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山田太郎もといセバスチャン

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「うぉおわぁあ! って……あ、れ……夢か?」

 生きている。息をしている。手が動くし体も動く。
 落下もしてないしそして、ここがあの世とは思えない。

 やっぱりさっきのは夢だったのか?

『夢じゃないよ』

「のわっ!」

 俺の考えを見抜いたようにあの天使の声が聞こえた。
 夢じゃない。
 じゃあ、なんで俺は生きているんだ???

『よく周りをみて。ここはキミの部屋じゃない』

 天使の声に言われるまま周囲を見回す。
 見慣れない調度品と木の香りがするテーブルは質素で何もない。

 ここは俺の部屋じゃない。
 少なくとも俺の部屋はゴミ屋敷であちこちにはゴミが転がってるし足の踏み場もいつも使っている一通りしかない。

 しかしここは違う。
 足の踏み場はそれこそ無数にあるし、ゴミらしきゴミはない。
 なによりテレビとか文明的なものがまるでなかった。

 ちょっと貧相な洋室……そんなイメージだ。

『キミは今、セバスチャンだよ』

「はぁ?」

 セバス……チャン?
 俺の疑問へと答えるかのように天使の言葉が続いた。

『セバスチャンはこの屋敷で執事をやっている少年だよ。いつも無口でクール。その彼は昨日不慮の事故で亡くなっちゃったけど、キミの存在で上書きしたんだ』

「その口ぶりだと俺は山田太郎じゃなくてセバスチャンになったってことか?」

『そのとおり、キミの精神をセバスチャンの身体に載せたんだ』

「なるほどな――ってて。なんか身体が無性に痛いぞ」

『セバスチャン本人は死んだばかりなんだ。死んだ時の痛みがまだ残ってるんだね』

「いや、だとしたら俺また死ぬんじゃないのか。今って死体に乗り移ってるってことだろ」

『そこは大丈夫。神さまパワーでセバスチャンの身体は死んでないことになってるから。その痛みはただの残りカスだよ』

「そうか。なら、頭が痛いのも残りカスってことか」

『それは違うよ。ボクがキミの脳内に直接言葉を届けているからね。その影響なんだよ』

 あの(きこえますか……あなたの脳に直接呼びかけています)ってやつか?

「おめぇのせいかよ。なんとかならないのか」

『そう? ちょっと待ってね』

 天使はそう言い残すと言葉を止めた。
 感じていた頭痛がスゥと消え去っていく。

「これでいいかな?」

 そう声を漏らしながら天井から天使が舞い降りてきた。
 間違いない。
 夢……いや、あの場所で見たあの天使だ。

「ああ、ちゃんと聞こえるし頭も痛くない」

「ふふっよかった。でも気をつけてよね。ボクの姿はキミにしか見えないし声も聞こえない。脳内で直接やりとりもしてないからキミの考えていることはわからないからボクと話すときは独り言になっちゃうよ」

「見えないとか幽霊かよ。けど、まぁいいか。とりあえずちゃちゃっと女の子の問題をどうにかしようぜ」

「うん、そのいきだよ。あの子はたぶん、手強いけど。キミならきっとどうにかできるはずだよ」

 手強いとか歯切れの悪い言葉ばかりだなこの天使。もしかして、ちょっとクセがある子なのかな。
 そう思いながら、俺は早速アリスに会うために部屋の外へ飛び出した。
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