ドラマのような恋を

Guidepost

文字の大きさ
45 / 65

45話(終)

しおりを挟む
「お疲れ様でした」

 にっこり頭を下げた後に、葵は楽屋へ向かった。
 新しいドラマ撮りが始まっていた。久しぶりに学生恋愛もので、葵は主人公である女優の相手役だ。最近多かった、恋愛もありつつな人生ドラマに比べるとかなり恋愛中心のコメディタッチだ。ただ演技はそう楽でもない。人を笑わせるのはシリアスよりも案外難しい。現場では撮っていない時はわりと和気あいあいとしているが、いざ本番が始まるとラブコメ系とは思えないほどその場に独特の緊張感が走る。そんな中でコミカルな演技を行うのは演技力を試されているような気持ちにさえなる。
 葵がしかし「焔くん、いい味出してる」「突っ込みのテンポ上手いね」などと褒められているのは、嬉しくもあり微妙でもある。突っ込みのテンポがもし本当に上手いというのなら、恐らくそれは奏真で鍛えられたからだ。相変わらず独特のマイペースっぷりで葵を振り回してくれる。
 この間も少し昼から夕方にかけて時間が出来たので学校へ向かい、とりあえず昼休みに奏真と昼食をとったのだが、その時にも微妙な気持ちにさせられた。

「この時期に屋上は寒いんだけど……」
「この俺だぞ。食堂だと注目を浴びるだろが」
「……? 浴びるの好きでしょ?」
「す、きじゃねえよ! つかそうじゃねんだよ。注目浴びたらイチャつけねーだろが」
「……そもそも外でそんなことしようとしてるのが変」
「は? 何でだよ」
「あんたが芸能人だからだよ……」

 Infinityを好きになってからようやく初めて奏真は葵を芸能人と認めてきた気がとてつもなくするが、それはさておき男同士ということはどうやらあまり気にしていない様子の奏真が、芸能人である葵のことを気にしてくれていることに、葵はとてつもなく感動を覚える。
 思わず抱きしめようとするとサッと離れられた。奏真のくせに生意気だぞと某アニメのキャラクターのようなことを思いつつ、学校へ来る前に買いに寄ったバケットのサンドを渋々頬張ると、奏真も嬉しそうに食べ始めた。

「それ、だろ。好きなやつ」
「うん。スペシャルデラックスサンド」
「……ああ、そういえば。借りは返さねぇとな」

 ふと思い立ち、ニヤリと笑いながら葵は自分のパンからレタスを一枚抜きとった。

「……いらないんだけど」
「あ? めちゃくちゃ根に持ってただろ。やるからパンに挟めよ」
「根に持つのは当たり前だし。バランスが大切なんだ。今もこれがベストのバランスだからいらない」
「相変わらず食い物のことになるとうるせぇな、お前」

 差し出したレタスを引っ込めようとすると、だが奏真がそのレタスに食いついてきた。柔らかい奏真の唇がほんの少し指先に触れる。

「な、んだよ」

 平凡な顔のくせに食いついてくる様子がかわいくてならない上に、あの奏真がそういうことをするのかと思うと込み上げる気持ちも一入だ。葵が思わず声をつまらせているというのに、奏真は口を離すとモグモグと食べながら淡々と返してきた。

「せっかくだから」
「ああクソ!」
「……何でそこでクソなの」
「そんななのにクソかわいいんだよお前! なのに抱きしめさせないって鬼かよっ?」
「……何言ってんの……?」

 実際かわいさにまた抱きしめたくて仕方ないというのに、奏真はむしろ引いたように見てくる。
 まあいい。今日は夕方まで空いてるからな。放課後急いで連れて帰り、隅々まで堪能してやる。

「奏真、今日の放課後はうちに来い」
「無理」
「即答かよっ? 何でだ」
「部活あるから」
「またかよっ? 俺と部活、どっちが大事なんだ!」
「部活」
「てめぇぇぇぇ……!」

 結局あの日もマジで部活選びやがったんだよな……。

 微妙な顔で思い返しつつ、葵は着替えを済ませた。明日は日曜の上に休みを取っている。また奏真の実家へ向かうためだ。

「クソめんどくせぇ……」

 ぼそりと呟く。未だに奏真の兄、奏一朗には嫌われており、避けられている。何度会おうとしても無視されたり、奏真の計らいで会えてもドラマで見かけるような典型的姑のような態度に出られる。その度に芸能人蒼井焔として穏やかに接しているが、そろそろ限界だ。
 電話をかけると奏真が面倒くさそうに出てきた。

「何だそのやる気のねぇ感じは。終わったから帰るぞ」
『うん』
「今どこだ」
『……もうあんたの家にいるよ』
「よし」

 葵は満足げに電話を切った。明日一緒に奏真の実家へ向かうのだから今日は葵のマンションへ泊まれと伝えてあった。最初は面倒だと渋っていた奏真も「フォンセのケーキがある。好きに食えばいい」と言えば「行く」と即答だった。微妙に納得いきがたいがよしとした。カードキーは既に以前渡してあった。

