詩集『刺繡』

新帯 繭

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悲しき恵み

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雨は私を溺れさす
生きも出来ず、苦しむ私を
嘲笑うように襲い掛かる
震えて動けぬ私に向かって
弄ぶように打ち付ける

打ちひしがれ、俯いている
濡れたアスファルトの上で、
私は、仕打ちと考えた。
私は前髪に滴る、雨に問う
「何故、私を虐めるの?」と。
せせら笑って、雨は答えた
「これは恵みの雨なのだ」と。

水は、生命の源だ。
暮らしを支え、草木の糧となり
大地を潤す、大きな恵みの水を
与えてくれるのは、いつも雨。
恵みのために些細な生贄となれと
お天道様は言うのだろうか……
そんなに私を虐めて、何が楽しい?

雨に向かって抗議する
「やり過ぎではなかろうか?」
雨が私に問い返す
「仕方がないのだ。」
さらに問い返す
「他に方法はないのだろうか?」
雨が答える
「これしかない。」
私は悲しくなりながら納得した
「ならば、私から気を付けよう」と
雨が感謝をした
「そうしてくれると、自分も助かる。」と
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