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第五章
守りの石
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遡ること一時間前。俺とラシャドとの「ちょっとしたやり取り」の後、日没まで半日も無いと言う事で早々にオンタリオ国へ向かう事となったのだが、ボス火竜は今や俺の従魔な訳で...。
以前の(仮)主人だったラシャドを拒絶し、「さあ乗ってください」とばかりに俺の前に平伏したのだ。
造形はめっちゃ怪獣もどきだけど、グルグルと喉を鳴らして尾っぽを横振りするボス火竜。ついつい「可愛い奴めっ!」って鼻面撫でくり回してしまい、ベルに強烈な尾っぽビンタされてしまった。
「凄い…!火竜が、これ程人慣れる姿を見たのは初めてです」
なんて、ザビル将軍はキラキラした目で、ラシャド達は信じられないとばかりに引き攣った顔で俺を見てたっけ。
で、結局ボス火竜に俺と姫と将軍が乗り、ラシャドが副ボス火竜に、その他の兵達も後方からついてオンタリア国へ向かう…と言うことになったのだ。ちなみに侍女達は後方の一頭に乗っている。
それにしても、火竜達は馬みたいに鞍とか綱とかいう装備が何も付いてなかったのには困惑した。
どうやって乗るもんだろうか?と首を傾げる俺に、以前騎乗した事があるザビア将軍が「コレの前足から上がってください」と指示してくれたので従ってみると。
「おおっ!」
なんと、背中のヒダが一斉にペタリと寝て、クッションみたいになったのだ。しかも、首のすぐ後ろあたりに跨がれば、寝ていた前のヒダがピョコンと立ったではないか。何これ面白いっ!
「不安でしたら、それを掴んで手綱がわりにして下さい」
俺がワクワク興奮しているのが分かるのか、ザビア将軍はクスッと笑いながらシェンナ姫を横抱きにして、軽々ステップを踏むように上がってきた。
流石グリフォンの血脈。風の魔力で自身を軽量化して、将軍に至っては身体能力も上げてると見た。そんな彼らは俺のすぐ後ろの位置に腰を下ろす。尤も姫は横抱きのまま兄の膝に乗っていたけど。
ザビア将軍曰く、砂漠に限っては火竜以上に安定した乗り物はないのだそうで、成る程だから手綱とか鞍とかも必要ないんだなと納得する。
『ユキヤ、お前もそうだが、羽虫にも防御結界を張らせろ。そして長トカゲに後ろの連中を見張れと言っておけよ』
「ああ、勿論だ」
ラシャド達には、前もってベルバージョンの俺が釘を刺してある。移動中、ちょっとでも魔法の類いを発動しようものなら、火竜に振り落とされてしまうぞ…と。
だから下手な考えは起こさないとは思うが、これから数時間敵に背を向けるのだ。姫がいるから攻撃はされない…なんてお気楽思考は持ちあわせない。
『羽虫言うなー!』と怒るフゥを宥めながら結界を二重に張り、ボス火竜にも部下達に眼を光らせるよう「お願い」して今現在。ラシャド達の殺意こもった視線以外、移動は軽快かつ快適に進んでいるのだった。
「シェンナ姫、気分はどう?暑くない?」
「ええ、大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
後ろを振り返り尋ねた俺に、姫は首を横に振って唯一見える目を細める。砂漠を移動する際の日除けだろう。彼女と侍女達は、中東の女の人達が着ているみたいな真っ黒い布を被っている。
地球の砂漠地帯のように、乾燥し四十度を超える過酷さはないが、それでも暑い。ザビア将軍もだけど、ラシャド達も軍服がアラビア風で布を緩く巻き付け、直射日光を遮る仕様だ。
