ポーションしか作らないので宮廷から追放されたけれど、俺は絶対にポーション作りを諦めません!

中谷キョウ

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姉妹との邂逅

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 暖かな陽気とゆっくりと吹き付けるそよ風。
 穏やかな昼下がり。まさに今日は絶好の採取日和といったところだろう。

 帝都の大きな城門を抜けるとそこには平原が広がっていた。
 石畳の街道には商人たちの馬車が走り。小麦畑のある一画には豆粒ほどの人たちがせっせと農作業にいそしんでいる。

 宮廷に閉じこもっていた俺にとってこの風景はなんだか新鮮だ。
 帝都の乱雑とした雰囲気と違い自然にあふれている。

「で、なんでお前がここにいるの」
「あはは……たまたまだよ。たまたま」

 ジト目で俺を見上げてくるのは先ほど俺からクエストを奪った少女である。
 名前はまだ知らない。

 薬草の採取ポイントを押さえようと思いこの少女の後をつけたら失敗した。
 誰がどう見ても完璧な尾行だったのに……こいつはもしかして探知魔法の達人なのだろうか。

「はぁ。お前は普段から箱に入って街をうろつくのが趣味なの? それに今も木の上に登っているけどバレバレなの」
「う、いやこれには海よりも深い事情があってだな」

 そう、俺には至高のポーションを作るというそれこそ海よりも深い事情があるのだ。

「どんな事情かは知らないけどこのクエストはもう私が受けたの。横取りしたらどうなるかくらいお前もわかってるはずなの」

 クエストの横取りは重罪だ。悪質な場合はギルドカード没収のうえ牢屋でくさい飯を食わされるハメになる。
 もう正直に話して採取ポイントを教えてもらおう。

「ああ、わかってるよ。俺はただ良い薬草の採取ポイントが知りたいだけなんだ」
「お前やっぱりバカなの?」
「バカって。おいおい……クエスト受ければ依頼主から採取ポイントの場所ももらえるし報酬ももらえるんだぞ。まさに一石二鳥じゃあないか」
「採取ポイントくらいその辺の情報屋で売ってるの。それか酒場にでも行けば気の良い冒険者が教えてくれるの」
「あ、なるほど」

 なるほど、そういう手もあるのか。
 帝都ほど大きな街なら情報を専門に扱う商人みたいなのもいるのか。それに冒険者。低級クエストの採取ポイントくらいなら簡単に教えてくれそうだ。
 それこそあのギルドで会った親切な冒険者(38歳人族男性)みたいな奴ならすぐに口を割ってくれるだろう。
 
「もういいの。ついてくるくらいなら勝手にしてればいいの」
「お、マジかありがたい」

 なんだ案外優しい奴じゃねぇか。
 俺は木の上からシュタッと飛び降りると少女の隣に立った。

「でも、条件があるの」
「条件?」
「ええ、ひ……私のお姉さまにも許可をもらうのよ」

 お姉さま?
 そういえばギルドでも一人じゃないみたいな言い方していたな。
 その人にも同行の許可をもらえればいいんだな。

 「ついてきなさい」と言って少女は道を進む。
 件のお姉さまとはどこかで待ち合わせしているらしい。

 しばらく少女についていくと小さな風車小屋みたいなものが見えてきた。
 どうやら、そこで待ち合わせをしていたようだ。

「あ、レア。遅かったね。約束通りクエストは受けてきたかな」

 クリスタルのようにきれいな声。
 少女……レアのお姉さまはこちらに気づくなり声をかけてきた。

 妹とは似つかない金の髪に吸い込まれるような深いブルーの瞳。
 整った顔立ちはまさしく美少女だろう。
 こんな美少女、宮廷でもそんなに見ることはない。

「はいシアお姉さま。ご命令通りダーインジュの森の採取クエストを受けてきました」
「よしよし。ちゃんとお使い出来て偉いわね」
「ありがとうございます」
「で、そちらの方はどなたかな。もしかして……」
「いえお姉さま。こちらはただのバカなの」
「ええと……タダノバッカスさん?」
「俺はエルロット・アーハイドだ。薬草の採取ポイントを教えてもらおうと思いまして妹さんについてきたんです」

 そういえば、ちっこい奴レアにも名前は告げてなかったな。

「エルロット・アーハイド……んーどこかで聞いたことのあるようなないような……」

 最近、宮廷から追放されたことで一時的に噂になったので名前くらいは耳にしたのであろう。
 シア(?)は少しばかりうんうんと唸っていたがすぐに明るい顔を取り戻した。

「まぁいいわ。エルロットさんね。旅は道連れとも言うし、一緒に行きましょ。もちろん、報酬は出ないけどね」
「ありがとう。今日はよろしく。それとさん付けなんて呼びなれていないからエルロットでいいよ」
「そう? じゃあ、私もシアでいいわ。そしてこの子は妹のレア。今日一日だけだけどよろしくね」

こうして俺はシアとレアという二人の姉妹と一緒に薬草採取へと向かうのであった。
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