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第二章
只今逃亡中
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「ハックシュン!」
「どうした?寒いのか?」
「うん…。ちょっと、冷えちまったみたい…」
俺とベルは今、国境近くの森の上空にいる。
第一王子のランスロットから逃げた後、ベルは闇夜に乗じ、俺を抱えたまま飛び続けてくれたのだ。
それはいいのだが、目覚めたばかりで本調子ではなかった上に、季節はまだ春になる手前。しかも身に付けているのはパジャマのような薄い夜着のみ。空腹なのも災いし、すっかり身体が冷えきってしまったようだ。
「ここまで来れば大丈夫だろう。少し休むか」
そう言うと、ベルは森の中へとゆっくり降下していく。
そして小さな湖がある拓けた場所を見つけると、そこに降り立った。
「おい。あばら家があるぞ」
「え?あ、本当だ。って、普通に小屋と言えよ!」
ベルの言う通り、湖のほとりに小さな小屋が建っていた。
しかもベルが言うようなあばら家ではなく、切り出した丸太でしっかり造られた、いわばログハウスだ。誰か住んでいるのかと思ったがベルいわく、人の気配はないらしい。
「ベル、降ろしてくれ。俺が中を見てくる」
万が一の時に備え、ベルには姿を消してもらってからドアをノックする。
返答無し。
試しにドアを開けようとするが、鍵がかかっているのか開かない。
仕方がないので、窓から中の様子を伺おうとしたのだが、その前にベルがドアを蹴破った。
「おい、開いたぞ」
見事に吹っ飛ばされ……いや、粉々に破壊されたドアを見て、俺は暫し呆然とした。
「お、お前!なに破壊してんだ!本当にあばら家にする気か!?」
「あばら家はあばら家だろうが。扉一つ無くなったとて、変わらん」
むしろ「何変な事喚いている」的な目で見られ、俺はガックリ脱力した。
そう言えば魔界の王の一人だったよ、この悪魔。そりゃあ絢爛豪華な宮殿に住んでますよね。そんなトコ住んでりゃあ、こんな小屋、あばら家ですよね。分かります。
いや、俺も公爵家の息子だったけどさ。
例えばテオだったら、ベルの言い草に「そうだな」って同意するかもだけど。でも俺は、常識や生活基準は前世を引きずっているからね。人様の立派な家を「あばら家」なんて思わないし、ましてや破壊するなんて躊躇われるっての!
けど、今は俺的に緊急事態なので目を瞑るとして。仕方なく破壊されたドアから小屋の中に入ってみると、中は真っ暗でベルの言うように誰も住んでいないようだ。
「お、暖炉がある!……あ~でも火種……」
何かないかなと探そうとすると、いいタイミングで暖炉に火が灯った。ベルがやってくれたんだろう。こいつ、何気に便利だな。
「あ~…あったまる……。けどなぁ……」
チラリと破壊されてしまったドアの方を見る。
すきま風が入ってくる…というレベルじゃないな、これ。まあ、洞窟だと思って耐えれば……。なんて思っていたら、突然部屋の中全体が温まりだした。あれ?すきま風はどこに?
「軟弱なお前の為に、結界を張ってやった」
「……そりゃどうも……」
軟弱者で悪かったな!でも元々、お前がドア破壊したせいだからな?それしなかったら、普通にあったまってたし!
…なんて文句を心の中で叫びつつ、俺は暖炉の明かりに浮かび上がる室内をぐるりと見渡した。
中は案外快適そうで、一つしかない部屋の中にはベッドや家具などが綺麗に配置されていた。
ただベッドにはマットレスとか無いし、全体的に生活臭が無いので、ここは小金持ちの平民が夏とかにレジャーなどを楽しむ為の別荘?的な小屋なのかもしれない。
それはそうと、身体が温まってきたら今度は空腹感を思い出してしまった。
なので、何か食べるものがないかと小屋の中を探す。
だが残念なことに、皿やスプーン、鍋などはあるものの、食べられそうな物は残っていない。せめて保存食とかが置いてないかと戸棚を開けてみるものの、何やら干からびた草の束が残っているのみ。
匂いを嗅いでみると、爽やかなハーブの香りが鼻を抜けていく。ひょっとしたらブーケガルニのようなものかもしれない。
「でも、これだけあってもなぁ……。せめて野菜や干し肉とかあれば良かったんだけど……」
そう呟きながらため息をつきつつ戸棚を閉め、振り返った俺の目に、信じられないものが飛び込んできた。
「へ?」
さっきまでは確かに何もなかった筈のテーブルの上には、玉葱、人参、キャベツなどの野菜が山盛りになっていたのだ。
しかもその中に、大きな肉の塊までもが鎮座している。…一体、これは何事だ?
