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第五章
元凶
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『じゃあ、ザビア将軍。特使達の前に現れた後のやり取りは俺(と、ベル)に任せて貰って良いね?』
『はい、勿論です!全て魅了師殿にお任せ致します』
『シェンナ姫は...俺に『魅了』を掛けられているフリしなきゃだけど、大丈夫かな?』
『ふふっ、はい。魅了師様は素敵なお方ですから、全く問題ありません』
『そ…そう?ありがとね』
二人の了解をとってから、俺はシェンナ姫の側で横たわるグリフォンに視線を向けた。
相変わらず呪いが鎖のように絡み、蠢いているのが胸糞悪い。
グリフォンは姫や将軍に心配をかけたくないんだろう。気丈に振る舞っているけど、力を吸われ心身を蝕むソレに疲弊しているのが気配で分かった。
特使達が早々にやって来たのは、考えてみれば幸運だった。猶予もそれ程残ってはいないだろうから、一刻も早くオンタリアに赴きグリフォンの呪いを解かなければ。
『本当なら、この『呪い』を此処で解除…いや、消滅できれば良かったんだけど...』
腕に巻きついてるベルをチラッと見るが、興味なさそうに閉じていた眼を片方だけ開け、チロリと舌を出した。
『なら、俺を召喚する事だな。だが、あのクソッたれエルフの試験とやらはまだ続行中なんじゃねぇのか?』
『う、う~ん…。でも、ウォレンさんと国王の『血の誓約』は終わってるんだよなぁ。これって、俺の独断で動いちゃってるからノーカン…なのか?』
『まあ俺にはどうでもいいが、やるならお前の純潔で手を打とう』
『ぼったくり過ぎだろ?!ってか俺は女じゃねぇ!!』
ちなみにこの会話は脳内で行われている。下手な事を口走って、本物の『黒の魅了師』じゃないって身バレするのは不味いからな。
『だがなユキヤ。この間言ったように、グリフォンの呪いは寄生型で、『核』はこれを施した奴の手元にある。貼りついたコレを壊すのは容易いが、その場合反動が起きる可能性が高い』
『?それって…』
『繋がりを無理矢理切断する際の弊害だ。呪いを受けて直ぐならば問題なかったろうが、ここまで弱ったこいつに負荷を与えれば…最悪即死するぞ』
『!……じゃあやっぱり、元を壊さないと駄目か』
『ああ。それならば問題ない。吸い取られていた力が持ち主に戻るだけだからな』
仮に俺の純潔...いや貞操?を犠牲にしたとして、グリフォンが儚くなったら本末転倒だ。手っ取り早くとはいかない現実を突き付けられ、思わずため息がもれそうになる。
だが、そんな俺の頬にベルの尻尾がヒットした。
『いてぇ!!』
『しゃんとしやがれ!落ち込むより、手っ取り早く呪いを掛けた野郎を特定すんのが先だろうが!』
ベルにシャーッと牙を剥き出し怒鳴られた俺は、そうだったと気持ちを切り替える。そして、俺達の無言の見つめ合い(後ビンタ)に目を丸くしてるザビア将軍に問いかけた。
『ザビア将軍。グリフォンが呪いを受け、体調を崩したのは去年の収穫祭後ですよね。そして、招待された中にオンタリオからの来賓がいた』
『はい、その通りです』
『幻獣であり霊力も備わったグリフォンに、遠隔から寄生系の呪いを掛けるのは不可能でしょう。術者か、もしくは術者の媒介者が接触しない限り。…誰が来賓としてオンタリオ国から来ていましたか?』
国王と姫、グリフォンの警護で側にいたザビア将軍だから、各国からの来賓客を把握している。王太子は絶対来ていた筈だけど、誰が彼に随行していたのかだ。
『それは…。去年に続き、王太子殿下が。後は近衞騎士達と、急遽参加を決められた宰相でしょうか』
以前の宰相はまだ四十代と若く、数年前に王太子が初めて訪れた際にも同行していたそうだ。その人は病を患ってしまい、急遽代替わりをしたのだと言う。
『名は確か…バティル・ハリエだったと思います』
ふむふむ。
一応外見を聞いてみた所、『文官よりの細身な体躯、高身長で顔はやや神経質そうだが整っていて、柔和な微笑みを常に浮かべていた』との事だった。
『王太子と共に来られたのは、国王である父上と巫女姫であるシェンナ、そして我が国の聖獣様に御挨拶を申し上げたかったからだそうです。前任の方より更にお若く見えましたが、堂々とした振る舞いでしたよ』
『へぇー。有能だから大抜擢されたって所かな?』
聞くだけだったら、まだ年若いがやり手の宰相と言うイメージだ。けれど、『ただ……』とザビア将軍が躊躇いがちに続けた言葉は興味深いものだった。
『コリン王太子殿下は、彼に信を置いている様に見受けられていたので…穿った私の見解なのでしょうが。私には、彼が見た目ほど好人物とは感じられ無かったのです』
『それは、どう言った所がですか?』
『どう…と、上手くは言えないのです。何か、直感的に微かな嫌悪感…を感じて』
自信なさげに眉を下げる将軍だが、本能が感じた印象って大事だと俺は思う。
