ダンジョン脱税物語 ~ダンジョンで経験値を脱税します!~

中谷キョウ

文字の大きさ
14 / 16

ガブリエルのヒント

しおりを挟む

「うーむ」

 屋敷へと戻り、アリスから解放された俺は自分の部屋で腕を組み天井を見つめていた。
 時刻はもう深夜。お嬢様アリスはともかくとして、メイドたちもぐっすり寝静まっている時間帯だ。

 そんな時間になぜ、天井を見つめているかというとズバリ、考え事をしているからである。

 アリスが日課として行っている大鬼の討伐で得られる経験値は11700。これがナントカクエストみたいなRPGだったらレベルアップするのに十分すぎる経験値だ。

 それなのにアリスがレベルアップする気配は一切ない。
 ガブリエルの言葉を鵜呑みにするのはしゃくだがアリスは毎日、11700以上の経験値を手に入れているはずだ。

 レベルが上がらないのは何かおかしい気がする。

「悩み事かな」

「うわっ……急に現れんなよ」

 天井からにゅっとガブリエルが現れた。
 考え事をしている時に急に現れるなんてこいつは俺をもう一度殺すつもりなのか……心臓が止まるかと思ったぜ。

「アリスちゃんのことが気になるのかい?」

「ん、ああ。今日、洞窟でアリスが得た経験値を計算してたんだけど、どう考えてもレベルアップしていないとおかしいくらい稼いでいるんだよな。俺ですら今日だけでレベル13だよ」

「やっぱり、そのこと、、だね」

「そのこと?」

 なんだよ。その含みのある言い方は。
 まるで何かしらの秘密があるような感じじゃないか。

「うーん、秘密っていえば秘密だね。ボクにもタマちゃん様から口止めされていることがいっぱいあるからね」

 おいおいってことはアリスに関する秘密がまだあるってことか?
 それとナチュラルに俺の心を読むなよ。

「ノーコメントだよ。世界一心が広くて優しいタマちゃん様にだって言えないことが一つは二つあるんだよ」

 俺の問いに対する答えが「言えない」つまりはアリスにはまだ何らかの秘密が隠されているってことなんだろう。
 例えば、能力が封印されているとか、呪いが掛けられているとか……エトセトラ。

「ガブリエルは俺のサポートでここに来ているんだよな」

「うん、そうだよー」

「だったら、何かもうちょいアドバイスとかないか。それこそ、アリスがレベルアップするような案とか」

「言っておくけど、アリスちゃんの問題を解決することがキミの試練なんだよ。いくらボクが賢くてかわいいタマちゃん様の天使だからって答えを教えるようなマネはできないよ」

 腕組みをしながらウンウンと頷く。
 試練にしては高難易度すぎなんだよな。初めて来た異世界でレベルだとか経験値だとかスキルだとかいくらゲームっぽい世界観でもそうすぐには覚えられないしな。

 少なくともゆとり世代にも易しい難易度にしてほしい。

「うーん、まぁそうだよね……じゃあ、ヒント上げちゃおっかな」

「お、そういうの欲しかったぜ」

 例のごとく俺の脳内をのぞき込んだ変態天使ガブリエルは股間のあたりからゴソゴソと何かを取り出した。

 それは透明なガラスの球体だ。
 本物かどうかはわからないけど、おそらく占い師とかが使う水晶玉のようなものだろう。

 というか、どこから取り出しているんだソレ。どう見てもガブリエルの股間部分に収まっていたとは思えない。
 いろいろ突っ込みだらけだ。

「これは遠見の水晶だよ。離れたところから特定の映像を見ることができるんだ。それとボクは天使だからなんでもアリだよ」

 何がなんでもアリなのかはわからないが、とりあえずその水晶玉で何かを見るんだろう。
 机の上に置いてガブリエルが何かつぶやくと水晶玉に映像が浮かび上がった。

「これは……なんだこのオッサン」

「アリスのお父さんだね。シアン・フローゲンハイトって人」

 アリスの父親? つまりはフローゲンハイト家の当主様ってことか。
 俺もといセバスチャンの雇い主でもある。

 彼はパーティにも出ているのだろうきらびやかな服装を着て豪華な食事や人に囲まれている。
 金持ち貴族のイメージからかけ離れたような痩せっぽちな身体に無精ひげ、研究者っぽい丸眼鏡。
 ガブリエルに言われなければこの人がアリスの父親……シアンだなんて気づかなかっただろう。

 ここで顔を覚えておかねば。

「気づかなくて当然だよ。アリスのお父さんにはね……ほら、いろいろな事情があるからね」

 とガブリエルは歯切れの悪い言い方をする。
 おそらくそれこそが核心に迫るから言えないのだろう。

「一応、セバスチャンとは面識あるからちゃんと顔を覚えておくんだよ。他にもパーティには出席してなさそうだけどアリスのお母さんとか、執事長だとかもね」

 アリスの母親か……きっとアリスに似て美人なんだろう。どこかの機会に顔を拝んでおくとしよう。
 あと、執事長もか。

 執事長というからにはセバスチャンにとっては直属の上司にあたるのだろう。多分、これから会ったり命令されたりすることがあるはずだ。

 こちらも事前に顔を覚えておこう。

「あ、執事長のトーマスなら。パーティに来ているみたいだよ。ほら、お父さんの後ろ側にひっそりといるよ」

 言われてみれば俺と同じ執事服を着た初老の男性がシアンの後ろで背後霊のように付き従っている。
 精悍な顔つきでまるで兵隊のように背がまっすぐだ。

 よし、執事長も顔を覚えた。
 白髪でキリッとしたオジサン。執事服さえ着ていなければシアンよりも貴族っぽく見えるほどに完璧な執事。執事の中の執事といったところか。

「移動するみたいだね」

 この水晶は特定の場所をリアルタイムで中継しているようでシアンが会場内を歩くたびにカメラも追従するようだ。

「それでお嬢様アリスの父親が何か関係あるのか?」

「うーん、これ以上は何も言えないよ。けど、ボクはつまらない嘘なんて決してつかないから、大きなヒントであることは保障するよ」

「なるほどな……」

 ガブリエルの歯切れが悪いのはそこに秘密が隠されているからだ。
 シアンが関係しているのは間違いないだろう。

「にしても今は深夜だよな。こんな時間になんのパーティをやっているんだ?」

「ん-貴族の秘密のパーティだろうね。ほら、出てくる人も大物ばかり」

 そう言われてもピンとこない。
 いかにも悪徳貴族ですといわんばかりな太っちょなオッサンやら使用人くらいしか見えない。

「あ、この国の王族も来ているみたいだね。なんのパーティかはボクもわからないけど、大きなパーティみたいだね」

 王族と言われてもなぁ……一人だけ金色の服を着て偉そうにしている奴がそうなのかなぁ。
 これ以上、見ていても収穫はなさそうだ。

 ガブリエルに言って水晶玉を止めると俺はゴロンとベッドに寝転がった。

 早いうちにシアンと接触してアリスの秘密について探らねば。

 そう思案していると水晶玉を股間の収納(?)に収めたガブリエルが視界に入ってきた。
 股間云々についてはもう突っ込まんぞ。

「どうかな。攻略の糸口はつかめたかな?」

「バッチしって言いたいとこだけどアリスの父親に会ってみないとなんともな」

「なら良かったよ……ふわぁあ、ボクも眠たいし今日はそろそろお暇するよ」

 そう言ってガブリエルは天井の奥へと消えていった。
 さて、俺も寝るかな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
 ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

処理中です...