黒の魅了師は最強悪魔を使役する

暁 晴海

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第四章

王太子コリン

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おっと、回想が長くなった。このパンケーキは時間が経つとしぼむから、温かい内に食べなくてはいけないのだ。


さて、じゃあ味見を…と、皆でフォークを持った時、手首に巻きついていたベルがパクリとパンケーキに齧り付いた。

「あ!ベル!」

『ふん、まあまあだな』

そう言いながら、パクパクとパンケーキを飲み込んでいくベルに倣い、フウもパンケーキを夢中になってパクついている。それを見た俺は、「試作品だったし、生地は沢山作ったからまた焼けばいいし。美味しそうに食べてくれているし、まぁいっか!」と、止めるのをやめた。

「美味しい…!口に入れた瞬間、蕩けます!」

「本当だな。ふんわりしっとりしていて、卵とバターの風味が鼻に抜けて。この上にかかっているソースがまた絶品だ。…うん、実に美味しい!」

次々と手早く焼きあげていくパンケーキを、シェンナ姫とザビア将軍が美味しそうに食べている。特にシェンナ姫は頬を紅潮させて、実に嬉しそうだ。

やはり古今東西、女子はこういったスィーツが好きと見える。羽のような耳が嬉しそうにパタパタしているのが何とも可愛いらしい。

「流石は黒の魅了師殿。このような料理一つとっても御業が奇跡のようです…!」

いやいや、奇跡ってあんた。

「褒めてもらって光栄ですがこんなもん、作り方を覚えれば誰でも作れますから」

ザビア将軍の幸せそうな賛辞を、苦笑しながらなんて事ないですと否定する。実際、普通のパンケーキをスポンジのタネに変えただけの簡単なお菓子だ。

「いいえ!私は貴方が作ってくださったこの菓子の味を、生涯忘れないでしょう!」

熱っぽい口調。心なし頬も赤く染まっている。

そうか、ザビア将軍って甘党だったんだな。前世でもそうだったけど、意外とスィーツ好き男子って多いよな。かく言う俺も甘党だし。

『….この天然ボケが....』

パンケーキをとっくに食べ終わっていたベルが、ボソリと何か呟いていたような気がしたが、どうせろくな事じゃないなと無視をする。

さて、俺も焼いてばっかじゃなくて食べるか。…うん、上出来上出来!本当は生クリームと一緒に食べたいとこだけど、それが無くても十分美味しい。黒糖って事もあるだろうけど、やっぱ砂糖の質が違うのかな?いつも作るカラメルソースよりも濃厚で深い味わいだ。

「…魅了師様。お話したい事が御座います」

厨房のテーブルで、俺の目の前に座ってパンケーキを食べていたシェンナ姫がカトラリーを置いた。そして、改まった口調と真剣な眼差しで俺を見る。

「何かな?」

俺も食べるのをやめて先を促すと、シェンナ姫は一瞬口ごもった後、決心したように再び口を開いた。

「コリン様の事についてです」

「コリン?」

「此度、私の輿入れを望まれた…。オンタリア王国王太子様のお名前です」

へえー、相手の名前、コリンって言うんだ。…じゃなくて。

「シェンナ姫、婚約者の事を知ってるの?」

「はい。以前、この国で行われた収穫祭の折に初めてお会いして…」

聞けば収穫祭とは、文字通り収穫を祝うこの国最大のお祭りで、日頃取引のある商人や交流のある国の要人などを招くのだそうだ。そしてその日だけは特別に、グリフォンと巫女姫が大衆の前に姿を現すのだという。

「オンタリア王国は新興国ゆえ、国交を結んだのはここ十年程前の事です。コリン王太子も数年前に成人されたのを機に、勅使として我が国を訪問されるようになりました」

妹の説明を、既にパンケーキを食べ終えていたザビア将軍が補足する。

なんでもオンタリア王国の人間は確かに血の気が多くて好戦的ではあるが、決して蛮族ではなく。新興国という事もあり、他国に対してかなり気を使って接していたらしい。

しかもこの国は、作物を作るのに適さない土地柄らしく、農業国であるカルカンヌ王国は特に大切な友好国として接してくれていたそうだ。だから、今回の暴挙はまさに寝耳に水状態なのだそうだ。
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