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第四章

牽制

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「黒の魅了師殿。オンタリア王国からの勅使が王宮に明日訪れるそうです」

食事を終えたタイミングで、再びザビア将軍が俺の部屋を訪れ、告げた言葉に俺は仮面の下で目を見開いた。

「もう?随分早いよね」

「は。どうやら国境付近に待機していたものと思われます。シェンナの輿入れに随行する名目で、兵士が約二百。勅使と共にやって来るとのこと」

「ニ百!?随分多いな」

「しかも、その半数は魔物の分類に入る亜人種達です。兵士の数の多さは、道中シェンナの身の安全を守る為と言っております。それ故、こちらからの護衛の兵は不要との事。ですが恐らく、我々への牽制と逃亡防止の為でしょう」

――つまりはシェンナ姫を身一つで連れて行くつもりなのか。

そして、半数が亜人種の兵士って……。いやもう、滅茶苦茶分かりやすい脅しだよね。

この長閑な農業王国に対し、過剰過ぎないかとは思ってしまうが、弱っているとはいえ、それだけ霊獣であるグリフォンは、彼等にとっての脅威なのだろう。

お前黒の魅了師も、脅威の一つなんだろうよ』とはベルのお言葉。うん、そうかも。中身は偽物なんだけどね。

「使者を介して伝えた我が父からの要望により、数人の者の随行は認められました。黒の魅了師殿は薬師として、随行者の中に加わって貰います」

「薬師として?」

「高名な『黒の魅了師』が随行するとなれば、あちらも警戒しましょう。下手をすれば随行も許されないかと」

「まあ…。それは確かに当然だよな…」

俺は暫く考え込んだ後、口を開いた。

「…いや、俺の事はそのまま『黒の魅了師』だと相手に伝えて下さい」

ザビア将軍は驚いた様子だったが、そんな彼に何故そうするのかを説明する。

「今迄グリフォンが曲がりなりにも生きてこれたのは、グリフォンの神獣としての力が強かったって事もあるけど、人質という意味合いもあったからだと思う」

そう、グリフォンにかけられている呪いは、力を吸い取る為のもの。今現在、大部分のグリフォンの魔力が敵に渡っている事を考えると、このままシェンナ姫が国外を出たら…。たとえ今すぐでは無くても、間違いなくグリフォンの息の根を止めようとする筈。

シェンナ姫をオンタリア王国にさえ連れて行ってしまえば、グリフォンに人質としての価値はなくなってしまうのだから。

それにシェンナ姫に万が一の事があった場合、グリフォンが生きていれば面倒な事になるかもしれないのだから、リスクを減らそうとするのは当然の事だ。

「だから、牽制の意味で俺はそのまま名を名乗る。必要ならば、将軍が俺の新たな契約主となった事。そして、将軍と共に輿入れを見届けてから姫の魅了を解く、と伝えればいい」

「黒の魅了師殿…」

「いいですね?ザビア将軍」

「…承知致しました」

まだ戸惑っているザビア将軍に、念押しとばかりに口調を強める。これはお願いという名の強制だ。

そう。俺の身分が薬師では意味がない。シェンナ姫だけでなくグリフォンの命を救う為には、一か八か、こうするより他無い。

そして、俺が『黒の魅了師』を演じる為に絶対不可欠の『補佐役』も必要だった。

「ベル」

『何だ?』

「お前には頼みたい事がある。勿論タダじゃないやつだから、有難いんだけどな?」

そう言いながら、俺はベルに仮面越しからニッコリと笑いかけた。
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