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フラウの初陣
しおりを挟む「いらっしゃませ、こちらは銅貨10枚になります。ありがとうございました」
開店前。ポーションショップのある貧民街の一画にフラウの声が響いた。
今日から初仕事であるフラウの復習を兼ねて声出しの練習をしているのだ。
無愛想なレアと違ってハキハキとした声。これでもう少し表情が明るければ良いのだが。
そして、もう一つ難点があるとすれば……。
「ちょうちょー」
「あ、おい。仕事中だろ」
フラウは極端に集中力がなく、目を離すとすぐにどこかへ消えてしまう。
今日はこれで3回目。今もちょうちょが飛んでるだけで目移りしてしまったようだ。
「ったく油断も隙もねぇな」
「ご、ごめんなさい……」
首根っこをつかんで無理やり元の位置に戻すと彼女はシュンとなって反省していた。
この顔も3回目である。
フラウは自分でも気づかないうちに脱走してしまうのだ。
うーむ。
やはり、コレを使うべきか。
フラフラとするフラウのためにとあるものを用意したのだが使うべきか……。
「あ、ワンちゃんだー」
またもフラフラとどこかに消えてしまいそうだったので全力で止める。
はぁ。やっぱり使うしかないのか。
フラウに対しては考える必要はなかったな。
俺は懐からポーションを取り出した。
すみれ色をした綺麗なポーションだ。これはフラウのために徹夜までして作ったのだ。
「フラウ。仕事がうまくいったらコレをあげよう」
「???」
案の定、フラウの頭の上にはハテナマーク。
どんなものでも試してみなければ効果はわからないだろう。
「よし、一本飲んでみな」
コクリと頷いてポーションを一本飲み始めるフラウ。
「んく……んん!?」
パアァと笑顔を浮かべる。
それもそのはず。このポーションはとにかくおいしいポーションだ。
栄養はともかく今までに食べたこともないようなほどにおいしいポーションである。
他にも色々な効果があるがそこは企業秘密。おいしい以上でも以下でもないただのポーションだからな。
さすがのフラウもこれにはイチコロだろう。
「美味しい!!!」
想定通り気に入ってくれたようだ。
「フラウ。これからちゃんと仕事ができるたびにこのポーションをあげよう」
「は、はい! がんばります!」
これで少しでも頑張ってくれれば良いんだけどな。
その後も練習を続けたが突然ふらっとすることはなかった。対策は成功……でいいよな?
***
その日、冒険者ジャンゴは始めてウワサのポーションショップへ向かっていた。
冒険者歴5年でランクAにまで上り詰めた彼は帝都でもそこそこ有名であった。
街中でも目立つ金色の鎧と大きな剣を携えた彼がポーションショップの前に来た時、ザワリと周囲がうねった。
今人気のポーションショップに有名な冒険者がやってきた。
それだけでも周囲の喧騒は一際大きくなったのだ。
ちなみにポーションショップは人気すぎて外にまで待機列ができておりジャンゴは最後尾へとそそくさと移動した。
ウワサのポーションショップは本当にウワサ通りなのか。
彼はそれを確かめるらめにここへ来たのだ。
やがて、列は縮みジャンゴもショップへと入ることが叶った。
店内は乱雑だ。急に人気が出たため店内に気が回らないのだろう。
「マイナス1点だな」
ジャンゴの趣味は店の採点だ。行く店々を採点しては自分なりの評価をつける。点が良ければ常連となり悪ければ二度と行かない。
自分を一流の冒険者だと思っている彼には日々向かう店も一流でなければならないという謎の理論を持っているのだ。
(品揃えは悪くないな。やはり売れ切れは目立つな……)
急に人気になったと言うところは彼も知っている。だから、店側の対応が遅れているのも承知済みである。
ジャンゴはいつものように店内をいろいろチェックする。
人が多いのでなかなか見れないところもあったがこれまでの感もあってか見えないところも大体わかってしまうので採点には影響しない。
「マイナス2点……クソだなこの店は」
まだポーションは購入していないがジャンゴの中で店の評価はほぼほぼ確定した。
下の下。店内はホコリ臭く掃除も行き届いていない。売れ切れは仕方がないものの商品の陳列は乱雑でジャンゴには我慢ならなかった。
(こんなもんか。回復のポーションでも買って帰ろう)
ポーションの値段と効果だけも試すだけ試そう。
高ランク冒険者のジャンゴにとってポーションはさほど高いものではなく常備しているほどだ。
だから、値段が安いと言うだけではあまり目を見張ることもないのだ。
「いらっしゃいませお客様。お探しものはございますか?」
そんなジャンゴの前にフワリと一輪の花が咲いた。
花ではなくポーションショップの新人フラウであるのだがジャンゴにとってフラウは比喩ではなく本当の意味で花だった。
綺麗でサラサラとした赤の髪に太陽のような笑顔。まさしくジャンゴにとっての花であったのだ。
「あ、ああ。回復のポーションはあるか?」
多少狼狽えつつも彼は高ランク冒険者だ。すぐに襟を正すと素直に答える。
「回復のポーションはこちらになります」
「あ、ありがとう」
「いえ。あ、ついでにこちらのポーションはいかがでしょうか」
彼女に言われてホイホイとポーションを手に取ってしまう。
あまりほしいとは思わなかったがフラウに言われてしまうとついつい買ってしまう。
そしていつのまにか大量のポーションを抱えて店の外に出るジャンゴ。耳にはフラウが最後に告げた「ありがとうございました。またお越しくださいませ」と言う別れの言葉。
「……また来るか」
その日から彼はポーションショップの常連となった。
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