「どうした?寒いのか?」
「うん…。ちょっと、冷えちまったみたい…」
俺とベルは今、国境近くの森の上空にいる。
第一王子のランスロットから逃げた後、ベルは闇夜に乗じ、俺を抱えたまま飛び続けてくれたのだ。
それはいいのだが、目覚めたばかりで本調子ではなかった上に、季節はまだ春になる手前。しかも身に付けているのはパジャマのような薄い夜着のみ。空腹なのも災いし、すっかり身体が冷えきってしまったようだ。
「ここまで来れば大丈夫だろう。少し休むか」
そう言うと、ベルは森の中へとゆっくり降下していく。
そして小さな湖がある拓けた場所を見つけると、そこに降り立った。
「おい。あばら家があるぞ」
「え?あ、本当だ。って、普通に小屋と言えよ!」
ベルの言う通り、湖のほとりに小さな小屋が建っていた。
しかもベルが言うようなあばら家ではなく、切り出した丸太でしっかり造られた、いわばログハウスだ。誰か住んでいるのかと思ったがベルいわく、人の気配はないらしい。
「ベル、降ろしてくれ。俺が中を見てくる」
万が一の時に備え、ベルには姿を消してもらってからドアをノックする。
返答無し。
試しにドアを開けようとするが、鍵がかかっているのか開かない。
仕方がないので、窓から中の様子を伺おうとしたのだが、その前にベルがドアを蹴破った。
「おい、開いたぞ」
見事に吹っ飛ばされ……いや、粉々に破壊されたドアを見て、俺は暫し呆然とした。
「お、お前!なに破壊してんだ!本当にあばら家にする気か!?」
「あばら家はあばら家だろうが。扉一つ無くなったとて、変わらん」
むしろ「何変な事喚いている」的な目で見られ、俺はガックリ脱力した。
そう言えば魔界の王の一人だったよ、この悪魔。そりゃあ絢爛豪華な宮殿に住んでますよね。そんなトコ住んでりゃあ、こんな小屋、あばら家ですよね。分かります。
いや、俺も公爵家の息子だったけどさ。
例えばテオだったら、ベルの言い草に「そうだな」って同意するかもだけど。でも俺は、常識や生活基準は前世を引きずっているからね。人様の立派な家を「あばら家」なんて思わないし、ましてや破壊するなんて躊躇われるっての!
けど、今は俺的に緊急事態なので目を瞑るとして。仕方なく破壊されたドアから小屋の中に入ってみると、中は真っ暗でベルの言うように誰も住んでいないようだ。
「お、暖炉がある!……あ~でも火種……」
何かないかなと探そうとすると、いいタイミングで暖炉に火が灯った。ベルがやってくれたんだろう。こいつ、何気に便利だな。
「あ~…あったまる……。けどなぁ……」
チラリと破壊されてしまったドアの方を見る。
すきま風が入ってくる…というレベルじゃないな、これ。まあ、洞窟だと思って耐えれば……。なんて思っていたら、突然部屋の中全体が温まりだした。あれ?すきま風はどこに?
「軟弱なお前の為に、結界を張ってやった」
「……そりゃどうも……」
軟弱者で悪かったな!でも元々、お前がドア破壊したせいだからな?それしなかったら、普通にあったまってたし!
…なんて文句を心の中で叫びつつ、俺は暖炉の明かりに浮かび上がる室内をぐるりと見渡した。
中は案外快適そうで、一つしかない部屋の中にはベッドや家具などが綺麗に配置されていた。
ただベッドにはマットレスとか無いし、全体的に生活臭が無いので、ここは小金持ちの平民が夏とかにレジャーなどを楽しむ為の別荘?的な小屋なのかもしれない。
それはそうと、身体が温まってきたら今度は空腹感を思い出してしまった。
なので、何か食べるものがないかと小屋の中を探す。
だが残念なことに、皿やスプーン、鍋などはあるものの、食べられそうな物は残っていない。せめて保存食とかが置いてないかと戸棚を開けてみるものの、何やら干からびた草の束が残っているのみ。
匂いを嗅いでみると、爽やかなハーブの香りが鼻を抜けていく。ひょっとしたらブーケガルニのようなものかもしれない。
「でも、これだけあってもなぁ……。せめて野菜や干し肉とかあれば良かったんだけど……」
そう呟きながらため息をつきつつ戸棚を閉め、振り返った俺の目に、信じられないものが飛び込んできた。
「へ?」
さっきまでは確かに何もなかった筈のテーブルの上には、玉葱、人参、キャベツなどの野菜が山盛りになっていたのだ。
しかもその中に、大きな肉の塊までもが鎮座している。…一体、これは何事だ?
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