「魅了師殿こそ暑くはありませんか?脱水を起こしたら事です、この水を飲まれたら...」
逆にザビア将軍が心配して、携帯している水筒を差し出してくれる。確かに俺は全身黒づくめな上、砂漠の移動も初めてだもんな。
けど、心配ご無用。仮面がなんかいい仕事してくれてるみたいで、体温調節はばっちりなのだ。フゥも肩にとまりながら、冷たい風を送ってくれてるし。だからフゥの冷風を二人に送ろうかと聞いたら、また「大丈夫です」と返ってきた。
「…コリン様が…下さった『これ』がありますので」
そう言って大事そうに胸元から取り出したのは、白金のネックレス。チェーンに通されたヘッドは、アクアブルーの魔石が白金の蔦が絡んだデザインになっている。魔石は姫の小指の爪ほどの小ささだが、一眼見て貴重なものだとわかった。
『ほぅ…高濃度の水の魔力が込められているな』
「はい。とても大切な…私の宝物です」
ベルが鎌首を伸ばし、じっと見てから呟いた言葉を、俺の言葉として伝えた所、シェンナ姫はまた嬉しそうに目を細めた。
オンタリオとカルカンヌ、両国の間には険しい山と砂漠がある為、大人でも厳しい旅程になる。ましてや女子供ともなれば、相当どころではない過酷さが伴う。
でも、いつか自分の国に来て貰えたら、砂漠を渡る際に少しでも楽出来るように…と。2年前特使として訪れた際、てずから贈ってくれたのだそうだ。
それを着けていれば、灼熱から身を守ってくれるだけではなく、体内の温度調節や水分補給も賄える優れものらしい。そして、身に着けている者だけではなく、ザビア将軍みたく密接している者も恩恵を受ける事ができるとか。
ベルが(ちょっとだけ)感嘆するだけあり、コリン王太子が…シェンナ姫をどれだけ大切に思っていたのかが知れる逸品だ。
だからこそ、自分を無理やり嫁がせる為、カルカンヌに行った蛮行に彼が加担している…など考えられない。いや、考えたくないのだろう。
「………」
キュッとネックレスを握り、一瞬だけ悲しそうに瞳を揺らしたシェンナ姫に、俺も仮面の中で眉根を寄せた。
後方の一群をざっと見渡してから、俺は再び前方を見据える。そして、最終的な打ち合わせをグリフォンの居る部屋で話し合った時の事を回想した。
以前の(仮)主人だったラシャドを拒絶し、「さあ乗ってください」とばかりに俺の前に平伏したのだ。
造形はめっちゃ怪獣もどきだけど、グルグルと喉を鳴らして尾っぽを横振りするボス火竜。ついつい「可愛い奴めっ!」って鼻面撫でくり回してしまい、ベルに強烈な尾っぽビンタされてしまった。
「凄い…!火竜が、これ程人慣れる姿を見たのは初めてです」
なんて、ザビル将軍はキラキラした目で、ラシャド達は信じられないとばかりに引き攣った顔で俺を見てたっけ。
で、結局ボス火竜に俺と姫と将軍が乗り、ラシャドが副ボス火竜に、その他の兵達も後方からついてオンタリア国へ向かう…と言うことになったのだ。ちなみに侍女達は後方の一頭に乗っている。
それにしても、火竜達は馬みたいに鞍とか綱とかいう装備が何も付いてなかったのには困惑した。
どうやって乗るもんだろうか?と首を傾げる俺に、以前騎乗した事があるザビア将軍が「コレの前足から上がってください」と指示してくれたので従ってみると。
「おおっ!」
なんと、背中のヒダが一斉にペタリと寝て、クッションみたいになったのだ。しかも、首のすぐ後ろあたりに跨がれば、寝ていた前のヒダがピョコンと立ったではないか。何これ面白いっ!
