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アリスの秘密
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「あいつのレベル1だったのか……」
タマガブリエルの洞窟から戻った俺たちはアリスの模擬試合を観に学園の闘技場へとやってきていた。
ガブリエルのスキルで透明になり、特等席でゆっくり観戦していたのだが、俺はようやくアリスの抱える問題について理解した。
「あらら、こんな簡単にバレちゃうなんて……少し計算違いだよ」
ガブリエルが残念がるのも無理はない。
つい、今しがた俺たちの目の前で女の子たちがアリスの秘密についてベラベラと話していたのだ。
「にしてもこいつ性格悪いな。薄気味悪い笑顔浮かべやがって」
顔は可愛いが性格が捻くれてそうなお嬢様は試合に負けて項垂れるアリスをニヤニヤと見ていた。
ロクでもないことを考えているのだろう。
「にしてもこのスキル……思った以上に使えそうだな」
経験値を可視化するだけの意味のないスキルだと思っていたが、この試合を見て考えがかわった。
「トーゼンだよ。なんたって神様にまでなったタマちゃん様が選んだユニークスキルだからね!」
誇らしげに胸を張るが今回ばかりはぐうの音も出ない。
俺の視界には今、いろんな経験値が見えているのだ。
ただ歩いた時の経験値やスキルを発動したことによる経験値までありとあらゆる経験値が数値化されて見える。
さらにこのスキルの良い点は見える範囲や量をある程度、自由に調節できるところだ。
普段からスキルをオンにして見てもいいし、うっとうしいならオフにしても良い。
特定の経験値だけを見ることもできるし、逆に無差別にみることもできる。
とても使い勝手の良いスキルだ。
「でも、アリスは不思議だな」
俺のスキルでは人の保有している経験値も見ることができる。
アリスは周囲にいる誰よりも多くの経験値を保有していた。
ヘタをすればセバスチャンよりも持ってるんじゃないか?
それに今回の模擬戦でも文字通り桁外れなくらい経験値を得ていた。
少し戦っただけなのにこれだけ経験値が手に入っているのにも関わらずアリスのレベルは一向に上がらない。
「そこが不憫な子なんだよ。特異体質、天才の宿命なんだよ」
天才の宿命?
疑問に思っているとガブリエルが説明してくれた。
レベルが上がるとき、経験値を消費するらしい。
そして、レベルアップに必要な経験値はその人の持つステータスやスキルに応じて増えるのだ。
アリスは天才であるがため、レベルアップに大量の経験値が必要らしい。
また、ノーマルスキルやユニークスキル、魔法を取得するのにも経験値は消費される。
アリスは天才であるがため、覚えられるスキルは使えないスキルでも全て覚えている。
スキルを覚えるのになけなしの経験値が消費され、所有スキルが増えるため、レベルアップに必要な経験値も増えてしまう。
まさに悪循環。
レベル1なのも納得がいく。
だが、本当にそれだけなのだろうか。
今日1日だけでもかなりの経験値を稼いでいるというのに一向にレベルアップまでいかないなんて少しおかしいような気もする。
もちろん、それだけアリスのレベルが上がりにくいと言われればそれまでだが。
「これでキミのやるべきことがわかったかな?」
「ああ、十分にわかったよ」
なんにせよ、今日の夜までに方法を考えなければ……。
「よし、じゃあ早速、キミの部屋で作戦会議でもするかい?」
「そうだな……いや、ちょっと待ってくれ。先に確認しておくことができた」
「?」
視界の端にアリスの姿が見える。
友人らしき少女から逃れ、1人で奥へと向かう。
そして、その後を追う性悪お嬢様。
嫌な予感しかしない。
俺は2人の後を追ってみた。
「アリスさん少しよろしいですか」
「なによ……リリス、今日は調子が悪かったのよ」
「ええ、わかりますわ。今日も調子が悪かったのですわよね?」
「何が言いたいのよ?」
「いえ、謝りたいと思ってまして、これまでは申し訳ございませんでしたわ。まさかアリスさんのレベルが1だったなんて知らずにとんだご無礼を働きましたわ」
「どこでそれを!?」
「さぁ、自分の胸にお聞きなさい。あなたをライバル視していた私がおバカでしたわ」
あの性悪お嬢様はまるでゴミを見るかのようにアリスを見下していた。
この世界でのレベルは貴族の血筋以上に重要視される。
アリスのレベルは庶民の同年代以下。
「そんなことを言うためにわざわざここまで来たの?」