 明日があるから無茶はできねえけど……久しぶりだし今度こそ堪能してやる。

 実際、マンションへ戻ると葵は奏真を離すことなく、風呂でベッドでとじっくりイチャつき、冬に入ろうとしているこの時期にたっぷり汗をかいた。

「仕事疲れとか、あんたにはないの……」

 ぐったりした奏真が呆れたように言ってくる。

「その疲れを癒してんだよ」
「……意味わかんない」
「何でだよ、もっかい犯すぞ」
「犯されたつもりはないけど」
「あー言えばこう言う……。……はー。そういや、明日こそ、お前のクソ兄貴に認めさせるぞ」
「だから無理」
「何でだよ! この俺が下手に出てやってんのに、クソ」
「……それ」
「? どれ」
「下手にっての。……あんたはあんたのままでいればいいのに」
「俺は俺だけど」
「俺の家族に接する時、あんた焔になってる」
「は? お前……前は演技かどうかもわからなかったくせに」
「前? ああ、好きだのどうだのとか言われたらわかるわけないし」
「……」
「それに兄さんに接するとこ見てたら嫌でもわかる」
「あっちのが人受けいいだろが」
「あんたは葵なんだから、葵でいい。俺の兄さんにも偉そうでいいよ。そしたら兄さんも無視できずに言い返してくるし、ぶつかり合えばいい」

 淡々と言ってきたかと思うと、あの奏真が少し笑いかけてきた。

 ああ、クソ。

 奏真には調子を狂わされてばかりで、今まで葵が経験していたような、そしてドラマのような恋愛に全然ならない。お洒落なやりとりやわかりやすくも楽しめる駆け引きなど皆無だ。

 けれども──

 葵は奏真に笑いかけた。

「やっぱ、もっかいヤっていい?」
「明日、あんたが俺を抱えて向かう羽目になるけど」
「いくらでも抱えてやる」

 そしていくらでも振り回してくればいい。
 曲がり角で出くわしてぶつかる、などといったどうやらお約束らしい出来事で出会ったわけだが、平凡なくせに規格外というのが奏真らしくて葵はそういう奏真が好きだ。

 ドラマのような恋なんて、クソ食らえだ。

 葵は笑いながら奏真をまた押し倒した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隣の席のイケメンに懐かれた

しょうがやき
BL
隣の席のイケメンに懐かれた平凡男子の話

期待の名探偵の頭脳は、俺に全振りされている。

さんから
BL
高校生探偵後輩×漫画描き先輩 部活の後輩・後生掛 清志郎は、数々の難事件を解決してきた期待の名探偵だ。……だけど高校に入学してから探偵の活動を控えているらしく、本人いわくその理由は俺・指宿 春都にあると言う。 「俺はイブ先輩だけに頼られたいし、そのために可能な限りあなたの傍にいたいんですっ」 いつもそう言って、しょうもないことばかりに推理力を使う後生掛。頭も見た目も良いコイツがどうして俺に執着してるのかが分からなくて──。

君に捧げる、魔法のレシピ〜さえない動画配信者の僕が、クラスの王子様的男子に恋をした結果〜

ryon*
BL
地味でおとなしい性格の高校生 佐藤 理人は、趣味でこっそりお菓子のレシピ動画を公開している人気配信者でありスイーツ研究家。 ある日理人は、幼なじみの太陽に味見用としてクッキーを手渡すところを、大路に見られてしまう。 しかも清雅は大の甘党で、理人が配信している動画の大ファンだったことが判明。 しかし清雅は、理人=推し配信者の『りとる』だとはまったく気付いていなくて……!?

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

告白ごっこ

みなみ ゆうき
BL
ある事情から極力目立たず地味にひっそりと学園生活を送っていた瑠衣(るい)。 ある日偶然に自分をターゲットに告白という名の罰ゲームが行われることを知ってしまう。それを実行することになったのは学園の人気者で同級生の昴流(すばる)。 更に1ヶ月以内に昴流が瑠衣を口説き落とし好きだと言わせることが出来るかということを新しい賭けにしようとしている事に憤りを覚えた瑠衣は一計を案じ、自分の方から先に告白をし、その直後に全てを知っていると種明かしをすることで、早々に馬鹿げたゲームに決着をつけてやろうと考える。しかし、この告白が原因で事態は瑠衣の想定とは違った方向に動きだし……。 テンプレの罰ゲーム告白ものです。 表紙イラストは、かさしま様より描いていただきました! ムーンライトノベルズでも同時公開。

今日は少し、遠回りして帰ろう【完】

新羽梅衣
BL
「どうしようもない」 そんな言葉がお似合いの、この感情。 捨ててしまいたいと何度も思って、 結局それができずに、 大事にだいじにしまいこんでいる。 だからどうかせめて、バレないで。 君さえも、気づかないでいてほしい。 ・ ・ 真面目で先生からも頼りにされている枢木一織は、学校一の問題児・三枝頼と同じクラスになる。正反対すぎて関わることなんてないと思っていた一織だったが、何かにつけて頼は一織のことを構ってきて……。 愛が重たい美形×少しひねくれ者のクラス委員長、青春ラブストーリー。

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

処理中です...