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第五章

黒い石

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姫と将軍が共にいるにならば、あの男はカルカンヌ王国が雇った者なのか?

グリフォンの命も後わずかで尽きかける、力も無いあの弱小国が舐めた真似を…!

「姫を連れて此方に向かっている…のであれば、輿入れに同行しているだけなのか…?ならば何故、我が国の火竜サラマンダーを使役した!あの男の…いや、カルカンヌの真の狙いは…!?」

思考を巡らしていた男の、揺らしていた肩が不意に止まる。
そして、険しかった顔を更に歪めさせ「グリフォンか」と呟いた。

あくまでも憶測でしかない。

だが、もしもこの国がグリフォンに『呪い』を施し、力を搾取しているのを知られたとしたら…。

ならば、依頼を受けた仮面の男が輿入れに乗じ、この国にやって来るのも説明がつく。

そう。この私の…『呪い』を壊す為に。

「――ッ!…くそっ!早急に対策を立てねば!!」

カルカンヌがこのように大胆な手を使って来るくらいだ。あの仮面の男…魅了師は、相当の手練れ。

いや、そもそも『魅了師』を堂々と名乗れるのだ。その時点で力があると示しているようなものだ。

『魅了師』の名は、それ程までに強く……そして重いものなのだから。

「落ち着け……。まず考えなくてはならないのは……」

火竜サラマンダーが掌握されているのは間違い無いし、ラシャド達も魅了に侵されている可能性も高い。それに後一刻もすれば、火竜サラマンダー達は砦の正門に到着する。仮面の男に使役された長率いる百以上の火竜サラマンダー達が。

万が一の為、火竜サラマンダーの炎を防ぐ水の結界を防壁に施してある。

とは言え、あの男に命じらた奴等が一斉に牙を剥けば、甚大な被害が…いや、下手をしたら王都に壊滅的な損害が出てしまうだろう。

半ばパニックに陥り掛けていた男だったが、握っている杖を視界に入れ、先端に埋め込まれている『ある物』を目にした途端、ニヤリと口端を歪めた。

「……いや。恐る事などない。私の手はグリフォンの力と…命をも握っているのだから

男の双眼に映っているのは、鈍い光を放つ黒い石だった。

視る者が見れば、それがただの飾りではないと分かる、禍々しいそれ。

たかが・・・火竜を使役しただけで勝ったつもりでいる、愚か者が。『かの者』を召喚し、幻獣に呪いを掛けたこの私に勝てる訳がない。『魅了師』が何程のものぞ!あの仮面の男など、ザビア共々隙をついて滅してくれるわ!そして…姫を我が手に…!」

男は一転して余裕の色を浮かべ、くくく、と喉奥で嗤う。
細められた双眼は、焦茶から金を含んだ茜色に変わっていたのだった。




◇◇◇◇




「うおー!速いなぁ!!」

『当たり前だ。爬虫類系の中でも、火竜コイツらは砂漠地帯に特化した魔獣だからな』

砂の上を、まるで滑るように走る火竜サラマンダーの上で興奮し、はしゃぐ俺にベルの呆れを含んだ声が続いた。しかも殆ど揺れない抜群の安定感で、「お前凄いなぁ!」って首を撫でてほめたら、嬉しそうに喉を鳴らす。うん、やっぱり可愛いぞ。

オンタリア国までは、この砂漠を火竜サラマンダーで駆ければ数時間で到着出来るらしい。成程、流石は砂漠特化型!

ちなみに。オーガやラミア達、砂漠の移動に強い亜人兵は火竜サラマンダーに乗ってない。頭数の兼ね合いもある為、一日掛けて国に戻るそうだ。

で、今現在。俺は将軍と姫の三人でボス火竜サラマンダーに騎乗し、先頭を爆走していた。広がるように後方を走っているのは、ラシャドと奴の親衛隊。さらに後方には主に人間種の兵達を乗せた火竜サラマンダー達が付いてきている訳なんだが。

……うん。ちょっと絵面的におかしいと自分でも思う。普通は迎えに来た国の人間が先導するもんだよな。けど、こうなったのは必然というか…。
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