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第一章

第一王子と第二王子

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『おお…!耽美系美少年とその取り巻き。学園愛憎物語といい、まんまアレじゃん!…え~と、ジル…なんだっけ?あの漫画の主人公の名前?』

思わず、生前姉が自分に「この漫画こそが、世にBLというジャンルを打ち立てた神作品なのよ!」と、力説していた不朽の名作だという漫画を思い出してしまう。

残念ながら、今目の前にいる王子様によく似た雰囲気の主人公の名前はど忘れしてしまったけど、多分こんな感じの少年だったのだろう。

華奢な体躯。ふんわりとゆるやかにウェーブのついた髪は明るめの金髪。大きめな瞳は鮮やかな翡翠色をしている。染み一つ無い透けるような肌は、まるで精巧に作り上げられたビスクドールのようで、その一つ一つのパーツがこの少年の美しさを完璧なものへと作り上げている。まごうことなき、絶世の美少年だ。

う~ん。これが絶世の美少女だったら、これから受けるであろう決闘も楽しかったんだろうな…。残念。

ともかく、今自分の目の前にいる第二王子であろう美少年は、おそらくは上級生であろう学生を沢山従え、不敵な笑みを浮かべてこちらを見ている。なにやらビシバシと敵意を感じるのだが、これってやっぱあれかな。坊主憎けりゃ袈裟まで憎いで、テオの身内である俺も憎しみの対象になってしまっているのだろう。

「…兄上、彼がこの国の第二王子である、ローレンス殿下です」

あ、やはり第二王子で合っていたんだな。

「初めまして、ローレンス殿下。アスタール公爵ウェズレイの長子、ユキヤ・アスタールでございます」

胸に手をあて、貴族の礼を取る。

――が、当の王子様と言えば、それに対して「うむ」だの「よろしく」だのと返事を返すでもなく、踏ん反り返ったように腕を組みながら、ジロジロと不躾な視線を向けてくるだけだ。

たかだか15になりたての子供にむかっ腹を立てるのも大人げないが、俺がこの場に来なければいけない状況にしてくれたのは、この王子様の我儘が原因なんだぞ!

そう思えば、やはり腹が立ってくる。

だが、それを態度や表情で表すのは流石に不味い。こういう時はあれだ。『こっちはまるで気にしてませんよ』って感じに、逆に笑顔を向けてやれ。

そう結論付け、ニッコリ笑ってやると案の定、王子様の顔がムッとした表情になる。よし、正解だ。…それにしてもこの王子、なんて分かり易い性格なんだ。

ん?ローレンス王子がなんか後ろの取り巻き達を睨み付けてる。イライラの八つ当たりでもしているのだろうか?
取り巻き達、なんだか頬染めて呆けた顔してたのを慌てて引き締めてるや。

「やあ!君がかの名高き黒の麗人か!いや、これは噂以上に美しい!」

微妙に張り詰めた空気の中、突然能天気な声がかかった。

見ればローレンス王子らの後方に、ローレンス王子とよく似た容姿の美青年が笑いながら立っていた。ただ、ローレンス王子の瞳の色と違い、こちらは思いっきり晴れた空の色をしているけど。

そしてローレンス王子や他の学生達のように制服を着てはおらず、かなり豪華な礼服を身に付けているところから、相当高位な立場の人間だと分かる。これはひょっとして、身内か何かかな?

「ランスロット兄上!」

――兄上?!

ローレンス王子の言葉で、その人物が第一王子であるランスロット殿下と判明した。よく見れば、彼の後方にもお供が多数控えている。

ただ弟の取り巻き達と違い、そちらは全員が騎士服を身に付けている。明らかに第一王子付の近衛達だろう。
屈強な騎士達を堂々と従えている佇まいには隙がない。武術系ではかなりいい線いきそうだ。流石は第一王子といったところだ。

だが、ローレンス王子はと言えば、苦々しげにランスロット王子を睨み付けている。その表情は舌打ちせんばかりだ。

「ランスロット殿下!」

慌てて、その場にいた全ての者が頭を下げる。無論、俺もそれにならう。

そんな周囲にランスロット王子は「あ~、ここ、王宮じゃないし、堅苦しい挨拶は無しで」と笑顔で手をヒラヒラさせている。なんか弟と違って、かなりフランクな人物のようだ。

「さて、改めて挨拶を。私はこの国の第一王子ランスロットだ。ユキヤ、貴方とお会いできて大変光栄です。この度は愚弟の我が儘で貴方を巻き込んでしまいました。身内に代わり、お詫び申し上げます」

そう言いながら、なんと俺に対して頭を下げた王子様に周囲はもちろん、俺も大いに慌ててしまった。

王様の次に偉い次期国王候補が、臣下でもない貴族の息子なんぞに頭を下げるって…。

前世で言えば、天皇の息子である皇太子がいち学生に頭を下げるのと同じだぞ。恐れ多いわ!

「あの、頭をお上げくださ…」

「兄上!このような者に謝罪をする必要などありません!」

言葉を言い切る前に、ローレンス王子の少し甲高い怒声に遮られる。
……おい、残念王子。このような者って、どのような者なんだよ。

「それに魔力無しの無能な貴方をこの場にお呼びしたのは、この身の程知らずな不届き者に、きちんと身の程をわきまえさせる為。決闘を申し込み、その立ち会いを務めて頂く為です!なので、余計な口出しは控えて頂きたい!」


『魔力無し』と正面切って言われ、第一王子の背後に控えている騎士達から僅かに殺気が上がるが、当の本人はと言えば「はいはい」と飄々とした笑顔を浮かべている。

そういえば父達がローレンス王子の情報を話し合っていたとき、この王子の話も出てきていたっけ。

第一王子は文武両道に優れ、朗らかな人柄から周囲の人望は篤かったが、魔力をまるで持っていない。その為、新たな魔力に目覚めた第二王子が王位を継ぐべきという声が王宮内で高まっているのだとか。

元々、第一王子を産んだのは数ある寵妃の一人。第二王子の母親こそが正妃であり、王族に連なる高位の貴族(♂)だった事もあり、今や第二王子はまるで王太子のように持ち上げられ、自身もそう振る舞っている…とかなんとか。

成る程。だからここまで我が儘に周囲を振り回せるのか。しかも国王に勅命まで出させるんだから、時期王太子というのもあながち嘘ではないかもしれない。

しかし、仮にも血の繋がった兄に対して、あの言いぐさはないよ。しかも俺に対してもクソミソに言いやがって。何様だってんだ。いや、王子様だけど。

「ったく…。本当に残念なアホ王子だな」

小さく呟いたタイミングで、ランスロットが「ブッ!」と吹き出した。
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