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序章
1話 汚職
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電話の向こうで、泣くのを堪えながら、父親は語り始めた。
警察官だった、『犬宮もこ奈』の父親について。
「アイツは良い奴だった……というよりは、当時は組対に赴任していた俺と赤塚と、マトリで3年間経験を積んでいた犬宮さんは、俺たちにとっても、捜査の先輩みたいなものだった。」
「へえ……。」
「しかし、向こうは俺たちを羨ましがっていた……偶にタッグを組むことになっては、毎回新人だった俺たちを気にかけてくれて……それに賢い上に性格も少し大人しいひとだったから、犯人に対しても物腰が低くて、結構大人しく相手は従ってくれてたから、俺たちは魔法使いでも見ている気分だった。」
「そんなに凄いひとだったの?」
「ああ……『困ったら犬宮』と言うぐらいに、凄いひとだったんだが、それ故にな……捜査というものに疑問を持っていたんだ……『逮捕した先の捜査ができなければ、また同じ繰り返しなのではないだろうか?』ってね。」
「だから、警察に?」
「その通りだ。」
かなり情熱的な人という印象だ。
仕事熱心な警察に悪い人はいないというのは、私の持論だが、まず前述したように、虐待や暴力はする時間など無かっただろう。
娘との関係性が気になるところだ。
「話は変わるけど、娘さんのことは聞いてたの?」
「犬宮さんが警察に入隊して、新人扱いになった頃には、俺たちは赤塚と車木でトリオを組んで、刑事課に配属になったから接点は少なくなってたんだが……偶に飲みに四人で行くと、家族の話はしていた……そうだ………本人も『娘が自分に憧れてくれたら、嬉しくなっちゃうんだろうな』って、本当に喜んでいたよ。」
「そうなんだ……。」
やはり親子関係は、良好だったとみられる。
つまり、雑誌の記事内容は、確実に一部はデマだったのだ。
「ああ……虐待なんかするはずがないんだが、当時の記事を見たときは、凄く腹が立ったよ。」
「何で?」
「口を紡ぐように、箝口令が出されたんだ。」
「『百田』の事件について?」
「その通りだ……汚いだろう?」
「じゃあ……。」
「ああ……警察の一部は、『百田』に買収されていて、その警官の一人が、昨日の警官の直属の上司だ。」
成程、警察本部、しかも幹部級の警官からの言質が取れた。
それが意味するのは、父も赤塚さんも車木さんも、その他多くの警官が、未だに事件を追っているという事実だ。
誰も、金や脅しに屈してはいないのだ。
「……そういうことか。」
「おっと……萬田から電話だ。」
「『萬田』って?」
「昨日、電話をしてくれていた、新人警官だよ。」
「何かあったの?」
「病院で人待ちをしていてね……。」
「じゃあ……多分、事件に重要な案件だろうから、直ぐ後に、電話をお願い!」
「わかった。」
電話を切り、暫くクラスメイトを目の前に、リダイヤルを待った。
五分が経った頃、再通信が来た。
「どうだったの?」
「うん……まず、妹さんだが、目を覚まして寝たらしい……バイタルも安定していて、今のところは無事だそうだ。」
「本当⁉」
「ああ……お医者様も奇跡だって言ってたよ。」
「そう……良かった。」
親友の妹の安全を知り、安堵した。
自覚のないうちに酷く疲れていたのだろう。
一気に力が抜けるのを感じた。
「そしてだ……目が覚める三十分前に、『犬宮もこ奈』改め『百田もこ奈』が病院に訪れて、病室を訪ねたらしい。」
「それも本当?」
「本当だ……俺たちが睨んでた通り、この事件は、かなり複雑になっているようだ。」
『百田もこ奈』が病室に?
何故だろうか、皆目見当が付かない。
まさかとは思うが、親友への謝罪なのか?
何れにせよ、身柄がどうなったかが気になる。
「『百田もこ奈』は?」
「お咎めなしだ……寧ろ、通報してきたのも『百田もこ奈』本人だしな。」
本人が、事件直後に居合わせたというの?
