詩集『刺繡』

新帯 繭

文字の大きさ
上 下
83 / 92

コーヒーは大人の味と聞かされた

しおりを挟む
朝一番の香りに惹かれて、
朝食に両親のコーヒーを覗き込む。
私は飲んでみようと、カップにを伸ばす
母は私に覗き込み、そっと手を除ける。
「苦いから、大きくなってからね?」と
私に優しく諭そうとした。

私は納得いかなくて、少し怒ってみたけれど
母は少し考えて、一つ教えてくれました。
「苦いっていうのは大人の味なのよ。」と。
少し考えていたけれど、全然わからなくて
「どんな味?」と問い返した。
すると母は笑いながら、コップを挙げて
私のコップに、一口だけ分けてくれた。
「なら、飲んでみなさい。」と言われて
私は好奇心で、口に運んでみる。
苦くて、驚いて少し泣きながら戻すと
「まだ早かったね?」と笑った。
この思い出も、またコーヒーの味だった。


コーヒーは高校生で飲んだ。
味は少し甘くて、飲みやすくて、
それが缶コーヒーだと思い出し、
喫茶店でコーヒーを飲み直した。
すると苦みに耐え切れず、
シロップを入れて、甘くした。
それでも苦くて、ミルクを入れて
結局、カフェオレにする。
まだまだ、子どもなのだと、
そう自覚した、思春期の苦みに
今は、カプチーノの甘みを
じっくりと堪能する青年期の直中。

コーヒーは大人の味だと聞かされた。
あの頃の記憶に、ただ素直に思いを馳せて
今を肯定するための、一つの基準に
私は一つ感謝を述べる 今亡き母へ
私は立派な大人になりました。
半熟卵ではありますが、モーニングならば
付け合わせのサンドイッチにはピッタリでしょう?
そういう優しい人間に、なれて良かった。
しおりを挟む

処理中です...