実際グリフォンは呪いを掛けられた訳だし、元凶がオンタリオから来た勅使だったなら、将軍の感知は正しかったに違いない。
『はい、勿論です!全て魅了師殿にお任せ致します』
『シェンナ姫は...俺に『魅了』を掛けられているフリしなきゃだけど、大丈夫かな?』
『ふふっ、はい。魅了師様は素敵なお方ですから、全く問題ありません』
『そ…そう?ありがとね』
二人の了解をとってから、俺はシェンナ姫の側で横たわるグリフォンに視線を向けた。
相変わらず呪いが鎖のように絡み、蠢いているのが胸糞悪い。
グリフォンは姫や将軍に心配をかけたくないんだろう。気丈に振る舞っているけど、力を吸われ心身を蝕むソレに疲弊しているのが気配で分かった。
特使達が早々にやって来たのは、考えてみれば幸運だった。猶予もそれ程残ってはいないだろうから、一刻も早くオンタリアに赴きグリフォンの呪いを解かなければ。
『本当なら、この『呪い』を此処で解除…いや、消滅できれば良かったんだけど...』
腕に巻きついてるベルをチラッと見るが、興味なさそうに閉じていた眼を片方だけ開け、チロリと舌を出した。
『なら、俺を召喚する事だな。だが、あのクソッたれエルフの試験とやらはまだ続行中なんじゃねぇのか?』
『う、う~ん…。でも、ウォレンさんと国王の『血の誓約』は終わってるんだよなぁ。これって、俺の独断で動いちゃってるからノーカン…なのか?』
『まあ俺にはどうでもいいが、やるならお前の純潔で手を打とう』
『ぼったくり過ぎだろ?!ってか俺は女じゃねぇ!!』
ちなみにこの会話は脳内で行われている。下手な事を口走って、本物の『黒の魅了師』じゃないって身バレするのは不味いからな。
『だがなユキヤ。この間言ったように、グリフォンの呪いは寄生型で、『核』はこれを施した奴の手元にある。貼りついたコレを壊すのは容易いが、その場合反動が起きる可能性が高い』
『?それって…』
『繋がりを無理矢理切断する際の弊害だ。呪いを受けて直ぐならば問題なかったろうが、ここまで弱ったこいつに負荷を与えれば…最悪即死するぞ』
『!……じゃあやっぱり、元を壊さないと駄目か』
『ああ。それならば問題ない。吸い取られていた力が持ち主に戻るだけだからな』
仮に俺の純潔...いや貞操?を犠牲にしたとして、グリフォンが儚くなったら本末転倒だ。手っ取り早くとはいかない現実を突き付けられ、思わずため息がもれそうになる。
だが、そんな俺の頬にベルの尻尾がヒットした。
『いてぇ!!』
『しゃんとしやがれ!落ち込むより、手っ取り早く呪いを掛けた野郎を特定すんのが先だろうが!』
ベルにシャーッと牙を剥き出し怒鳴られた俺は、そうだったと気持ちを切り替える。そして、俺達の無言の見つめ合い(後ビンタ)に目を丸くしてるザビア将軍に問いかけた。
『ザビア将軍。グリフォンが呪いを受け、体調を崩したのは去年の収穫祭後ですよね。そして、招待された中にオンタリオからの来賓がいた』
『はい、その通りです』
『幻獣であり霊力も備わったグリフォンに、遠隔から寄生系の呪いを掛けるのは不可能でしょう。術者か、もしくは術者の媒介者が接触しない限り。…誰が来賓としてオンタリオ国から来ていましたか?』
国王と姫、グリフォンの警護で側にいたザビア将軍だから、各国からの来賓客を把握している。王太子は絶対来ていた筈だけど、誰が彼に随行していたのかだ。
『それは…。去年に続き、王太子殿下が。後は近衞騎士達と、急遽参加を決められた宰相でしょうか』
以前の宰相はまだ四十代と若く、数年前に王太子が初めて訪れた際にも同行していたそうだ。その人は病を患ってしまい、急遽代替わりをしたのだと言う。
『名は確か…バティル・ハリエだったと思います』
ふむふむ。
一応外見を聞いてみた所、『文官よりの細身な体躯、高身長で顔はやや神経質そうだが整っていて、柔和な微笑みを常に浮かべていた』との事だった。
『王太子と共に来られたのは、国王である父上と巫女姫であるシェンナ、そして我が国の聖獣様に御挨拶を申し上げたかったからだそうです。前任の方より更にお若く見えましたが、堂々とした振る舞いでしたよ』
『へぇー。有能だから大抜擢されたって所かな?』
聞くだけだったら、まだ年若いがやり手の宰相と言うイメージだ。けれど、『ただ……』とザビア将軍が躊躇いがちに続けた言葉は興味深いものだった。
『コリン王太子殿下は、彼に信を置いている様に見受けられていたので…穿った私の見解なのでしょうが。私には、彼が見た目ほど好人物とは感じられ無かったのです』
『それは、どう言った所がですか?』
『どう…と、上手くは言えないのです。何か、直感的に微かな嫌悪感…を感じて』
自信なさげに眉を下げる将軍だが、本能が感じた印象って大事だと俺は思う。
実際グリフォンは呪いを掛けられた訳だし、元凶がオンタリオから来た勅使だったなら、将軍の感知は正しかったに違いない。
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