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第一章

ご先祖様。男難の狂相持ちの子孫を鍛える

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この世界には、様々な種族が暮らしている。



今ではこの地上で最も数が増え、繁栄した人族であるが、昔は少数部族の一つであったらしく、他種族との混血も当たり前のように行われていたのだそうだ。

彼女の家系も例外では無く、祖母が強力な霊力を持つハイエルフの巫女姫であった為、その祖母の強力な霊力は孫である彼女へと受け継がれた。

その時代、ドラゴンの中でも最高峰と謳われているレッドドラゴンを使役し、自らを覇者とならんとした魔族と、世に住まう多種族から選出された戦士達が戦いを繰り広げていた。

ベハティはその霊力と剣技でもって、勇者と共に魔族が使役するレッドドラゴンを倒したのだという。ただその時、倒したドラゴンの血を全身に浴びてしまったのだそうだ。

「いや~、ドラゴンの血を飲むと不老不死になるって聞いた事はあるけど、まさか浴びてもそうなるとはね!」

カラカラ笑いながらそんな事を言っていたのは、自分が子供の頃だったろうか…。

ともかく、ドラゴンを失った魔族は呆気なく討伐され、ベハティは世界を救った英雄の一人としてもてはやされた訳なのだが力と名声を持った英雄、しかも不老不死という存在は権力者達には煙たい存在だったらしい。
結果「第二の覇王を狙っている」という、根も葉もない汚名を着せられ、あやうく討伐されかけてしまったのだそうだ。

彼女は追手から逃げるように世界各地を放浪し、行く先々で伝説や武勇伝を数えきれないほど作った挙句、我がラヴィーン一族の青年と恋に落ち、子を産んだらしい。因みに彼女を討伐しようとした時の権力者達は、ブチギレた元仲間達が裏で暗躍して滅ぼし尽くしたとかなんとか。

彼女の血を受け継いだ子達は様々な分野で頭角を現し、その地域一帯を治める貴族へと取り立てられた。

本来なら辺境伯になれる程であったものの、彼女が経験した『過ぎたる力は不幸を呼ぶ』という家訓を守り、辺境の田舎を治める一子爵としておさまったのだそうだ。

彼女の存在はラヴィーン家直系の家長にのみ伝えられ、秘匿されている。

彼女も表舞台には一切出る事無く、世界をブラブラ放浪しながらたまたま・・・・出会う弱者とラヴィーン家を助け、影ながら見守り続けているのだ。

そんな彼女は数十年前、ラヴィーン家の家長に緊急招集を受ける事となる。

「まさか『うちの息子に男難の狂相が出ました!お助け下さい!』なんて伝令を受ける事になるとは思わってもみなかったよ」

ベハティの言葉に、セオドアの顔が渋面になる。

「そりゃあそうですよ。うちの両親は共に異性愛者ヘテロで良識ある人達でしたからね。ともすれば、何時でもどこでも男に襲われかける息子を持てば、ご先祖様に助けて下さいって縋りたくもなるでしょうよ」

「そうさねぇ。『今度の当主はなにアホな事喚いてんだ』ってんで、わざわざ顔を出してみれば…。まぁ、私の長い人生でも滅多にお目にかかれない程綺麗な男の子がいるじゃないか。こりゃ駄目だ、確かに何とかしなけりゃ、この子の人生大変な事になるわと納得したね。まったく…。私の祖母さんや、その他もろもろの血が、一点集中でお前に顕現しちまったのかねぇ」

「そうだとしたら、ご先祖様一同を恨みます」

「……って事は、私もその内の一人に入ってるってことかね?」

「……いえ、師匠には感謝していますから。恨むなんてそんな」

『なんだい?その間は』と、彼女は口に出さなかった。彼の今迄の人生を思えば、恨み節の一つや二つ、出て来て当たり前だと思っている。

そうして彼女は、いざという時は自分で自分の身を守れるようにと、セオドアにありとあらゆる格闘術や護身術、そして魔法を叩き込んだ。

「そのお陰で、ウェズレイに捕まるまでは何とか身を守れてましたよ……。そうでなければ私は今頃、王侯貴族どもの体のいいペットになってましたからね」

一族はベハティの進言を受けた当主の厳命もあり、総出でセオドアの存在をひた隠してきた。だが、それでも結局噂を聞きつけた王都の有力貴族や王族達から社交界デビューを命じられ、王立学院へ入学するという名目で王都に行く羽目になってしまったのだ。

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