Seeker at night

西崎 劉

文字の大きさ
12 / 19
第一幕 終焉の物語と殉教者たち

二:⑥

しおりを挟む
「・・・・・・友香?」
 手を延ばして届く範囲にいた親友。
「父さん・・・・・・母さん?」
 少し離れた場所で、友香の母親と談笑していた母・静子と同じく、友香の父と楽しげにスマートフォンに納められていた以前撮った写真画像を見ていた父・実隆。
「恭祐、美野里ちゃん?」
 わざわざ現在住んでいる県外の熊本から足を延ばして夫婦で遊びに来た弟家族。遥の両親にとって、初孫の明梨はまだ二歳と幼いから、夫婦でかわりばんこに抱えていた。仕事を定時で終えたそのまま駅で合流し、九州鉄道の特急列車で着たと聞いている。何でもない、祝日でも連休でもない、金曜日の夜。土曜は両親が久し振りに孫と戯れるのだろう。夕食は、食べに来いと父である実隆に提案されているから、土曜日も基本的に出勤の遥は仕事帰りに実家に寄る予定だった。そしてそのまま実家に一泊して日曜日に両親と一緒に見送るのだ。何でもない週末のちょっとした楽しみ。
「・・・・・・かずちゃん?」
 声音が震える。一つ下の一恵もまた、県外に就職を決めた。塾の講師を務める一恵は、現在北九州に居る。彼女は仕事の都合で今日だけ休みが取れたらしい。今日は実家で母と行動を共にしていて、明日の朝一で新幹線を使って帰るという。遥は拳を握りしめると立ち尽くした。と、力が弱いものの服の袖を引く感触がして、慌ててその方向に視線を向けると、いつのまにか側に来ていた柊咲夜が顔を涙でぐっしょり濡らしながら、見上げてくるから、思わず屈むと腕を広げた。それに咲夜は飛びついてくる。
「将太が消えたんだ!」
 将太とは、咲夜が通う小学校の同級生で友人の犬飼将太だ。今日の遥と友香が提案して集ったイベントに一緒に来ていた。遥たちが集合場所である天神のモニター前にたどり着いたとき、最初に見つけ挨拶に腕を引きながら連れてきて、嬉しそうに紹介してきたのを覚えている。友香は、咲夜にこうやってあちこち遊びに行く友達が出来た事を嬉しく思ったのか、彼らが側を離れた時は心持ち浮かれていた。
「みんな何処行っちゃったんだよ! みんな側に居たのに・・・・・・なんで?」
「そうだね、友香も母さんたちもみんなだよね・・・・・・」
 ぎゅうっと抱きしめて咲夜の背を撫でる。遥も一人きりだったら叫んで走り回って、泣いたかも知れない。けれど、一人じゃなかった。見知っていて、彼が幼い頃から、友香と一緒に見守ってきたのだ。嗚咽を漏らしながら、大声で泣き喚く咲夜を、一人ではないと知らしめるために、落ち着くまでその背をさすった。それにしても、何もない。踏みしめる大地はあるが、何かがおかしい。呼吸をするために必要な酸素だってある。一人じゃないという事から、比較的先に落ち着いた遥は、見落としが無いかといわないばかりに、周囲を注意深く観察する。
 と、泣いていた咲夜が、突然顔をあげると、一方を凝視する。
「・・・・・・さくちゃん?」
 不思議に思って、咲夜に声をかけるが、それに返すことはない。
「どうしたの」
 再び問いかけた。すると、ぽつりと呟いた。
「声がする」
「声?」
「・・・・・・泣き声、だと思う・・・・・・でも、この声、知っている人かも」
 咲夜は鼻を啜り、再び溢れた涙を腕で拭って、遥を見上げた。
「話し声も聞こえる。・・・・・・この声も知ってる・・・・・・」
 再び遥には聞こえないその“声”を聞き取るために咲夜は遥から離れてうろうろ目の前で彷徨きながらも、目は遠くを見ていた。
「あ、あああああっ! 判った! 純ちゃんだっ!!」
咲夜は叫ぶと握り拳を作って主張する。
「ネットで知り合った、京極純一。現在高校二年生! 他の声も判るかもっ」
 何度も耳を澄ませて、頷きながらも確信したのだろう。全員の名を指折り数えた。
「うん、やっぱりだ! あのね、ハル姉ちゃん。友姉ちゃんの非公式ファンクラブの会長たちだよ。那覇市の日比野裕樹、愛媛の松岡姫子、京都の京極純一、札幌市の芦屋鏡子の四人だ! へ?」
 そう、咲夜は四人の名を“口にした”。そう、口にしただけだ。けれど、今まで無かった変化が訪れる。咲夜が遥の目の前から掻き消えたのだ。
「・・・・・・さくちゃん?」
 予想もしていなかった。遥は反応が遅れ、そうして一人この奇妙な何もない世界に取り残されたのである。
「さくちゃん!!」
 最後まで側にいた可愛い弟分。叫んでも、周囲を探し回っても何処にもいない。遥は力が抜けたように、その場に座り込んだ。何処かに行くことも、何かをしようにも、何もないのだ、ただ放心した様子でその場に座っていた。
