黒の魅了師は最強悪魔を使役する

暁 晴海

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第一章

鏡で見せてやりたい

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騒ぎの元である第二王子は今現在、懸命な治療が施されている。

しかし、魔眼によって力の源である「目」を破壊された事により、視力は戻っても再び魅了のスキルを使うのは難しい…。というのが、医療魔術師団の見立てだ。

つまり、第二王子の「召喚士」としての道はほぼ閉ざされたという事だ。当面は隠せても、いずれ時期を見て公表しなくてはならないだろう。

『ふん、王家直系のしでかしの尻拭いに奔走している間の措置か。実に愚かしい浅知恵よ』

愚かしいと言えば、賢王と謳われるこの国の王だろう。スキルに溺れ増長した息子を諌めるどころか私利私欲でしかない願いを聞き入れ、この様だ。結果、王家に顕現した至宝の能力を失ったのだから。

『まあその方が、こいつに注目が集まらん。俺にとって王家の愚かしさは逆に都合が良い』

黒蛇はベッドで眠り続けるユキヤの顔を覗き込み、頬をチロリと舐める。それにセオドアは同意の意味を込めてうなづいた。

「はい。人の口に戸は立てられません。箝口令が敷かれていても、既にユキヤが貴方の召喚に関し、なんらかの干渉をしたのではないかと裏では噂になっております。あくまで裏でですが。…まあ、まさか我が息子が召喚士として、悪魔公デーモンロードを従魔にしている…などとは想像も出来ないでしょうがね」

「何度も言うが、俺は従魔になった覚えは無い」

突然、頭の中に響いていた『声』が耳にクリアに届き、目を見張る。

そこには蛇の姿から元の姿へと戻った悪魔公デーモンロードが立っていた。

セオドアの顔を汗が一筋伝う。あの決闘の場にいた王族関係者達、そしてテオドアが言った通りだった。

美しくも危険極まる美貌は、明確に人外である事を主張している。その滲み出る絶対覇者のオーラに、知らず肌が粟立った。

「貴様はユキヤの身内だから手は出さん。…が、失言を改めねば、次からは何らかの罰を与えるゆえ、肝に命じておけ」

「…御意」

謝罪の意を込め、床に片膝を付くと深く首を垂れる。

その拍子に、絨毯にポツリと汗が滴り落ちた。

気が付けば全身冷や汗をかいている。全くもって、我が息子はとんでもない『モノ』を召喚してくれたものだ。

「して、悪魔公デーモンロード

「その無粋な名は呼ぶな。ベルでいい」

ベルとは、息子が仮契約の証としてこの悪魔に付けた名だ。元の名を知っていれば、なんて安直な名をつけたんだと誰もが空笑いするに違いない。

「では、ベル様」

「様もいらん」

確かに、ただの黒蛇に『様』付けは不味いだろう。明らかに高位者だと言っているようなものだ。だが、黒の精霊系の頂点に属する悪魔公デーモンロードがこんな鷹揚な人物だったとは正直意外だった。

「息子は…ユキヤは、あとどれ程で目覚めましょうか?」

「ああ。応急措置で傷は塞いだが、失われた血液は元に戻らん。ゆえに、冬眠状態スリーピングモードにして細胞を活性化させているので、そうだな…。造血もほぼ済んだし、あと少しと言ったところか」

「そうですか」

セオドアはホッと息をついた。

ここに運び込まれた後、傷は塞がっているのに今だ眠り続けるユキヤに、医療魔術師達は「悪魔から呪いを受けたか」と解呪を施したが効果は無かった。
ベルも自分の正体を明かした後は無言を貫いていたので、ユキヤの詳しい状態が分からなかったのだ。

テオノアには悟らせないように振舞っていたが、本当は自分も不安で一杯だった。

「ベル、感謝致します」

「こいつは俺の将来のヨメだからな。そう簡単には死なせんよ。…しかしお前を見ていると、このままの姿も良いが、成長した姿で伴侶とするのも悪くはないと思うな」

「…御冗談を…」

瓜二つと言われる自分と息子で、未来と現在の姿どちらが良いかと値踏みされてるのか…。

何気なく言われた爆弾発言に、セオドアは頬を引きつらせる。
これって多分、褒められたのだろうが…。でも正直、ちっとも嬉しくない。

って言うか、何だヨメって!?息子よ。お前、いくら魅了のスキルを持っているからって、タラシ込む相手を考えろ!

ユキヤが聞いたら「何で!?俺が悪いのかよ!?」と叫ぶだろう事を胸中で呟きつつ、セオドアは眠るユキヤの頬を指で撫でているベルを見つめた。その仕草は蛇の姿の時と大差ない。

薄っすらと笑んでいる口元もだが、ユキヤを見つめる真紅の双眼だ。自分に向けられていた温度のないそれらとは真逆で、隠せない熱を孕んでいる。

口にしてしまえば制裁待ったなしだろうが……。盛大にデレている。

魔界の最高権力者と謳われる、かの魔王の次席と称される程の大悪魔が…。出来る事なら今の様子を本人に鏡で見せてやりたいとさえ思ってしまった。
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