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19話
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レリアードのことで心を痛めつつ捜索を強化しようとしていた矢先、レナードにとってさらに悪い知らせが入ってきた。
イーディスを運んでいた馬車の従者より「いつまで経っても戻ってこなく、待っているように言われていたもののとうとうあちこちを探したが見つからない」とディーン家に報告が入り、それが王宮にも知らせとして届いたのだ。
先ほどから小広間を閉め切り、王やイーディスの父親であるヘルフォルト侯爵やその息子であり長男のテイマーそして一部の信頼できる他の貴族が集まり話し合っている。レナードはジュードとそれぞれの側近の四人でジュードの執務室で話をしていた。王たちと分かれて話をしているのは考えが偏らないためでもある。
とりあえず今の時点で、イーディスをさらった犯人はレリアードをさらった犯人と同一犯である可能性がかなり高いと思われる。町を捜索して、レナードが見た不審な馬車らしき馬車を別の場所で見かけたという証言も取れた。決めつけは危険なので他の可能性も考慮には入れつつもやはりジュードを支持している貴族の誰かが計画的に実行したものであろうという線で固まってきているし、おそらくイーディスは今回の犯行計画に巻き込まれたのではないかというところまでは全員一致の意見だった。
今は彼らを犯人やレリアード、イーディスをどう見つけるかということを話し合っている。
「あの、兄上」
「どうした?」
「僕は……侍女の実家を調べてみようかと。ただの侍女が普通どういう状況で兄上派の貴族と結託してレリアードをさらうことになると思います? 僕は特に浮かばなかった。ではその女性の親はどういう者かと思いまして」
「なるほど……」
どうにかして糸口を見つけたいと必死に考えつつもレナードは心底心配だった。愛する大事な弟とイーディス二人もが危険にさらされている。何が何でも無事助けたかった。
イーディスは好奇心が強くて冒険心のある女性だが、いざという時は冷静で落ち着いた判断もできる女性でもある。だから無茶はしないだろうと思う反面、懸命に剣士を目指しているような人だ。
──どうか無茶なことはしませんように。
レナードは祈った。
そのイーディスは目を覚ますとどこか知らない部屋の中にいることに気づいた。薄暗いが調度品を見る限り民家というより屋敷といった雰囲気を感じる。
(っ痛。……誰か知らないけど後ろから思い切り殴ってくれちゃって。私が前世の体だったら多分それでもう死んでたからね! っていうかここどこだよ。つか誰の仕業なのよほんっとムカつく)
どうやらベッドに寝かされているようでそこに横たわったまま辺りをそっと窺った。見張りらしき存在はとりあえずこの部屋の中にはいないようだ。少しホッとしてズキズキと痛む後頭部を手で撫でながら起き上がった。そして自分の手を見て改めて手足が縛られていないことに気づく。部屋の片隅にあるソファーに目がいき、何かが座っていることにも気づいた。ギョッとしたがすぐに力が抜ける。赤子を抱く女性だ。多分馬車で見た赤子と侍女らしき使用人だろう。しかし、ということは犯人の一人という可能性があることに気づき、うっかり起き上がったことを後悔する。
だがその女性はイーディスの方を見ることなくぎゅっと赤子を抱きしめ、顔は強張っていた。とりあえずイーディスが想像するような犯人っぽくは見えない。
その時部屋の外から怒鳴り声が聞こえてきた。
『ヘルフォルト侯爵令嬢だってっ? 馬鹿者が……!』
『も、申し訳ありません。しかし見られてどうしようも……』
『この計画が成功すれば次期皇后陛下の妹となる女だぞ。なんてことをしてくれたんだ……!』
『レリアード殿下をさらってるところを見られたんですよ? 放っておけばよかったと言うんですか』
(レリアード? まさかあの赤ちゃん、レリアード殿下なの? レナードの弟なの?)
