黒の魅了師は最強悪魔を使役する

暁 晴海

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第一章

負けた相手は兄弟子だった

王族の命令とあっては逆らえず、可愛い我が子を泣く泣く王都に送り出す前夜、セオドアは両親と水杯を交わして別れを告げた。

「お前がペットにされるような事態になったら、私が王家に制裁を加えてやったさ。……にしてもそんなに王都に行くのが嫌だったなら、私と一緒に旅に出れば良かったじゃないか」

「この顔じゃ、どこに行っても私だってバレますし、逃亡者の様に生きていくのは嫌だったんです。それに、両親や一族に迷惑をかけたくなかったですし。王立学院を卒業すれば実家に帰れる、3年の辛抱だって、そう自分に言い聞かせてました」

王都に行ってみれば案の定、王族貴族(共に野郎ども)に惚れられまくり、己の貞操を守る為の戦いの日々を送る羽目になった。
もう本当、いっそ自分で自分の顔に傷をつけてやろうかと、本気で思うぐらいには地獄の日々だった。

身分があまり高くない田舎貴族ゆえ、警護の行き届いていない宿舎暮らしだったのも災いし、眠る時には常に短剣をベッドに忍ばせる日々。
なんせクラスメイトや先輩、後輩、とどめに教師陣にすら狙われていたのだから…。

一部のまともな(女にしか興味のない)友人や教師陣がいなかったら、ノイローゼになっていたところだ。

いい加減キレて「私は自分より弱い者の元にはいかない。私が欲しければ、私に勝ってみろ!」と宣言し、それからは無差別に言い寄られなくなったが、代わりに毎日決闘をする羽目になった。

まあそれでも、公式証書を起こして一人ワンチャンスと定めていたから、卒業間近にはだいぶ求婚者の数も減っていてホッとしてたのだが……。

その気の緩みが、自分のその後の人生を決定づける事になったのかもしれない。

卒業まであと一月を切ったところで、なんと王族と親戚関係にある大貴族、アスタール公爵家の跡取り息子であるウェズレイ・アスタールが決闘を挑んできたのだった。

彼はクラスは違うが同学年で、かたや大貴族、かたや田舎貴族だという事で接点もあまりなく、しつこく自分に言い寄って来る王太子や従弟達と違い、積極的にアプローチもして来なかった。

だから自分はうっかり、彼は学院にほんの一部だけ存在する女性至上主義者だとなんとなく思っていた。だからそんな彼に決闘を挑まれるなんて、まさに寝耳に水だったのだ。

そして決闘の結果はというと……。

今現在の自分の立場が、その答えである。まさか彼があれ程強かったとは……。

「それもこれも、貴方に責任の一端があるんですからね!彼が私の兄弟子だって知っていたら、それなりに対処が出来たのに……!」

「し、仕方が無いじゃないか。私を根性で探し出して『弟子にしてくれ』って土下座してきた小僧っ子が、まさか公爵家の跡取りなんて思わないだろ?!」

ここで初めて、明確に非難の眼差しを向けられたベハティが焦った様に言い訳をする。が、セオドアの追求は容赦がなかった。

「覚えるのが面倒だって、家名を聞いてもいなかったなんて信じられませんよ!」

「ぐぅ…!」

そう、ウェズレイとは彼が幼い時、夜盗の一団に襲われていた馬車を助けた事が切っ掛けで知り合った。

女だてらに大の大人をあっという間に制圧したベハティを見たウェズレイ少年は、『自分もこうなりたい!』と、持てる権力人脈を総動員し、ベハティの元に辿り着いたのだった。

それからはもう、弟子にしてくれるまで帰らないと三日三晩、ベハティの暮らしていた小屋の前で土下座し続けたのだそうで。根負けしたベハティは一年間、彼に体術剣術の基礎を徹底的に叩き込んでやったのだそうだ。

それが結果、守るべき自分の子孫が男の嫁になる原因になってしまうとは……。

ちなみに、なぜ一年間限定なのかというと。丁度その頃、アスタール家当主から緊急招集(セオドアについて)の連絡があったからだ。

「しかし、お前には何年も手ほどきをしたが、あ奴には一年間だけだぞ。……余程自力で精進したのか、元々の才能があったのか……」

そういえば、うっすらと風と土の魔力の波動を感じた。もしかして、鍛錬の最中にその力を引き出す事に成功し、上手く使いこなせるようになったのかもしれない。

「…まあでも、私は今結構幸せですので、いいんですけどね」

決闘の末、満身創痍になって入院した自分の見舞いにやって来たウェズレイもまた、ボロボロな状態だった。

本当に僅差で負けたのだと知って悔しかったが、「結婚しても、そちらがその気にならなければ手を出さない。傍にいてくれるだけでいい」と言い切った彼に、自分は目を丸くした。

『そんな訳ないだろ』と高を括っていたが、実際結婚をした後、彼は宣言した事を守り自分には指一本触れてこなかったのだ。

……最もそれに絆され、夜の生活を許可してからはもう……「遠慮ってなにそれ、美味しいの?」状態であったが。

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