱陶しいと思っている寛人も認めざるを得ないが顔もスタイルもかなりいい。非の打ち所がない持ち物に、確かに偉そうにも気が強くもなるかもしれない。
いや、だからといって偉ぶる必要はないし、非の打ち所はある。
ほんっと性格、最低なんだよな。
寛人は忌々しげに舌打ちした。
目立つことは別に好きではないが、ギターや歌が昔から好きだった。
その後スカウトされ、プロとしてデビューできることになった時も、有名になれるとか目立つといったことにテンションは特に上がらなかった。だが好きなことを職業にできると思うと嬉しかった。
「ゴンはどのみち頭よくねぇから芸能人になれてよかったんじゃねぇの」
事務所のソファーに座り、雑誌を読みながら言ってくる相手を、寛人はじろりと睨む。
「うるせぇんだよカンジ」
あと別に頭は悪くねぇんだよ、普通なんだよ、と心の中でだけつけ足す。声に出さないのは、相手のほうがどう見ても頭が悪そうにしか見えないというのにその実、かなり頭がいいことを寛人は知っているからだ。言うだけ馬鹿馬鹿しい。
「あ? 俺はうるさくねぇだろ。今るせーのはどっちかっつーとエンだろが」
柑治こと大黒 貫士(おおぐろ かんじ)が舌打ちしながら寛人を見てきた。ウェーブがかった髪を面倒そうにかきあげている。綺麗にグラデーションの入った髪は毛先が明るめだが、ぜんぜん傷んでいるように見えない。面倒くさがりのわりに手入れはきちんとしているのだろう。
自分から人を馬鹿にしたようなことを言っておきながらその態度、と苛つくが確かに今一番煩いのは貫士ではなかった。
「はぁっ? てめ、ざけんなよ。その日は俺と過ごすために開けとけっつっただろが! ぁあっ? クソ、わかったよ! 俺もその大福食べ比べってやつ、行くからな!」
プロとしてデビューすることになったが、ソロではなかった。Infinityという五人のバンドの一人、厳として寛人はデビューした。Infinityはあっという間に有名になっていった。そしてその中でも一番人気があると言われている、ギターも弾くメインボーカルの焔、本名穂村 葵(ほむら あおい)、が先ほどから一人でやたら煩い。もちろん実際一人で騒いでいるのではないが、電話しているので一見、一人で煩い感じになっている。恐らく電話相手は今葵がつき合っている桐江 奏真(きりえ そうま)だろう。今まで女とつき合っているところしか知らなかったので、男とつき合いだしたことには何気に驚いた。芸能界では同性愛もさほど珍しくないが、葵にそういう気はなさそうだったのと、何よりあんな平凡そうな相手に本気だということが一番驚く。
ファンや同業者からすらもかわいい爽やか系男子だと思われているものの、その実やたら偉そうで生意気な葵が相手に振り回されている様子は正直楽しいが、そこまで好きなのかとも驚く。
っつか、大福の食べ比べ……?
ちなみにむしろいつもよく彼女に電話をしている、一番年下である風真 凛太(かざま りんた)は今、コーヒーテーブルに置かれている菓子に夢中のためわりと静かだ。たまに近くで雑誌を読んでいる貫士に「フータ、俺にもそれよこせ」と言われて「はい」と素直に渡したり「これは俺の」と渡さなかったりしている。風太としてバンドではドラムスを担当している凛太は、顔が整っているのは前提の上でタレ目と八重歯が特徴的な元気系男子として知られている。実際ここでもやたら元気だが、いまだに何となく底が知れないというか何を考えているかいまいちよくわからないところがある。恐らくはひたすら自由なのだろう。
「エンは確かにうるせぇけど、俺が言ってる意味とちげぇだろが」
またじろりと貫士を睨めば、むしろ楽しそうにニヤリと笑われた。それがまた苛立たしい。
「じゃあどういう意味で言ってんだ? 俺は確かに馬鹿だから耳が痛いですって意味か?」
「ぁあっ?」
「喧嘩するなら外でやってね。週刊誌にくだらないネタ提供してあげるといいよ」
寛人がキレかけているところでいつものように水乃 基希(みずの もとき)がニコニコ笑顔ですっぱりと言い放ってきた。基希は翠という名前でキーボードを担当している。一番年上でこのバンドのリーダーである基希は、周りから面倒見のよい優しいお兄さん系だと見られている。もちろん実際もそうだ。お兄さんというよりお母さんに近いかもしれない。料理も上手い。そして落ち着いており基本穏やかだ。髪は茶髪に青のポイントヘアカラーが入っている。だが派手さは感じられず基希に似合っていてシックな雰囲気さえある。
ちなみに凛太とは違う意味で底知れない怖さを持っており、メンバーの誰もが基希だけは怒らせたくないと思っている。
「は。んなもんやってられっかよ」
貫士も小馬鹿にしたように言いながらも、また雑誌に集中し出した。
貫士は柑治という名前でバンドではベースを担当している。全員がもちろん歌も演奏も上手いのだが、貫士のベースは寛人的に悔しいながらも特に上手いと思う。葵とつき合っている奏真が貫士のベースを一番気に入っているそうだが、奏真の耳は確かだと寛人は思っている。
頭も相当いいらしいし演奏や歌も上手い。貫士を鬱陶しいと思っている寛人も認めざるを得ないが顔もスタイルもかなりいい。非の打ち所がない持ち物に、確かに偉そうにも気が強くもなるかもしれない。
いや、だからといって偉ぶる必要はないし、非の打ち所はある。
ほんっと性格、最低なんだよな。
寛人は忌々しげに舌打ちした。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
45
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる