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第五章

大陸事情

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「亜人は人間と違い、自分よりも格上の相手には滅多に逆らいません。ましてその格上が自分達の為に無償の施しを与えるなど、心酔するに十分値する行為なんですよ。それに人間は亜人を下に見る風潮がありますから。魅了師殿のなされようがよほど嬉しかったのかもしれませんね」

――格上…なのか?滅茶苦茶警戒されてるとばかり思ったけど…。

『まぁそれもあるだろうが、単純にお前の魅了の力にあてられたんだろう』

「魅了の力って…!だから使ってねーよ、んなモン!そもそも使い方も分からねえし、最初っから仮面越しだぞ?」

小声でベルに反論すると、馬鹿にしたようなジト目を向けられた。

『何度も言うが、そもそもお前の魅了のスキルは強力な上、無節操にだだ洩れ状態なんだよ!俺の制御や、今お前が身に着けている仮面でも全ては抑えられねぇぐらいにな』

「けど、カルカンヌ王国では俺に『魅了』された人なんていなかった…」

『ど阿呆が!それはお前が誰とも長時間接してなかったし、意志を持って見つめていなかったからだ。実際、ドブネズミや兵どもへの睨みつけは効果あったろう!』

え?あれはベルが威圧を飛ばしてたからじゃないの?と言ったら、心底馬鹿にした目で見られてしまった。地味にムカつくなこいつ。

『魔物に近い亜人種程、そういった気配に敏感なんだ。奴らにとっての審美は容姿の美醜よりも相手の持つ魔力。連中にとって、お前は極上の輝石に等しい。そんな相手に優しくされたりすりゃあ亜人ごとき、いちころだろうよ』

「いい加減に悟れ!」とばかりな口調に呆然とする。つまりは人間相手に有効な『無駄に目立つ容姿を仮面で隠してトラブル回避』も、亜人にはあまり効果が無いという事なのか。

しかしベルの奴、なにも人を壊れたフェロモン噴霧器みたいに言わなくても…。だけどこの仮面って、魔力を抑える力があったんだな。

それと、南の大陸は亜人種が差別されているのか。俺が住んでいた西の大陸は、亜人種が殆どいなかったから初耳だった。

その後、ザビア将軍に詳しく教えてもらったのだが。この南の大陸は亜人が人間よりも少なく、オーガやオークといった、見た目が魔物寄りな亜人種だけでなく、ドワーフやエルフのような見た目が人間に近い亜人種も魔物に近いと認識されていて、それなりに差別もあるのだそうだ。

カルカンヌ王国では、グリフォンという聖獣の血が王族と結びつくという特殊な歴史がある為、亜人に対する偏見はほぼ無い、南の地では特殊な国なんだそうだ。


対して東の大陸は人間と亜人がほぼ同程度で、多種族共存国家が多く、差別もほぼないとの事。

そして北の大陸。ここは南の大陸とは真逆で、人間の方がほぼおらず、亜人種逹がそれぞれの国家を築いているのだという。

西の大陸どころか、王都すらまともに出掛けたことのない俺にとって、聞くこと全てが新鮮だ。う~ん、やはり世界は広い。今後もし行く機会があったら、是非とも色々な場所に行ってみたいものだ。

「意外です。魅了師殿は、その…あまり外界を出歩かれない方なのですね。そのような方が我が国の為にと腰を上げて下さった事、運命の神への感謝が止みません」

「あ…はは」

腰を上げたというか。『本物』師匠が試験で丁度いいからって軽い感じで、『偽物』に案件を丸投げしたっていうか…。

「…ところで魅了師殿。無礼とは思いますが確認を。魅了師殿は人族…で宜しかったでしょうか?」

「え?うん、そうだけど」

何だろういきなり。…ひょっとして、この仮面と出で立ちのせいで人外と勘違いされていたのだろうか?
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