「ええ、あなたの落ちぶれたサマを見にきたのですわ。すごく滑稽だわ。こんなことじゃ王国騎士どころかまともなお嫁にだって行けませんことよ」
「!?」
性悪お嬢様の言うとおり、いくら貴族だからといってレベルが1だと、よほどの変態や変人くらいしか嫁の貰い手がないだろう。
「まぁ、私にとっては騎士試験のライバルが減ってせいせいしたわ。それではアリスさん。ごきげんよう。もう、あなたを私の従妹とは思いませんわ」
性悪お嬢様はそう言ってその場を後にした。
残されたアリスはうなだれるように顔を落としていた。
見るに見かねて俺はアリスへ近づいた。
「あっセバス君。そっち行くと透明化が……」
ガブリエルのスキルによる透明化領域から離れてアリスの前に現れる。
「なぁ、強くなりたいのか」
「……そうよ」
「レベルを上げたいのか」
「……そうよ」
「あいつを見返したいのか」
「っそうよ!」
「じゃあ、俺と一緒に来いよ。アリス、お前のレベルを上げてやる」
そこまで俺が告げるとアリスが顔をあげた。
瞳には大きな涙の粒。
でも、瞳に力はあった。俺を見上げ、なんとしてもレベルを上げたいという覇気が感じられた。
「セバス……」
「お前は天才なんだろ」
ガブリエルからもらったスキルを使えば効率よく経験値を貯めることなんて簡単だろう。
アリスはレベルが上がらないのではなく強すぎてレベルが上がるのに必要な経験値が足りていないだけだ。
経験値の問題さえクリアすればすぐにあの性悪お嬢様も見返せるはずだ。
俺はアリスに向けてサムズアップした。
それを見たアリスはゴシゴシと涙をぬぐうと立ち上がった。
「当然よ。私は天才なのよ。ゼッッッタイ、リリスの奴を見返してやるんだから!」
よし、この調子なら頑張れそうだな。
俺はアリスの頭をガシガシと撫でてやった。
ただの執事なのにちょっと無作法だったかな。
でも、アリスはまんざらではなさそう。
しばらく撫でてやって手を放すとアリスはまるで付き物が落ちたような顔で俺を見上げた。
「それにしてもなんで、あんたがここにいるのよ。ここ女子更衣室よ」
「げ」
「それにご主人様に向かって頭を撫でるなんて。今日の夜は調教しがいがあるわね」
フフフ、と不敵の笑みを浮かべるアリス。
ポキポキと指を鳴らすもんだから俺は飛び出るように部屋を出てガブリエルの透明化スキルへと逃げ込んだ。
「はぁ、ハチャメチャだよキミは……でも、すごく面白そうだ」
ガブリエルのいうとおり面白いのはこれからだ。
さっそく、今日の夜からアリスのレベル上げに励むとしよう。
タマガブリエルの洞窟から戻った俺たちはアリスの模擬試合を観に学園の闘技場へとやってきていた。
ガブリエルのスキルで透明になり、特等席でゆっくり観戦していたのだが、俺はようやくアリスの抱える問題について理解した。
「あらら、こんな簡単にバレちゃうなんて……少し計算違いだよ」
ガブリエルが残念がるのも無理はない。
つい、今しがた俺たちの目の前で女の子たちがアリスの秘密についてベラベラと話していたのだ。
「にしてもこいつ性格悪いな。薄気味悪い笑顔浮かべやがって」
顔は可愛いが性格が捻くれてそうなお嬢様は試合に負けて項垂れるアリスをニヤニヤと見ていた。
ロクでもないことを考えているのだろう。
「にしてもこのスキル……思った以上に使えそうだな」
経験値を可視化するだけの意味のないスキルだと思っていたが、この試合を見て考えがかわった。
「トーゼンだよ。なんたって神様にまでなったタマちゃん様が選んだユニークスキルだからね!」
誇らしげに胸を張るが今回ばかりはぐうの音も出ない。
俺の視界には今、いろんな経験値が見えているのだ。
ただ歩いた時の経験値やスキルを発動したことによる経験値までありとあらゆる経験値が数値化されて見える。
さらにこのスキルの良い点は見える範囲や量をある程度、自由に調節できるところだ。
普段からスキルをオンにして見てもいいし、うっとうしいならオフにしても良い。
特定の経験値だけを見ることもできるし、逆に無差別にみることもできる。
とても使い勝手の良いスキルだ。
「でも、アリスは不思議だな」
俺のスキルでは人の保有している経験値も見ることができる。
アリスは周囲にいる誰よりも多くの経験値を保有していた。
ヘタをすればセバスチャンよりも持ってるんじゃないか?
それに今回の模擬戦でも文字通り桁外れなくらい経験値を得ていた。
少し戦っただけなのにこれだけ経験値が手に入っているのにも関わらずアリスのレベルは一向に上がらない。
「そこが不憫な子なんだよ。特異体質、天才の宿命なんだよ」
天才の宿命?
