ダンジョン脱税物語 ~ダンジョンで経験値を脱税します!~

中谷キョウ

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アリス・フローゲンハイトの憂鬱その2

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 翌日、アリスが学園へと登校すると違和感を感じた。
 公爵家の天才お嬢様という看板もあってか、アリスに声掛けることもなく遠巻きに眺めるだけの人が多い。
 シャロやリリスといった少数派の上級貴族ならともかく、ほとんどが下級貴族の子女たちで占められるこの学園においてはアリスは雲の上の存在なのだ。

 今日も同じく遠巻きにアリスを眺めているだけなのだが……なぜだかアリスが感じる視線はいつものものと違っていた。

(何よ……なんだか嫌な気分だわ)

 遠くからヒソヒソとウワサする生徒たち。
 いつもと同じ構図なのにいつもよりもドロッとした陰湿な雰囲気を感じる。
 むろん、天気のせいではない。陰湿な雰囲気とは異なり、空は晴れやかだ。

(気のせいかしら)

 あまり周囲を気にしないアリスはそう受け流すと教室へと向かい、ようやく今日の違和感の正体を知る。

 教室には座学用の黒板が置かれている。
 普段は教師しか使わないソレには大きな文字でラクガキが書かれていた。

『アリス・フローゲンハイトのレベルは1』

「ウソよ――」

 あまりにも直接的な文章にアリスは思わずギョッとした。
 自分がこれまでひた隠しにしてきたその秘密が大きく目立つように書かれている。
 一瞬、思考が凍ってしまうもすぐに昨日アリスの秘密が従妹のリリスに知られたことを思い出した。

 こんなことができるのは秘密を知っているリリス以外考えられない。
 昔から仲が良かったリリス。たしかに最近は疎遠になっていたが、リリスがそんなことをするはずがないとアリスは思っていた。

 だから、自分の秘密がここまで大々的に発表されるなんて思ってもみなかった。

 教室は静かだ。
 件のアリスが教室に入ってきたことによって少女たちはウワサ話をピシャリと止め息を潜めるかのようにアリスの一挙手一投足を見逃すまいと視線を送っている。

 ほどなくして、アリスが動いた。
 身体を翻《ひるがえ》して、教室から逃れようとする。

 トンッ。
 とアリスは背後にいた人物に軽くぶつかった。

「……キャロ」

 そこにいたのはアリスの親友でありクラスで最も弱いとされていたキャロである。
 キャロの表情は硬く、アリスを見る瞳はいつもと違って黒く濁っていた。

 キャロはアリスのことを自分には持っていない特別な才能を持つ友達だと思っていた。
 それでいて、自分にも周囲にも平等で言葉ではいつもツンケンしているけど、本当は心優しい。
 だから、キャロはアリスのことが好きだった。

 自分のレベルがクラスで一番低くて、いじわるなクラスメイトにいじめられていてもアリスがいたお陰で救われた。
 レベルが低くても、平等に扱ってくれるアリスに感謝した。
 鈍くさくて容量が悪くて頭も悪くて学園の提出物に遅れそうになった時も、自分のためにさりげなく手伝ってくれたアリスが本当に好きだった。

 でも、そんなアリスはキャロに隠し事をしていた。
 それもキャロにとってはあってはならないほどの衝撃な隠し事。

『アリス・フローゲンハイトのレベルは1』

 この学園いや、この世界ではレベルが全てである。
 老若男女どころか動物でさえもレベルによって優劣が決まる。

 クラスで一番レベルが低いキャロにとって、自分を救ってきた友達が自分よりもレベルが低いなんて許せなかった。
 本当なら自分がいるポジションにはアリスがいるべきだ。
 だというのにアリスは格上であると騙《だま》し、あまつさえそんな自分を上から目線で救っていたのだ。

 キャロにはアリスの本当の気持ちがわからない……いや、わからなくなった。
 言葉は汚いけど、心優しい友達だと思っていたのに本当は違ったのだ――そして、キャロは口を小さくゆがめた。

「アリスさん、レベル1だったんですね」

「キャロ……」

 その表情《かお》を見てアリスは察した。
 アリスはキャロにとっての友達ではなくなってしまったのだと。

 アリスは何も言わずそのまま教室を後にする。
 何も言えない。
 ずっと悩んでいたとはいえ、友達と思っていたキャロにレベルのことを秘密にしてきたのは事実なのだから。

 アリスはわき目も振らずただただ廊下を走り抜けていった。
 行くアテはないが行く道は決めていた。

 玄関口を飛び出しアリスは学園から消えていく。



 そんな何処か向かって走るアリスをリリスが静かに見つめていた。
 門をを出てその姿が小さくなるまでずっと見ていた。

「……はぁ」

 アリスの姿が消えてからリリスは小さくため息をついた。
 そして両隣にいる何かしらを話しかけてくる取り巻き達をあしらいながら今度は空を見上げた。
 今日の空は綺麗な青空だった。
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