「不安でしたら、それを掴んで手綱がわりにして下さい」
俺がワクワク興奮しているのが分かるのか、ザビア将軍はクスッと笑いながらシェンナ姫を横抱きにして、軽々ステップを踏むように上がってきた。
流石グリフォンの血脈。風の魔力で自身を軽量化して、将軍に至っては身体能力も上げてると見た。そんな彼らは俺のすぐ後ろの位置に腰を下ろす。尤も姫は横抱きのまま兄の膝に乗っていたけど。
ザビア将軍曰く、砂漠に限っては火竜以上に安定した乗り物はないのだそうで、成る程だから手綱とか鞍とかも必要ないんだなと納得する。
『ユキヤ、お前もそうだが、羽虫にも防御結界を張らせろ。そして長トカゲに後ろの連中を見張れと言っておけよ』
「ああ、勿論だ」
ラシャド達には、前もってベルバージョンの俺が釘を刺してある。移動中、ちょっとでも魔法の類いを発動しようものなら、火竜に振り落とされてしまうぞ…と。
だから下手な考えは起こさないとは思うが、これから数時間敵に背を向けるのだ。姫がいるから攻撃はされない…なんてお気楽思考は持ちあわせない。
『羽虫言うなー!』と怒るフゥを宥めながら結界を二重に張り、ボス火竜にも部下達に眼を光らせるよう「お願い」して今現在。ラシャド達の殺意こもった視線以外、移動は軽快かつ快適に進んでいるのだった。
「シェンナ姫、気分はどう?暑くない?」
「ええ、大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
後ろを振り返り尋ねた俺に、姫は首を横に振って唯一見える目を細める。砂漠を移動する際の日除けだろう。彼女と侍女達は、中東の女の人達が着ているみたいな真っ黒い布を被っている。
地球の砂漠地帯のように、乾燥し四十度を超える過酷さはないが、それでも暑い。ザビア将軍もだけど、ラシャド達も軍服がアラビア風で布を緩く巻き付け、直射日光を遮る仕様だ。
「魅了師殿こそ暑くはありませんか?脱水を起こしたら事です、この水を飲まれたら...」
逆にザビア将軍が心配して、携帯している水筒を差し出してくれる。確かに俺は全身黒づくめな上、砂漠の移動も初めてだもんな。
けど、心配ご無用。仮面がなんかいい仕事してくれてるみたいで、体温調節はばっちりなのだ。フゥも肩にとまりながら、冷たい風を送ってくれてるし。だからフゥの冷風を二人に送ろうかと聞いたら、また「大丈夫です」と返ってきた。
「…コリン様が…下さった『これ』がありますので」
そう言って大事そうに胸元から取り出したのは、白金のネックレス。チェーンに通されたヘッドは、アクアブルーの魔石が白金の蔦が絡んだデザインになっている。魔石は姫の小指の爪ほどの小ささだが、一眼見て貴重なものだとわかった。
『ほぅ…高濃度の水の魔力が込められているな』
「はい。とても大切な…私の宝物です」
ベルが鎌首を伸ばし、じっと見てから呟いた言葉を、俺の言葉として伝えた所、シェンナ姫はまた嬉しそうに目を細めた。
オンタリオとカルカンヌ、両国の間には険しい山と砂漠がある為、大人でも厳しい旅程になる。ましてや女子供ともなれば、相当どころではない過酷さが伴う。
でも、いつか自分の国に来て貰えたら、砂漠を渡る際に少しでも楽出来るように…と。2年前特使として訪れた際、てずから贈ってくれたのだそうだ。
それを着けていれば、灼熱から身を守ってくれるだけではなく、体内の温度調節や水分補給も賄える優れものらしい。そして、身に着けている者だけではなく、ザビア将軍みたく密接している者も恩恵を受ける事ができるとか。
ベルが(ちょっとだけ)感嘆するだけあり、コリン王太子が…シェンナ姫をどれだけ大切に思っていたのかが知れる逸品だ。
だからこそ、自分を無理やり嫁がせる為、カルカンヌに行った蛮行に彼が加担している…など考えられない。いや、考えたくないのだろう。
「………」
キュッとネックレスを握り、一瞬だけ悲しそうに瞳を揺らしたシェンナ姫に、俺も仮面の中で眉根を寄せた。
後方の一群をざっと見渡してから、俺は再び前方を見据える。そして、最終的な打ち合わせをグリフォンの居る部屋で話し合った時の事を回想した。
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