ダンジョン脱税物語 ~ダンジョンで経験値を脱税します!~

中谷キョウ

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大鬼との闘い

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「行くわよセバス」

 タマガブリエルの洞窟の入り口でアリスが啖呵を切った。

 安いロングソードと安い軽鎧。
 アリスは模擬試合のようなきらびやか衣装ではなく、駆け出しの冒険者のような衣装を装備していた。

 夕食も終え、普通の貴族令嬢なら部屋でまったりする時間帯に俺とアリスとメイドは屋敷地下にあるダンジョンの入り口に立っている。

 それもこれもアリスがレベルアップためだ。

「さて、セバス君。アリスちゃんのための秘策はあるのかい?」

「今のところはないな。とりあえず今日は様子見ってとこかな」

 いくら経験値が見えるからといってアリスの問題が解決するとは思えない。
 せいぜい、経験値効率の良い魔物を狙って倒すくらいだ。

「セバス、ちんたらせずに来るのよ!」

「やれやれ……行くか」

 俺も武器を持って洞窟へと侵入を果たす。
 タマガブリエルの洞窟は昼間入った時とは少しだけ雰囲気が違っていた。
 もっとも、あの時はガブリエルが特別に用意したとか言っていたからこれが本来のダンジョンなんだろう。

 パーティはアリスと俺、そして、アリスのメイドの3人構成。
 アリスが斥候兼前衛で俺が中衛、メイドは後衛という極めてオーソドックスな編制である。

 ってかメイドのやつ、武器がホウキとか戦えんのか?

「それは心配ないよ。彼女のレベルは38。アリスちゃんが挑む程度のレベルなら問題ないよ」

 ご高説どうも。
 メイドなのにレベル38とか、さすがはアリスのメイドといったところか。

「てりゃあっ」

 そんな風に眺めているといつのまにかアリスが戦闘に入ったようだ。
 お相手は犬面のコボルト。
 アリスと同じような質素な長剣と軽鎧を身につけた人型の魔物だ。

 数度、剣を交しあったあと、すぐに雌雄は決した。
 もちろん、アリスの勝利だ。
 獲得経験値は5。ダンジョン序盤なら上等な数字である。

「まだまだよ、行くわよ」

 サッと手慣れた手つきで剣を納めるとどんどんダンジョンの奥へと向かう。
 どうやら、アリスお気に入りのスポットがあるらしくアリスはひたすらそこへ向かっているようだ。

 道中何度か、戦闘にあったが難なくアリスが処理した。

 っていうか、手を出そうとしたら怒られた。
 少しの経験値さえも俺たちに渡したくないらしい。
 しばらくして、アリスの言うスポットにたどり着いた。

 そこだけはなぜか天井が開いており、月の光が落ちていた。

「月見の間……アリスちゃんはなかなかいい趣味してるね」

 そうボソッとガブリエルがつぶやいた。
 ガブリエルが言うなら、ここは経験値稼ぎにいい場所ってことか?

「悪くはないけどね、真実はキミが直接確かめるといいよ」

 なんだかガブリエルの歯切れが悪い。
 悪くはないけどいい趣味している?
 どういう意味だ?

 その答えらしきものはスグに現れた。

「こいつはっ!?」

「セバス!いつもの仕事よ」

 一言でいえば、そいつは化け物だった。
 これまでこのダンジョンに出てきたどの魔物よりも禍々しく、大きかった。

「セバス君。こいつはこのダンジョンのボスの1柱『紅の大鬼』だよ」

 名前のとおりに赤い……紅色の身体は筋肉隆々。月明かりに照らされるまでもなく、白い蒸気が身体から立ち込めていた。

 右手には大人の男くらいの大きさがある大斧。
 ボスと呼ばれても納得出来るような魔物だった。

「さぁあいつのHPを削りなさいセバス! そして、ラストを私に譲るの!」

 えっ……仕事ってそういうことか。
 おそらくこの魔物はこのダンジョンで一番強い魔物。

 アリスだけだと敵わないからセバスが瀕死に追い込んで最後だけアリスがもらう。
 そういうことか。

 ……。

 俺がコイツに勝てるわけないじゃん!
 いくらセバスの身体が有能であっても勝てるわけーーってか、セバス死んでるじゃん! 多分、コイツにやられたんだ。

「ちなみにこの魔物はレベル255。本来のセバス君でも単騎だとちょっと厳しいよ」

 ならなおさら俺には無理じゃねぇか!
 セバスの苦労が少しだけわかった気がする。

「セバス! きてるわよ」

「え」

 いきなり斧が降ってきた。
 これは避け……れない。仕方なく剣で受け流す。

「くっ」

 もの凄い一撃だ。
 こんなものまともに食らえばひとたまりもない。

 決して俺みたいな剣の心得もないヤツが勝てる相手ではないのだ。

「何してるの。いつものようにパパッとやっちゃいなさいよ」

 パパッと?
 なにそれ美味しいの?

「セバス君。ここで必殺技を使うんだ」

 必殺技?

「そう、本来のセバス君が使っていた最強の必殺技だよ」

 そんなこと言われても無理なものは無理だ。
 必殺技なんて知らないし、そもそもセバスの身体すら満足に扱えていない

「んもぅ……仕方ないな」

 そう呟くとガブリエルはどこかに消え去った。
 まさかあいつ俺を置いていくつもりか!?

