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模擬試合
しおりを挟む貴族の子女たちが通う学園には似つかわしくないほどに粗末な闘技場。
アリスたちの模擬試合はろくろく整備もされていないような簡易的なリングの上で行われていた。
ここは学園が出来る前からあった由緒正しき闘技場。昔は王族を呼び寄せて御前試合をするなど活気あふれていたが、100年ほど前に王国闘技場が出来てからは学生が模擬試合をするだけのオンボロ闘技場と成り果ててしまった。
もちろん、貴族階級が多い学生からの不満は大きい。
それでもなお、この闘技場が使われているのはこの闘技場自体に付与されたノーマルスキル『神の試練場』のためである。
このスキルの有効範囲内。いわば、この闘技場のリングの上ではあらゆる攻撃を食らってもダメージにはならないのだ。
ノーマルスキルだが、取得条件が不明で過去のスキル所有者もたまたま発現しただけの一般人だった。
そんな経緯もあり、結果的にこのオンボロ闘技場を使い続けるハメになってしまったのだ。
「アリス・フローゲンハイト。キャロ・バークス。両者ともに位置につけ」
そんな古臭いリングの上でアリスとキャロは対面する。
アリスの見た目だけ豪華な低レベル装備と比べ、キャロの装備は年相応のものであった。
おおよそレベル5~8くらいの軽装鎧と、綺麗な文様が描かれたガンドレット。右手には彼女の獲物であるレベル9のレイピアが握られていた。
キャロのレベルは10。使えるスキルはあまり多くはないが、レベル5以上なら誰でも覚えられるノーマルスキルをいくつか習得済みである。
レベルの差は能力だけでなく装備やスキルにも差が出る。
アリスとキャロのレベル差は9あるが、装備の差、スキルの差を合わせると9以上の差は確実である。
しかし、アリスはそれでも勝たなければならない。
私は天才なのだ。
天才は強くなければならない。
たとえレベル差があろうともひっくり返すだけの力を見せなければならない。
私を認めてくれている友人に先生、そして、家族。
もしも、私がレベル1だって知られたなら全てを失う。
だから、これからも私は天才でなければならないのだ。
アリスは自身をそう鼓舞する。
自分は負けてはならないのだと。
短剣を強く握りしめ、キャロをキッと睨みつける。
キャロとは友達だけど、負けるわけにはいかない。
こうして、戦いの火蓋は切って落とされた。
「舞え、『剣の舞』」
開始の合図と共にアリスが動いた。
両手に持った短剣をそれぞれ逆手に持ち、真正面からキャロとの距離を詰める。
その様子に慌てたのはアリスと対峙しているキャロではなく、観客席で野次馬をしていたリリスだった。
「いきなり、ユニークスキル!?」
目を白黒させながら驚く。
そう、アリスは開始と同時にユニークスキルを発動させたのだ。
アリスの持つユニークスキル『剣の舞』は強力な身体強化を得ることができるスキルでいわゆる剣の天才と呼ばれるような人に対して、ごく稀に発現する。
アリスは剣の天才だ。
今の装備は貧相な短剣だが、長剣や両手剣、片手剣、太刀。
ありとあらゆる剣に精通している。
レベルが1なだけでそれ以外は天才なのである。
それ故にアリスは自身がどのような戦闘スタイルを取るべきなのか熟知していた。
「っ」
相対するキャロの装備はレイピアだ。刺突を主体とした細身の剣である。
もともとキャロには近接戦闘の素養はなく、取り回しやすいレイピアでさえもあまり扱えているとは言えない。
そのため、アリスは短剣を使った超接近戦を仕掛けたのだ。
スキルやレベルとは関係のない単純な技術ならばアリスが圧倒的に上手なのだ。
しかし。
「『フリッシング・トシュ』」
突進してくるアリスへ向けてキャロはノーマルスキルを発動させた。
スキルは使い手がどんなに素人であっても条件さえクリアすれば取得できる。
『フリッシング・トシュ』はレイピアや剣で突き技を放つのみのノーマルスキルだ。
取得の条件はレベル5以上かつ、スキルを発動するための型を覚えるだけである。
低威力だが、剣の才能がないキャロでも型通りにスキルを発動させるだけで達人級の技を放つことができる。