不自然すぎるが、一つ考えられるのは、現場に居合わせる必要があったということ。
若しくは、親友の妹との接点があり、それが親しい関係にあったということだろう。
この事実が、早くに分かってさえいれば、もっと事件について考えようがあった。
「何で、先に言わないの?」
「いや……お前に先に調べて欲しくて……抑々、この事件の容疑者は実際には、『百田もこ奈』じゃなくて、『百田』違いの『百田司男』のことだ……警視庁の組対でも、徹底マークされているが、一部の買収されている警官のグループに、逮捕どころか捜査を阻止されている。」
「何で……物的証拠が押収されさえすれば、そんなの打破できるでしょう?」
「無理だ……押収した証拠品の数々を、何らかの手段で廃棄されている。」
一体誰が、どうやって厳重管理されている筈の証拠を、捨てられるというのか。
既に、鬼畜外道の部類にまで、警察の地位は落ちたというのか。
「は……警察が、そんなことを?」
「その通りだ……だが、数人だけしか処分できずに、更にはマスコミにリークしても、表沙汰にならない様に、手を回されている。」
これでは、最早打つ手がない。
兎にも角にも、私はクラスメイトと男子を連れて、担任に話をつけて病室に急いで早退した。
警察官だった、『犬宮もこ奈』の父親について。
「アイツは良い奴だった……というよりは、当時は組対に赴任していた俺と赤塚と、マトリで3年間経験を積んでいた犬宮さんは、俺たちにとっても、捜査の先輩みたいなものだった。」
「へえ……。」
「しかし、向こうは俺たちを羨ましがっていた……偶にタッグを組むことになっては、毎回新人だった俺たちを気にかけてくれて……それに賢い上に性格も少し大人しいひとだったから、犯人に対しても物腰が低くて、結構大人しく相手は従ってくれてたから、俺たちは魔法使いでも見ている気分だった。」
「そんなに凄いひとだったの?」
「ああ……『困ったら犬宮』と言うぐらいに、凄いひとだったんだが、それ故にな……捜査というものに疑問を持っていたんだ……『逮捕した先の捜査ができなければ、また同じ繰り返しなのではないだろうか?』ってね。」
「だから、警察に?」
「その通りだ。」
かなり情熱的な人という印象だ。
仕事熱心な警察に悪い人はいないというのは、私の持論だが、まず前述したように、虐待や暴力はする時間など無かっただろう。
娘との関係性が気になるところだ。
「話は変わるけど、娘さんのことは聞いてたの?」
「犬宮さんが警察に入隊して、新人扱いになった頃には、俺たちは赤塚と車木でトリオを組んで、刑事課に配属になったから接点は少なくなってたんだが……偶に飲みに四人で行くと、家族の話はしていた……そうだ………本人も『娘が自分に憧れてくれたら、嬉しくなっちゃうんだろうな』って、本当に喜んでいたよ。」
「そうなんだ……。」
やはり親子関係は、良好だったとみられる。
つまり、雑誌の記事内容は、確実に一部はデマだったのだ。
「ああ……虐待なんかするはずがないんだが、当時の記事を見たときは、凄く腹が立ったよ。」
「何で?」
「口を紡ぐように、箝口令が出されたんだ。」
「『百田』の事件について?」
「その通りだ……汚いだろう?」
「じゃあ……。」
「ああ……警察の一部は、『百田』に買収されていて、その警官の一人が、昨日の警官の直属の上司だ。」
成程、警察本部、しかも幹部級の警官からの言質が取れた。
それが意味するのは、父も赤塚さんも車木さんも、その他多くの警官が、未だに事件を追っているという事実だ。
誰も、金や脅しに屈してはいないのだ。
「……そういうことか。」
「おっと……萬田から電話だ。」
「『萬田』って?」
「昨日、電話をしてくれていた、新人警官だよ。」
「何かあったの?」
「病院で人待ちをしていてね……。」
「じゃあ……多分、事件に重要な案件だろうから、直ぐ後に、電話をお願い!」
「わかった。」
電話を切り、暫くクラスメイトを目の前に、リダイヤルを待った。
五分が経った頃、再通信が来た。
「どうだったの?」
「うん……まず、妹さんだが、目を覚まして寝たらしい……バイタルも安定していて、今のところは無事だそうだ。」
「本当⁉」
「ああ……お医者様も奇跡だって言ってたよ。」
「そう……良かった。」
親友の妹の安全を知り、安堵した。
自覚のないうちに酷く疲れていたのだろう。
一気に力が抜けるのを感じた。
「そしてだ……目が覚める三十分前に、『犬宮もこ奈』改め『百田もこ奈』が病院に訪れて、病室を訪ねたらしい。」
「それも本当?」
「本当だ……俺たちが睨んでた通り、この事件は、かなり複雑になっているようだ。」
『百田もこ奈』が病室に?
何故だろうか、皆目見当が付かない。
まさかとは思うが、親友への謝罪なのか?
何れにせよ、身柄がどうなったかが気になる。
「『百田もこ奈』は?」
「お咎めなしだ……寧ろ、通報してきたのも『百田もこ奈』本人だしな。」
本人が、事件直後に居合わせたというの?
不自然すぎるが、一つ考えられるのは、現場に居合わせる必要があったということ。
若しくは、親友の妹との接点があり、それが親しい関係にあったということだろう。
この事実が、早くに分かってさえいれば、もっと事件について考えようがあった。
「何で、先に言わないの?」
「いや……お前に先に調べて欲しくて……抑々、この事件の容疑者は実際には、『百田もこ奈』じゃなくて、『百田』違いの『百田司男』のことだ……警視庁の組対でも、徹底マークされているが、一部の買収されている警官のグループに、逮捕どころか捜査を阻止されている。」
「何で……物的証拠が押収されさえすれば、そんなの打破できるでしょう?」
「無理だ……押収した証拠品の数々を、何らかの手段で廃棄されている。」
一体誰が、どうやって厳重管理されている筈の証拠を、捨てられるというのか。
既に、鬼畜外道の部類にまで、警察の地位は落ちたというのか。
「は……警察が、そんなことを?」
「その通りだ……だが、数人だけしか処分できずに、更にはマスコミにリークしても、表沙汰にならない様に、手を回されている。」
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