黒の魅了師は最強悪魔を使役する

暁 晴海

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第四章

異母兄

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「…確かに、この国の事を思えば、王の下した決断は正しい事なのでしょう。ですが永きにわたり、この国を守護して下さった聖獣様と国の為と嫁ぐ決心をしたシェンナを犠牲にし、得られる平穏とは何でしょうか。そもそも聖獣様がいらっしゃらなければ、この国は当の昔に滅びるか征服されていました。ならば聖獣様と共に滅びる事こそ、我々が天に与えられし定め。私や多くの民は、そう考えております」

「…それじゃあ貴方達は、やはりグリフォンと姫様の居所を知っていたんですね?」

「…はい」

「それを、俺に伝えて良いのですか?」

「はい。…先程迄、貴方様は私達にとって敵も同然でした。…ですが」

そこで一旦言葉を切り、ザビア将軍は顔を綻ばせた。

「貴方様はそんな私達を助け、『人の心は自由であるべき』と仰られた。だから私は貴方様に賭ける事にしたのです」

え?そんな事だけで、俺を信用したのか。ちょっと…いや余りにも決断早くありませんかね?

「でも、俺と貴方は知り合ったばかりですよ?そんなに簡単に信用して、俺が裏切ったらとか思わないんですか?」

信用されて喜ぶべきなのに、ついそんな疑問を口走ってしまった俺に、ザビア将軍は笑みを増々深めた。

「知り合った時間など問題ではありません。私は貴方を信用に足る人物だと認めた。もし裏切られたとしても、それは私が未熟であったというだけの事。もしくは貴方の『魅了』に捕らわれた…という事なんでしょうね」

そう言うと、ザビア将軍は茶目っ気たっぷりに俺にウィンクをした。おお…!色男がやると様になるな。ん?何か首元が締まった気がする。

次の瞬間、ザビア将軍は表情を引き締めた。

「黒の魅了師殿。我が国の聖獣様と巫女姫の元にお連れ致します。どうか、我が国をお救い下さい」


巫女姫が祈りを捧げる部屋の奥。壁一面に描かれたグリフォンに向かい、ザビア将軍が手をかざした。

すると壁のグリフォンが光を放ち、部屋全体が眩い光に包まれていく。

「…!」

眩しさに思わず目を瞑り、その後ゆっくり目を開けると、グリフォンの描かれていた筈の壁には大きな扉が出現していた。

――これは…固有結界か!?

仕組みとしては、ウォレンさんの居た空間と同じに見える。

兵士逹がざわめく中、ザビア将軍は扉へと近付き、そっと手を触れる。するとたいして力を入れたように見えなかったのに、見るからに重そうな扉が音も無く開いた。

「この隠し扉とその奥の空間には、聖獣様が施された幻術がかけられております。それを解除し、中に入る事が出来るのは王家の血を継ぐ者のみ」

「えっ?!それじゃあ…貴方は」

「ええ。私には王家の血が流れています。私は王が召使いに産ませた子で、シェンナとは異母兄妹になります」

なるほど。だから彼の容姿に王様の面影があったのか。

そして、途中からシェンナ姫の事を呼び捨てにしていたのを不思議に思っていたけど、成る程な。兄だったのなら納得だ。

「私が産まれ、側室となった母は流行り病で早世し、私は王妃様に育てて頂きました。その王妃様も、シェンナを産んですぐに亡くなられて…。だから今度は私が王妃様に代わり、シェンナを立派な世継ぎにすべく大切に育んできました」

「え?世継ぎって、貴方は?」

「…この国では、聖獣様から受け継ぐ血を次代に繋げない者に、王位を継ぐ資格はないのです。私は女性を愛せない。ですから自分の子を成す事が出来ません」

あ、そうなんだ。

俺は異性愛者ノーマルだけど、この人は同性愛者ホモセクシャルなのか。嗜好が真逆だけど、男か女、一方しか愛せないってのは同じだな。

…でも…。

「あの…それって、グリフォンが決めた事なのですか?自分の血が流れていない者が治める国は守護しないって」

「え?!…いえ、それは…。ただ、代々受け継ぐ王家の決まり事で…。ですが何故、そのような事を?」

「あ、いえ。あまり深い意味は無いんです。でもグリフォンはこの国とこの国の人達が好きだから、ずっとこの国を守ってきたんじゃないかと思って」

俺の言葉を聞いたザビア将軍が目を丸くしている。王家の覆る事のない絶対事項、そう思ってきた者にとって、正に寝耳に水だったのだろう。
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