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屋敷探検
しおりを挟むアリスが学園に行っている間、暇な俺はガブリエルと共にフローゲンハイト邸を探索することになった。
ことの発端は昨夜判明したアリスのレベルが上がらない理由に父親が関係しているというところからだ。ガブリエルからのヒントを受け、父親が怪しいとまではわかったが今の状況では情報がなさすぎる。
ということで探索や聞き込み調査を行おうとなったのだが、予想外の人物に足止めを食らっていた。
「ジィー」
「な、何か用かな」
「ジィー」
玄関ホールから探索を始めようと自室から玄関ホールまで移動した俺だったのだが、いつの間にかその人物に付けられていた。
フリフリのメイドドレスにカチューシャ。屋敷指定の装備一式に身を包み、無遠慮に視線を送り込むのはアリスの側近であるメイドだ。本名は知らない。同じアリスの従者同士、セバスとは仲が良かったのだろうか。
「気にしないでくださいませ。セバス様。私はお嬢様に言いつけられた通りのことをしているだけですから」
とにっこり営業スマイル。
これが普通のバーガーショップの店員だったら「スマイルも一つ」と頼んでしまいそうなほどにキレイな笑顔だ。
「ああ、そうか……じゃあ、俺は行くかな」
「そうですか。では、また後程にでも」
そう言ってメイドは小さくお辞儀をした。
さすがアリスのメイドだ。言葉だけでなく所作まで完璧だ。
奇妙なやりとりだったが、俺はこのまま探索に入ろうかと一階を見回り始めた。
ふむふむ、この奥が一番大きな客間ですぐそこにあるのがトイレか……。
「ジィー」
お、ここはギャラリーかな。絵画や彫刻品なんかが飾ってある。
「ジィー」
ここは物置か……貴族の邸宅とはいえ、物置はごった返しているんだな。
「ジィー」
「だから、何か用あるの?」
いつまでもメイドからの視線が続いたため思い切って本人へと尋ねてみる。
「いえ、セバス様を観察していただけです」
「俺を観察? なんで?」
「アリス様からの命令です。最近のセバス君は何かおかしいので調べてこいと」
なるほど、アリスの指示か……って俺もうそんなに怪しまれてる?
「俺、そんなに変かな?」
「はい、いつにもましておかしいかと」
「そんなに!?」
ボロを出したつもりはないんだがな……。
『いや、ボロ出しすぎてボロボロだから』
天……いや、頭上からガブリエルの言葉が降ってきた。
ガブリエルは部屋を出てからずっと俺の頭上をプカプカと浮いてついてきている。
だから、もちろん一連のやりとりは確認済みだろう。
軽くガブリエルに視線を向けると含み笑いを堪える姿が見えた。
よし、あとでゲンコツだな。
『ちょっと待ってよ。セバス君だってこの状況の助けが必要でしょ』
うん、まぁそうだな。
とりあえずガブリエルへの制裁は止めてやろう。
「セバス様?」
俺の視線がどこか別の場所へ飛んでいるのに気付いたのかメイドが声を上げた。
そうだった。今はガブリエルの相手をしてやってる場合ではないのだ。
「どこが変なのかな?」
「そうですね、まずは口調でしょうか。以前は”俺”なんて言葉は使っておりませんでした。それに雰囲気も少し違いますね。以前は知的でクールな印象でした」
「な、なるほど……」
知的でクールなナイスガイを演じていたつもりだったのだが、メイドからはそうは見えなかったみたいだ。
「あとは嗅ぎ慣れたような芳醇な香りが――とすみません、こちらは余計でしたね」
香り? どういう意味だ。俺はクンクンと自分の体を嗅いでみるがそれと言って変な匂いはしない。
『気にしなくてもいいよ。匂いはセバス君と変わらないから。それとそちらのメイドさんはミーシャさんだよ』
笑いをこらえながらガブリエルが情報を落としてくれる。
メイド……いや、ミーシャさんはクンクンと身体を嗅いでいた俺を微笑みながら見ていた。
「お、いえ僕は変わってしまったのでしょうか」
そう、セバスっぽくしゃべってみる。
「言葉遣いは無理しなくても問題ありませんよ、セバス様。むしろ今の方が私としては好みですから」
「え?」
「すみません、また余計なことを言いましたね。ところでセバス様先ほどから何をしてらっしゃいますか? 屋敷内をうろついているようですが」
「あーえーと、その……」
うーむ、さすがに屋敷を探索しているというのは不審がられるかな。
『セバス君。そんなキミにいい方法を教えてあげよう』
と近づいてきたガブリエルがごにょごにょと秘策を伝授してくれた。
ふむそのストーリーならいけそうだな。
でも、信じてもらえるかな。
『大丈夫だよ。ボクが責任をもってお勧めするよ』
若干、不安ではあったが俺はミーシャさんに対して秘策を試してみることにした。
「ミーシャさん実は……」
ガブリエルの秘策。それは壮大な物語でも摩訶不思議な物語でもない。
「え、えぐ……セバス様。もしやとは思っておりましたが記憶喪失にかかっていたなんて」
おーまさかここまで完璧に信じてくれるなんてセバスの日ごろの行いが良いからか。
そう、記憶喪失。ミーシャには死に損なった時に記憶が大分抜けてしまったことを伝えてみたのだ。
するとすぐに俺の話を信じ最終的には泣き出してしまった。
泣いたのは誤算だが、記憶喪失で押し通れそうなら万々歳だ。
挙句の果てには「この不詳メイドことミーシャでお手伝いできることがあればなんなりとお申し付けください」とまでも言ってくれた。
それなら……と成り行きでミーシャが屋敷探索のパーティに加わった。
こんなことならもっと早くから記憶喪失だと言った方がよかったのではないか?
俺は知らぬ顔で口笛を吹くガブリエルを一瞥するとミーシャ案内の元、屋敷内探索をつづけた。
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