イーディスの顔が青ざめた。何かろくでもない様子だとは思ったが、レリアードの顔をまだきちんと拝見していなかったのもあり全く気づかなかった。しかも聞き捨てならない言葉を耳にした。
(次期皇后陛下の妹ですって? まさかエレンお姉さまのことを陛下だと? ってことは……ちょっと、やめてよ……)
即座に浮かんだことにイーディスはますます青ざめる。エレンが次期皇后陛下ということは、レリアードが生まれたことによって現在王位継承権第二位となったジュードが次の陛下だと言っているようなものだ。考えが正しければレリアードを抹殺するということになる。
『煩い。っくそ。次期陛下の義妹に犯行を見られた上にさらっているんだぞ。家に帰せると思うのか?』
『仕方ありませんぜ、こうなっては』
部屋の外の会話はどんどん雲行きが怪しくなっていく。イーディスは手先が冷たくなっているのを感じた。だが何とか深呼吸を繰り返し、気持ちを落ち着かせようと試みる。そしてまたソファーの方を窺った。
赤子は将来大物にでもなるのかもしれない。こんな状況でも大人しい。スヤスヤ眠っているのかもしれない。それに女性の抱き方がいいのだろうか。
とはいえ話の流れからすれば、レリアードを抱いている女性は今回の計画に加担している犯人の一人ということになる。イーディスは女性をじっと見た。やはり表情は強張ったままだ。どうにもこの恐ろしい計画を企てた一人には見えない。だが実際赤子を抱いて馬車までやってきたのはこの女性だった。おそらくやはり侍女ではないだろうか。レリアードの侍女だからこそ、協力もあっただろうが王宮からまんまとレリアードをさらってこれたのではないだろうか。
レリアードの顔がチラリと見えた。やはり王族の血だろう。よくよく見ればまだ薄い髪は銀色をしている。おそらく瞳は青いのだろう。今は気持ちよさそうに眠っていて見えない。
(私の扱いに困って殿下と同じ部屋に閉じ込めたんだな。にしても殿下じゃなくてもこんな可愛い赤ちゃんを親から引き離して、ひょっとしたら抹殺しようと考えるなんて許せない)
あまりにジッと見ていたからだろう。とうとう女性はイーディスの視線に気づいた。顔を青ざめてくる。女性に対して甘い自分というのもあるが、やはりどうにも犯人の一人に見えなくてイーディスはそっと人差し指を立てて唇に当て、もう片方の手で手招きをした。
イーディスを運んでいた馬車の従者より「いつまで経っても戻ってこなく、待っているように言われていたもののとうとうあちこちを探したが見つからない」とディーン家に報告が入り、それが王宮にも知らせとして届いたのだ。
先ほどから小広間を閉め切り、王やイーディスの父親であるヘルフォルト侯爵やその息子であり長男のテイマーそして一部の信頼できる他の貴族が集まり話し合っている。レナードはジュードとそれぞれの側近の四人でジュードの執務室で話をしていた。王たちと分かれて話をしているのは考えが偏らないためでもある。
とりあえず今の時点で、イーディスをさらった犯人はレリアードをさらった犯人と同一犯である可能性がかなり高いと思われる。町を捜索して、レナードが見た不審な馬車らしき馬車を別の場所で見かけたという証言も取れた。決めつけは危険なので他の可能性も考慮には入れつつもやはりジュードを支持している貴族の誰かが計画的に実行したものであろうという線で固まってきているし、おそらくイーディスは今回の犯行計画に巻き込まれたのではないかというところまでは全員一致の意見だった。
今は彼らを犯人やレリアード、イーディスをどう見つけるかということを話し合っている。
「あの、兄上」
「どうした?」
「僕は……侍女の実家を調べてみようかと。ただの侍女が普通どういう状況で兄上派の貴族と結託してレリアードをさらうことになると思います? 僕は特に浮かばなかった。ではその女性の親はどういう者かと思いまして」
「なるほど……」
どうにかして糸口を見つけたいと必死に考えつつもレナードは心底心配だった。愛する大事な弟とイーディス二人もが危険にさらされている。何が何でも無事助けたかった。
イーディスは好奇心が強くて冒険心のある女性だが、いざという時は冷静で落ち着いた判断もできる女性でもある。だから無茶はしないだろうと思う反面、懸命に剣士を目指しているような人だ。