 どれだけ座り込んでいたのだろうか、周囲が視界に入っていなかったのは確かだ。ふと空気が変わった気がして顔を上げると、眼前に、全体像が計り知れない巨木がある。うっすらとした霧に天頂部分を隠したその木は、はらはらと葉を散らせている。遥の居る場所から随分と離れた場所にその木は生えていて、空を覆うほど枝葉を延ばしたその一部から太い枝が落ちている。遥はその枝から目が離せなかった。遥は、その枝の側に行かなければと、何故か思った。思っただけだ。なのに、瞬きほどで、その枝の側に立っていて、その太い年輪がどれだけ刻んでいるかも想像がつかない、無惨な切り口を晒している、見上げるほど大きな枝の傍らに居たから、ゆっくりと見上げる。・・・・・・涙が溢れて止まらなくなった。遥自身の身長よりもはるかに大きく枝葉を延ばし、背伸びしても、遥が立つ側面の反対側が見えないくらい大きい。けれどもその枝は、健やかとはいえないほど所々痩けた部分や削られた部分を持っていて、痛々しかった。遥はその枝が落ちてきた部分を持つ本体のある方向・・・・・・上空を見上げる。目を眇めるが、視界に映るのは、天空を覆う光をほとんど通さない広がった枝葉だ。詳細は見えない。一番近くに見える枝にしても巨大で、小枝と呼べる部分に付いている何枚もの葉は濃淡を変えた空と変わらない。大きい葉はある程度の大きさになると、散っているから、遥にとってもそれほど脅威に思えないまま、見上げていられる。それほどの高度を眇めて探しても、何処から折れたのかもすら判らなかった。ただ、折れた断面を見た限りでは、それは無理矢理だったと思われるほど瑞々しい。遥はそっとその枝に触れた。締め付けられるほど慕わしさと沸き上がる悲しみは、同時にこのような結果を晒しているその枝に向けられた。すると、その枝は、遥に触れられるのを待って居たかのように、その姿を変えて遥が手に持つことが可能な大きさの、小さな小さな苗木となって残る。遥は驚いて目を見開いた。
「驚く事じゃない。もうその“世界”は、独自の歴史を刻もうとしている」
 傍らに、青年が一人。肥沃の大地の様な髪色の、濃い緑の瞳の持ち主だ。
「・・・・・・え?」
「母なる世界から独立した。それが出来る切っ掛けを得た。・・・・・・あなたが手を差し伸べていなかったら、ただただ枯れ朽ち滅びただろう。憑代である枝葉は、大地の糧となるために還るだけだった。・・・・・・虫食い部分は、枯れるだろう?それと同じ。聖霊たちは、あなたの中に力を残した。だから、生き延びる事が出来たのだ。“初めからやり直す”ことになろうとも、消滅よりははるかにマシだからだ」
 意味が分からず、ただ青年と手の中に残った、大枝が姿を変えた、苗木を見比べる。まだ芽が出て幾ばくかの、双葉のそれは、先ほどまで年輪を重ねた幹から延びた、大枝だったとは思えないほど若々しくて可憐だ。
「・・・・・・いつか判る。でもそれは“今”じゃない。現世では、あの日から時間が止まっている。・・・・・・地球という世界を支える星の木を守るために、“日の本”の未来を切り取り、糧とした。あなたが拾わなければ、そのまま朽ちて消えたはずの先の世。けれど、“別のモノ”を手に入れて、やり直しをしている」
 遥は、“いつか判る”という言葉を念頭に、様々な疑問を棚上げして、訥々と語る青年に向き直った。
「ところで、あなたは“誰”?」
青年は深い笑みを浮かべると、こう返した。
「我は“導”なり」


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん
ファンタジー
 戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。  3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。  家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。  そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。  こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。  身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

どうぞ添い遂げてください

あんど もあ
ファンタジー
スカーレット・クリムゾン侯爵令嬢は、王立学園の卒業パーティーで婚約もしていない王子から婚約破棄を宣言される。さらには、火山の噴火の生贄になるように命じられ……。 ちょっと残酷な要素があるのでR 15です。

処理中です...