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第四章

界渡りした粋な贈り物

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「なあ、ベル。ずっと気になってたんだけどさ、『界渡り』って何?」

俺は、ごろりとキングサイズのベッドに横たわり、長くて大きな枕に後頭部を埋める。それから顔の横に移動したベルへ質問すると、実に詳細な答えが返ってきた。

『魂が別の次元の世界に転生する事だ。普通魂は生まれた世界の中を循環するように廻る。間違えて循環の輪から外れ、『外』に出たとしても界と界の間に在る次元の波に飲まれ、殆どの魂は他の世界に辿り着けない』

「へぇ?」

流石は永劫の時を生きる悪魔。噛み砕くように分かりやすく説明してくれる。ふんふんと真面目に聞いている俺に、ベルの講義はさらに続いた。

『ゆえに奇跡的に次元の波を超え、別の界に辿り着けた魂は研磨され、強くなる…という訳だ。稀に生きたまま界渡りをする奴もいるが、それは『異世界召喚』された『勇者』が殆どだな』

――勇者!?うわあ、王道ファンタジーだ!あれって、本当に召喚されていたんだ!そういえば、ベハティ母さんが一緒に戦ったのも、召喚された勇者だったって言っていたっけ。

『ところで。お前が以前言ってた『腐界』とは、地球上のどこに存在しているんだ?』

「……..」

「沼に沈んだお腐れ様の心の中」…なんて言える筈もなく、最後の言葉は綺麗にスルーさせてもらった。




「ん。まぁ間一髪ってところだったね」

乱雑に積み上がった本の上に腰掛け、目の前に浮かべた魔法陣に人差し指を当てていたウォレンは、モノクル越しの金の目から光を消した。

実はこの男、仮面を媒介にして己の『目』として使い、ユキヤ達の行動をしっかり覗き見ていたのである。退屈しのぎも兼ねた監視ではあったが、いざとなった時の保険も兼ねていた。

「ユキヤ…か。思っていた以上に面白い素材だったなぁ~。ベハティも、粋な贈り物を持ってきてくれたものだねぇ」

風の精霊を眷属にし、国の事情を関わった者達から知りえて行動を起こした。そして『黒の魅了師』としてではなく、己の信念と意志で立ち回った事により、グリフォンを認めさせるに至った訳だ。

何よりも、『魅了師』でありながら力を行使する事を是とせず相手を魅了しまくってるのだ。面白いにも程がある。

「何も教えなかったのに、予想を上回る良い動きをしてくれてる。結構綱渡り気味ではあるけど、及第点は与えても良いかもしれない」

誓約を違え、ペナルティが発生するリスクは考慮…してなさそうだったが。まあ、その程度の失敗は想定内だったから問題ない。

「それにしても危なかったなぁ。まさかあの子が僕の『縛り』を解くなんて。まぁ解いてもらわなきゃだけど、今はちょっとねー」

ウォレンは魔法陣を消すと顎に手をかけ、少しばかり首をかしげ思案する。そう、術はしっかり解けていたのだ。けれどこのままでは宜しくない方向に進みそうだったので、媒介にしている仮面から気付かれぬ様に術を掛け直したのだった。

僅かでも悪魔公デーモンロードに魔力の気配を察知されれば厄介だったが、幸い彼は目の前の獲物ユキヤに夢中だったので無事成功。都合よく勘違いもしてくれたが、もしこの事実を知ったらあの悪魔、確実に自分を殺しに来るだろう。

「無意識でアレか…。混ざりものとは言え、末恐ろしいものだ」

魅了の力は確固たる「意志」が伴えば、内包する魔力に比例して威力を増す。彼…ユキヤの潜在能力は自分を既に凌駕しているのかもしれない。

に、しても。仮契約を結んでいるとはいえ、自分を狙っている悪魔公デーモンロードを解き放つなど、一体どんな心理が働いたのやら。案の定しっかり襲われてたが、存外絆されているのか。

とは言え、これから山場を迎えるにあたって色恋は不要の産物だ。まだ試験は続いているのだから。

「さあ、ここから君はどう行動するんだろう?もしも『正解』に辿り着けたら…」

最後まで呟かず、ウォレンは黒と金の目を細めてうっそりと笑う。そしてハミングしながら、再び別の魔法陣を宙に出現させたのだった。
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