──どうか無茶なことはしませんように。
レナードは祈った。
そのイーディスは目を覚ますとどこか知らない部屋の中にいることに気づいた。薄暗いが調度品を見る限り民家というより屋敷といった雰囲気を感じる。
(っ痛。……誰か知らないけど後ろから思い切り殴ってくれちゃって。私が前世の体だったら多分それでもう死んでたからね! っていうかここどこだよ。つか誰の仕業なのよほんっとムカつく)
どうやらベッドに寝かされているようでそこに横たわったまま辺りをそっと窺った。見張りらしき存在はとりあえずこの部屋の中にはいないようだ。少しホッとしてズキズキと痛む後頭部を手で撫でながら起き上がった。そして自分の手を見て改めて手足が縛られていないことに気づく。部屋の片隅にあるソファーに目がいき、何かが座っていることにも気づいた。ギョッとしたがすぐに力が抜ける。赤子を抱く女性だ。多分馬車で見た赤子と侍女らしき使用人だろう。しかし、ということは犯人の一人という可能性があることに気づき、うっかり起き上がったことを後悔する。
だがその女性はイーディスの方を見ることなくぎゅっと赤子を抱きしめ、顔は強張っていた。とりあえずイーディスが想像するような犯人っぽくは見えない。
その時部屋の外から怒鳴り声が聞こえてきた。
『ヘルフォルト侯爵令嬢だってっ? 馬鹿者が……!』
『も、申し訳ありません。しかし見られてどうしようも……』
『この計画が成功すれば次期皇后陛下の妹となる女だぞ。なんてことをしてくれたんだ……!』
『レリアード殿下をさらってるところを見られたんですよ? 放っておけばよかったと言うんですか』
(レリアード? まさかあの赤ちゃん、レリアード殿下なの? レナードの弟なの?)
イーディスの顔が青ざめた。何かろくでもない様子だとは思ったが、レリアードの顔をまだきちんと拝見していなかったのもあり全く気づかなかった。しかも聞き捨てならない言葉を耳にした。
(次期皇后陛下の妹ですって? まさかエレンお姉さまのことを陛下だと? ってことは……ちょっと、やめてよ……)
即座に浮かんだことにイーディスはますます青ざめる。エレンが次期皇后陛下ということは、レリアードが生まれたことによって現在王位継承権第二位となったジュードが次の陛下だと言っているようなものだ。考えが正しければレリアードを抹殺するということになる。
『煩い。っくそ。次期陛下の義妹に犯行を見られた上にさらっているんだぞ。家に帰せると思うのか?』
『仕方ありませんぜ、こうなっては』
部屋の外の会話はどんどん雲行きが怪しくなっていく。イーディスは手先が冷たくなっているのを感じた。だが何とか深呼吸を繰り返し、気持ちを落ち着かせようと試みる。そしてまたソファーの方を窺った。
赤子は将来大物にでもなるのかもしれない。こんな状況でも大人しい。スヤスヤ眠っているのかもしれない。それに女性の抱き方がいいのだろうか。
とはいえ話の流れからすれば、レリアードを抱いている女性は今回の計画に加担している犯人の一人ということになる。イーディスは女性をじっと見た。やはり表情は強張ったままだ。どうにもこの恐ろしい計画を企てた一人には見えない。だが実際赤子を抱いて馬車までやってきたのはこの女性だった。おそらくやはり侍女ではないだろうか。レリアードの侍女だからこそ、協力もあっただろうが王宮からまんまとレリアードをさらってこれたのではないだろうか。
レリアードの顔がチラリと見えた。やはり王族の血だろう。よくよく見ればまだ薄い髪は銀色をしている。おそらく瞳は青いのだろう。今は気持ちよさそうに眠っていて見えない。
(私の扱いに困って殿下と同じ部屋に閉じ込めたんだな。にしても殿下じゃなくてもこんな可愛い赤ちゃんを親から引き離して、ひょっとしたら抹殺しようと考えるなんて許せない)
あまりにジッと見ていたからだろう。とうとう女性はイーディスの視線に気づいた。顔を青ざめてくる。女性に対して甘い自分というのもあるが、やはりどうにも犯人の一人に見えなくてイーディスはそっと人差し指を立てて唇に当て、もう片方の手で手招きをした。
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