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第四章

シェンナ姫

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『――ッく!…貴様…!?』

「え?」

突如、グリフォンが驚愕の声をあげ、攻撃を止めた。

何事かと見れば、俺の首に巻きついていたベルがグリフォンと向き合ってる。しかもその身体からはグリフォンを威嚇するように、瘴気にも似た魔力がゆらりと立ち昇っていた。

『流石は霊獣と称えられし幻獣。弱っている身でそれだけの力を振るう事が出来るとは、大したものだ。が、これ以上の攻撃は、俺に対する宣戦布告と見なす。…良いのか?』

「ベ、ベル!やめろ!無理するな!お前はまだ力を封印されて…」

――って、あれ?よく見てみたら、ベルの首元の輪っか、なんだか細くなってる気がする。あ!何か今、プチンって糸がほつれるように輪っかの端が弾けた。

…ひょっとして、ウォレンさんの封印、弱まっているのかな?だからフウもベルに対して怯えたような態度を取っていたのかな。

『黒の精霊…しかもかなりの上位種。貴様程の者が、たかが召喚士崩れの魅了師ごときに使役されているというのか…!?』

『魅了師ごとき…か。怒りと呪いにやられて、目も曇っているようだな。貴様が対峙している者を、今一度よく見てみるがいい』

『――!!』

ベルの言葉に従い、俺を見つめた金色の瞳が驚愕に見開き、大きな体躯が怯えた様に一歩後ろに下がった。何だ?一体どうしたってんだ?

『貴様…その魂の輝きは…!』

魂の輝き…とな?何の事だろう。

『分かったか?こいつが本気になれば、今のお前ごとき瞬殺出来るという事が。分かったならば、大人しくしているがいい。お前が守っている小娘の為にもな』

ベルの言葉に、再びグリフォンの身体から殺気があがる。って、おい待てベル!お前、何無責任に俺の事持ち上げてんだ!グリフォンを瞬殺なんて、出来る訳ないだろーが!!
しかも小娘ってシェンナ姫の事だろ!?何でわざわざ相手の泣き所突いて煽るかな?!余計怒らせちゃったじゃないか!!

『ク…ッ!かくなるうえは、この死にぞこないの身体を使い、貴様らもろとも…!』

「やめて下さい!聖獣様!!」

高く澄んだ声がグリフォンの後方から聞こえてきたと同時に、一人の少女がグリフォンと俺達の間に立ちはだかった。

年の頃は10~12才程。

この国の民特有の浅黒い肌や黒髪黒目ではなく、肌は透き通るように白く、腰までありそうな髪も、零れ落ちんばかりに大きなその瞳も、まるでグリフォンの毛並みの様な輝く金色をしている。

特筆すべきはその耳で、獣の特徴を身体に有する獣人のように、羽根のような形をしていた。そして更に言えば、物凄い美少女だった。

「シェンナ!」

ザビア将軍が叫ぶように口にした名前。やはりこの少女がシェンナ姫か。

ザビア将軍とまるで違うこの毛色と容姿は、先祖返りでグリフォンの血が濃く出たからに違いない。

『シェンナ…退くがいい』

「嫌です!聖獣様、どうかお気をお鎮めになって下さい!私などの為に、これ以上お力を振るうのは止めて!兄様、お願いです!どうかそちらの方と共に、この場から立ち去って下さいませ!」

グリフォンを背に庇う様に両手を広げて立つその華奢な身体は、傍目で見ても分かるぐらいに震えている。…なんかいたいけな美少女を苛めている気分だ。非常に不本意。

『あれ?』

シェンナ姫の様子に違和感を感じる。

恐怖に震えているのは勿論だろうが、それにしても身体の震えが尋常ではない。むしろなけなしの気力を振り絞って、ようやく立っているといった様子だ。

それに顔色も、色白というより、真っ青といった感じで、まるで死人のようだ。明らかに不調をきたしているっぽい。

そう確信した俺は、俺やザビア将軍の周囲に張った防御結界を解いた。
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