転生少女は憧れの騎士として生きたい

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「きれい……」

 プレゼントとしてもらった吸い込まれそうなほど深い青のピアスを、イーディスは食い入るように見つめていた。光に反射してキラキラと光る宝石はじっと見つめていると深い深い青なのだが光に反射すると屋敷の近くにあるとても美しいと有名な泉の表面のように色鮮やかな青にも見える。

「大事に身につけていなさい」

 両親から言われ、イーディスは「はい!」と満面の笑みを向けた。
 今日はイーディス・ディーンの十歳となる誕生日だった。
 人は皆、強い弱いの差はあれども魔法の力を持っている。この世に誕生した時に親から受け継がれるものだが、現在はその力を一旦封じ込めるため、それぞれの家の宝石が使われていた。
 親から贈られた宝石は一旦神殿が預り、魔封じの力を込められる。それにより幼い間は魔法を無意識に使えなくすることになっていた。こうすることで物心もつかないような幼児が使い方もわからず魔法を暴発させたりといった事故を防ぐことができる。
 そして十歳の誕生日を迎えると、その宝石は魔封じの力を解かれ、魔法の媒体としてその子に合った形の装飾に加工され、改めて贈られた。ネックレスだったり、ブレスレットだったり、すでに剣士になる予定がある者ならば剣の装飾だったり、魔術師なら杖の装飾であったり。
 イーディスは侯爵家ディーン代々に伝わるサファイアを加工したピアスだった。その美しい青はイーディスの金色の髪や明るい緑の瞳にもよく似合っていた。
 嬉しくて大はしゃぎだった誕生日会の夜、疲れもあったのだろうか、それとも魔封じが解かれての影響だろうか、イーディスは熱を出した。かなり高い熱で、イーディスはひたすらうなされた。三日間も高熱は続いたと後で聞いた。



「っは」

 あまりの苦しさに心臓がどきどきとしている。このまま心臓が胸から飛び出てくるのではというくらい、どくどくと動いているのがわかる。生きているという実感とともに、ああ、またおれは搬送されたのかと圭吾は周りを見渡しながら思った。沢山の管が自分から伸びている。指先には酸素濃度と脈拍を測るパルスオキシメーターがつけられているのも見なくてもわかった。
 狭山 圭吾(さやま けいご)は二十四歳で無職だ。就職ができるのならもちろんしたかったが、家と病院を絶えず往復しているような体では無理な話らしく、日々ゲームをしたり本を読んだり勉強したりといった趣味を楽しみながら過ごしている。これだけ聞くと羨ましがられるかもしれないが、死と隣り合わせだと知ると羨ましいと思う人は激減するだろう。
 そもそも趣味と言えるのかさえわからない。携帯ゲーム機でゲームをするか本を読むか勉強をするかくらいしか他にすることがないのだ。ほとんど自宅か病院のベッドから出られない。たまに起き上がることができても足腰が弱っているため車椅子がないと移動できない。体調が悪くなくともこうして動かないために腹も空かず、たまにきつい薬を投与される関係で味覚もおかしくなっているため、食事もあまりできないし楽しめない。
 本を読んだり勉強したりして増えていく知識は役立てる場所もなくただ自分の中に蓄積されていくだけだった。
 自分の足で歩き、物語の中のように恋をしたりスポーツをしたり戦ったり走り回ったりするのが圭吾の夢だった。それが叶わないのは薄々わかっている。だがせっかく今は生きているのだ。落ち込んでいてはもったいないと、圭吾はまたゲームや本を楽しむ。具合がいい時には病院で仲良くなった看護師や入院患者と楽しく話したりもした。

「狭山さんがよく読む本はどんな本?」
「おれ? そうだなーわりと何でも読むよ。推理ものもジュブナイルな青春ものも、恋愛ものもホラーもエッセイもどれも楽しいし。あ、でもそうだね、最近よく読んでるのはファンタジーかな。世界観が好きだな」
「へえ、ファンタジーかあ。私、童話とかくらいしか知らないなあ」
「童話も面白いよね。おれは騎士が出てくる話が好きなんだ。誰かを守る騎士ってかっこいいなあと思って」
「現代には少なくともいなさそうだなあ」
「現代ならあれじゃない、彼氏が騎士になる感じ」
「狭山さん夢見過ぎ。そんな騎士みたいな人いるなら私、お願いして彼氏になってもらいたいけど」

 また入院してから何とか体が落ち着いた圭吾は、先ほどから一つ上の看護師とそんな話をしていた。体調も比較的よくて、会話を楽しめることすら嬉しい。
 ちなみにトイレに付き添ってもらうのも恥ずかしがっていられないので女性看護師だろうがいつも気軽に頼む。そしてトイレからの帰り、非常階段の近くで小さな子どもが一人でうろうろしているのを見かけた。

「迷子かな」
「かも。危ないしちょっと私」

 声かけてくるねと看護師が言いかけた時、その子どもが足を滑らせたのかバランスを崩したのか、階段から落ちそうになった。
 どこにそんな力があったのかは自分でもわからない。だがまだまだこれからである元気そうな子どもが階段から落ちて大怪我をするか下手をすれば打ちどころが悪く死んでしまうなんてあってはならないと思った圭吾は、気づけば思い切り車椅子の車輪を回していた。そして椅子から飛び出して子どもを抱きしめた。当然、そのまま落ちる。
 幸いと言うのだろうか。途中から意識はなくなり、痛みを感じることはなかった。子どもは大声で泣いていたそうだが圭吾に抱きしめられて奇跡的に全く怪我はなかったようだ。反面、全身が病魔と投薬で弱っていた圭吾は骨までぼろぼろになった。
 そのまま目を覚まさなかったのは結局事故死なのか、怪我では一命をとりとめたものの病気が悪化しての病死なのかは圭吾にはわかり得ない。ただ、落ちて意識を失う前に(おれが誰かを守れた)と思い、充足感に包まれていたことは間違いない。
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