 大鬼の斧が何度も俺へと向かってくる。
 剣でいなして速度を落とした後、ステップして避ける。

「何やってんのよ! 早くしなさいよ!」

 仕方ないだろ、今は避けるだけで精一杯なんだ。
 そう言いたいのをグッと堪えて次の手を考える。

 このままじゃどうせジリ貧だ。
 だったら、何か手を――。

「あれ?」

 あまり気にしていなかったが俺の周りにはたまに数字が浮かんできていた。
 経験値? いや、なんでこんな時に?

 よくよく見てみるとこの数字は俺が得ている経験値のようだ。

 もしかして、攻撃を避けるだけで経験値をもらっているのか?
 俺の周りで浮かんでは消える経験値たちはどうやら俺へと吸い込まれているらしい。
 そして、突然頭の中にファンファーレが響いた。

《おめでとう、山田太郎のレベルが10に上がった》

「!?!?」

 レベル10? 俺が? セバスじゃなくて?
 そんな疑問を浮かべたが、大鬼の攻撃によって思考が中断される。

 ったく、考える間すらも与えてくれないのかよ。

 セバスの身体を動かして斧から逃れる。
 あれ、この攻撃さっきよりも遅くないか?
 それにセバスの身体もさっきより軽いような気がする。

 これまでのゲームのキャラクターを動かしているような感覚がなくなり、身体が自由に動かせる。
 これが本来のセバスの力なのだろうか。

「遅い……いや、こっちが速くなったのか……」

 セバスが見ていた世界に俺の精神が馴染んでいく。

 どう避ければいいのか。どうやれば敵に攻撃を打ち込めるのか。次のシミュレーションが頭に浮かぶ。そうか……これなら俺でも。

 隙を見て剣を振るう。
 すると大鬼の腕に切れ込みが走った。浅い。けど、殺やれる。

 斧を避けつつ斬撃を放つ。
 どうやら、セバスの攻撃ではダメージを与えられても致命傷は無理みたいだ。
 この状況を打破するにはあの天使ガブリエルの言うとおり必殺技という物を使うのだろう。

 そう、セバスの持つレディックスキル『光の剣』だ。
 まだセバスの全てを理解したわけじゃないけれどもこのスキルだけは何故か頭の中にすんなり入ってきた。

 これがたぶん、セバスの必殺技なのだろう。
 やり方は身体が覚えている。

 光の魔力を込めて剣を振るうだけ。
 アリスの言っていた「パパッと」というのもあながち間違いではないようだ。

 魔力を込めて――それを剣と一緒に放つ。

「『光の剣』」

 あまりにもあっけなく大鬼の腕がはじけ飛んだ。
 ほんの少し剣を振るっただけなのに大鬼の肉はまるでバターのように切り裂かれた。

「その調子よ! セバス!」

 アリスの声に応じるように俺はもう片方の腕を『光の剣』で切り裂く。
 赤子の手を捻るよりも簡単だ。

 レベル差があるはずなのにこんな簡単でいいのだろうか。
 いや、それよりも……なんでセバスは死んだんだ?
 セバスの能力なら大鬼の一匹や二匹敵ではないはずだ。

 と疑問がいろいろ湧いてきたが考えるよりも先にアリスが飛び出してきた。

 とどめを刺すつもりなのだろう。
 慣れた手つきで大鬼の頭に剣を突き立てた。

 Exp+11700。

 断末魔すら上げずに大鬼は息絶えた。

「ふぅ、終わったわ。メイド、サーチよ」

「はい、お嬢様……『レベルサーチ』」

「どう?」

「(ふるふる)」

 やはり、アリスのレベルは上がっていないらしい。
 大鬼の経験値が11700。
 本来であれば数レベルくらい一気に上がりそうなものなんだが。

「やっぱり、上がらなかったね」

 ガブリエル。お前どこに行ってたんだよ

「文句言わないでよ。少しだけだけどキミの手伝いをしてあげたんだ」

 手伝い……ってことはさっきの感覚はお前のおかげなのか?

「さっきの感覚がどの感覚なのかはわからないけど、キミに経験値を少しだけ分けてあげたんだ」

 そういや、山田太郎のレベルが10に上がったって出たんだけどアレはお前のせいか?

「んー説明が難しいんだけど、この世界に来たキミは二つのレベルを持っているんだ。その身体の本来の持ち主であるセバス君のレベル。そして、キミの精神のレベル」

 なるほど、よくわからん……。

「まぁ、キミのレベルが上がってセバス君の本来の力を引き出せたってところだね」

 そうニコニコとくったくのない笑顔を向けるガブリエル。
 なんで急に手を貸してくれたのかはよくわからないが、今はガブリエルを信じるしかないのだ。

「ちょっとセバス。何やってんのよ。帰るわよ」

 あの大鬼は一日一回この月見の間にスポーンするらしく。
 それを毎夜、アリスが狩りに来ているようだ。

 用事が終わったから帰る。アリスらしいと言えばアリスらしいのかなぁ。

 アリス達に遅れないように俺はせかせかと歩き出したのだった。
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