疑問に思っているとガブリエルが説明してくれた。
レベルが上がるとき、経験値を消費するらしい。
そして、レベルアップに必要な経験値はその人の持つステータスやスキルに応じて増えるのだ。
アリスは天才であるがため、レベルアップに大量の経験値が必要らしい。
また、ノーマルスキルやユニークスキル、魔法を取得するのにも経験値は消費される。
アリスは天才であるがため、覚えられるスキルは使えないスキルでも全て覚えている。
スキルを覚えるのになけなしの経験値が消費され、所有スキルが増えるため、レベルアップに必要な経験値も増えてしまう。
まさに悪循環。
レベル1なのも納得がいく。
だが、本当にそれだけなのだろうか。
今日1日だけでもかなりの経験値を稼いでいるというのに一向にレベルアップまでいかないなんて少しおかしいような気もする。
もちろん、それだけアリスのレベルが上がりにくいと言われればそれまでだが。
「これでキミのやるべきことがわかったかな?」
「ああ、十分にわかったよ」
なんにせよ、今日の夜までに方法を考えなければ……。
「よし、じゃあ早速、キミの部屋で作戦会議でもするかい?」
「そうだな……いや、ちょっと待ってくれ。先に確認しておくことができた」
「?」
視界の端にアリスの姿が見える。
友人らしき少女から逃れ、1人で奥へと向かう。
そして、その後を追う性悪お嬢様。
嫌な予感しかしない。
俺は2人の後を追ってみた。
「アリスさん少しよろしいですか」
「なによ……リリス、今日は調子が悪かったのよ」
「ええ、わかりますわ。今日も調子が悪かったのですわよね?」
「何が言いたいのよ?」
「いえ、謝りたいと思ってまして、これまでは申し訳ございませんでしたわ。まさかアリスさんのレベルが1だったなんて知らずにとんだご無礼を働きましたわ」
「どこでそれを!?」
「さぁ、自分の胸にお聞きなさい。あなたをライバル視していた私がおバカでしたわ」
あの性悪お嬢様はまるでゴミを見るかのようにアリスを見下していた。
この世界でのレベルは貴族の血筋以上に重要視される。
アリスのレベルは庶民の同年代以下。
「そんなことを言うためにわざわざここまで来たの?」
「ええ、あなたの落ちぶれたサマを見にきたのですわ。すごく滑稽だわ。こんなことじゃ王国騎士どころかまともなお嫁にだって行けませんことよ」
「!?」
性悪お嬢様の言うとおり、いくら貴族だからといってレベルが1だと、よほどの変態や変人くらいしか嫁の貰い手がないだろう。
「まぁ、私にとっては騎士試験のライバルが減ってせいせいしたわ。それではアリスさん。ごきげんよう。もう、あなたを私の従妹とは思いませんわ」
性悪お嬢様はそう言ってその場を後にした。
残されたアリスはうなだれるように顔を落としていた。
見るに見かねて俺はアリスへ近づいた。
「あっセバス君。そっち行くと透明化が……」
ガブリエルのスキルによる透明化領域から離れてアリスの前に現れる。
「なぁ、強くなりたいのか」
「……そうよ」
「レベルを上げたいのか」
「……そうよ」
「あいつを見返したいのか」
「っそうよ!」
「じゃあ、俺と一緒に来いよ。アリス、お前のレベルを上げてやる」
そこまで俺が告げるとアリスが顔をあげた。
瞳には大きな涙の粒。
でも、瞳に力はあった。俺を見上げ、なんとしてもレベルを上げたいという覇気が感じられた。
「セバス……」
「お前は天才なんだろ」
ガブリエルからもらったスキルを使えば効率よく経験値を貯めることなんて簡単だろう。
アリスはレベルが上がらないのではなく強すぎてレベルが上がるのに必要な経験値が足りていないだけだ。
経験値の問題さえクリアすればすぐにあの性悪お嬢様も見返せるはずだ。
俺はアリスに向けてサムズアップした。
それを見たアリスはゴシゴシと涙をぬぐうと立ち上がった。
「当然よ。私は天才なのよ。ゼッッッタイ、リリスの奴を見返してやるんだから!」
よし、この調子なら頑張れそうだな。
俺はアリスの頭をガシガシと撫でてやった。
ただの執事なのにちょっと無作法だったかな。
でも、アリスはまんざらではなさそう。
しばらく撫でてやって手を放すとアリスはまるで付き物が落ちたような顔で俺を見上げた。
「それにしてもなんで、あんたがここにいるのよ。ここ女子更衣室よ」
「げ」
「それにご主人様に向かって頭を撫でるなんて。今日の夜は調教しがいがあるわね」
フフフ、と不敵の笑みを浮かべるアリス。
ポキポキと指を鳴らすもんだから俺は飛び出るように部屋を出てガブリエルの透明化スキルへと逃げ込んだ。
「はぁ、ハチャメチャだよキミは……でも、すごく面白そうだ」
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