普段のキャロなら出せないような速度でレイピアの刺突がアリスへ向かう。
「くっ」
誰でも覚えられるようなノーマルスキルだが、そのノーマルスキルすら覚えることのできないアリスにとっては驚異であった。
身体を捻ってレイピアの剣先から逃れると今度は正面ではなく横から攻める。
アリスのユニークスキルで強化された身体は柔軟な動きも容易い。
右の短剣をキャロへと向けて振るう。
「『パラード・トシュ』」
再びキャロのノーマルスキルが発動した。
レイピア専用の防御スキルで、キャロ自身の反射神経では反応できないような攻撃でもスキルが勝手に防いでくれる。
もちろん、低レベルのスキルなので防御できる範囲や威力には限りがあるのだが、攻撃スキルをまったく利用していないアリスの攻撃はいとも簡単にはじかれてしまった。
「ねぇ、アリスさんはなんで攻撃スキルを使わないのかしら。スキルを使わない攻撃なんて防御スキルで簡単に防げてしまえるのに」
「さぁ、遊んでるんじゃないかしら。アリスさんは初めての模擬試合ですもの。さすが、天才の考えることはわかりませんこと」
観客席にいる生徒たちがガヤガヤと騒ぎ立てるが、そもそもアリスは有効な攻撃スキルを一つも取得できていない。
持っているのはレベル1でも取得できる簡単なノーマルスキルと身体強化系のユニークスキル。そして、生まれながらに保有しているレディックスキルのみである。
その中で今回の戦闘に利用できるのはユニークスキルのみ。
そう、アリスは既に己が持つスキルをフル活用しているのだ。
「やるわね、キャロ……でも、これはどうかしら」
「『フレイム』」
レベル1の炎魔法。
魔法はスキルとは異なり、取得条件が複雑なものが多くレベルに左右されないことが多い。
そのため、アリスは魔法を積極的に覚えているのだが……。
「『アンチ・マジック』」
魔法はいとも簡単に霧散した。
スキルの中には魔法をかき消すようなスキルがある。
対抗するには魔法を強化するスキルを扱う必要があるのだが、アリスはそのようなスキルは持っていない。
「アリスちゃん。今度はこっちから行くね」
アリスの攻撃が弱まった隙にキャロの反撃が始まった。
「『フリッシング・トシュ』」
レイピアによる攻撃スキルがアリスへと向かう。
アリスは短剣でレイピアをいなしつつ、キャロの懐へと身体を滑り込ませた。
「『パラード・トシュ』」
「きゃあっ!」
キャロの切り払いがアリスに直撃する。
防御スキルでも時には攻撃することができる。
『パラード・トシュ』は相手の武器を弾く防御スキルだが、今のアリスのように懐に潜り込まれた時には潜り込んできている身体自体を狙うのだ。
幸いにも威力は低いため、アリスに大事はない。
しかし、この試合は1本をとったキャロの勝ちである。
「え!? 直撃したわ!?」
「リリス様。アリスさんちょっと手抜きすぎじゃありませんか」
「そ、そうね……あんな初級スキルが直撃するなんて普通なら考えられませんわ」
スキルにはスキルをぶつける。
学園に通う生徒なら誰でも知っていることだ。
ましてや成績優秀で実技を免除されてきたアリスが知らないわけはない。
彼女らはみなそう思っていた。
「リ、リリス様!」
「そんなに慌ててどうしたのかしら」
「あの、気になってアリスさんのレベルを調べたのですが……そのぅ」
「なによ、ハッキリおっしゃいなさい!」
「レベルが1なんです」
「はぁ!?」
「だから、アリスさんのレベルが1なんです!」
取り巻きの報告を聞いたリリスは絶句した。
いつもアリスは魔法で自分のレベルを調べられないようにしていたのだが、それが先ほどのアンチマジックで一瞬だけかき消されたのだ。
その一瞬をリリスの取り巻きがついたのだ。
「リオン。このことは誰かに伝えましたか」
「い、いえ。リリス様が初めてです」
「なら、このことは秘密にしなさい」
「え、秘密ですか?」
「そうよ、先生にも他の誰にも言わないでくださる?」
「は、はい」
取り巻きの返答を聞いたリリスはニヤリと笑みを悪い浮かべる。
こんな面白いネタを他に伝えるなんてできないわ。
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