黒の魅了師は最強悪魔を使役する

暁 晴海

文字の大きさ
150 / 194
第五章

護りの力

しおりを挟む
「魅了師殿?」

「ごめんね二人とも。後もう少しでオンタリオに到着するけど、その前に了解して欲しいことがある」

真剣な口調の俺に、二人はきょとんとした表情(シェンナ姫はわからないけど)で首を傾げた。さすが兄妹、リアクションがそっくり。

「俺の『魅了』にかかったフリをしてくれって、以前お願いしたよね。だけど、オンタリオの宰相が『魅了』を使える使役者と分かって事情が変わった」

このまま国に入ったら、二人が相手方に縛られる危険性が出てきたのだ。もちろん、俺が側にいれば例え『魅了』にかかっても破る事はできるだろう。

けれど、もし何らかの手段で彼らと引き離されたら?そして、相手がどんな切り札を持っているか分からない中、無防備な彼らを人質に取られたら?

例えベルを召喚しても、それか俺が仮面を取って全力で『魅了』を駆使しようとも、相手の出方が早ければ最悪グリフォンの命は刈り取られ、全てが水の泡となりかねない。

「だから、これは一つの保険としてなんだけど….。君達に『護り』を掛けさせてもらいたいんだ」

「….『護り』….?『魅了』ではなくて、ですか?」

コクリと頷き、俺はザビア将軍を真っ直ぐ見つめた。

「うん。俺、言ったよね。人の心は自由であるべきだって。だから俺の力に『護る』と言う願いを込めて、二人の意識に防御結界をはってみようと思うんだ」

「魅了師殿….」

「正直に言うと、成功するかは分からない。ぶっつけ本番になるけど...良いかな?」

すると、彼の頬が薄らと赤くなって目まで潤んできた。あれ?まずい、俺また無自覚に力使っちゃってる!?

「...分りました、如何様にもなさってください」

「ええ。私も兄も、魅了師様を信じています」

二人とも迷いも見せず、俺を信じてくれると力強く頷いてくれる。少しだけ心配だったけど、了承を貰えてほっとしてからすぐに気持ちを切り替えた。

「ありがとう。それじゃあ、やるよ?」

先ずは目を合わせたままなザビア将軍だ。意識を集中させ、意思を双眼に込めて見つめる。『邪悪な力を排除できますように』と願いながら。

「…どう、かな。気持ち悪いとか、変な感じとか無い…?」

「いえ..いいえ。優しい温かさが染み込んでくるようです…」

顔が更に赤らみ、恍惚な表情となっていくザビア将軍に「やば!魅了しちゃったのかな?」と心配になって尋ねてみると、そうじゃない…ようだけど…。

『…チッ!鼻の下伸ばしやがってクソガキが』

首に巻きついてるベルが、忌々しいとばかりに舌打ち付きの悪態を吐いてる。おい、誰が鼻の下伸ばしてるんだ…って、ザビア将軍睨みつけてるよこの黒ヘビ。

『ユキヤ、お前の力は充分浸透してる。さっさと止めろ!』

「あ、本当?」

良かった、上手くいったみたいだ。ザビア将軍が「魅了」にかかってないかベルに訊いてみたけど、それも大丈夫らしい。にわかの防御だけど、成功すると良いな。

『クソが、余計な従僕つくんじゃねぇよ!』

続けてシェンナ姫に『護り』を付与しようとしたんだけど、ベルの悪態が五月蝿くて集中できない。全く、いきなりカリカリして何なんだよ!さっさとやれって言ったのベルじゃん!

それでも何とか『護り』を施せたみたいで、ベルのOKを貰い俺はほっと息を吐く。二回目だったから力のコントロールが向上したのか、ザビア将軍とは違ってシェンナ姫は「心地よいです」と少し目元を染めるのみだった。

二人に説明した通り、効果あるかどうかは未知数だけど、やれるものは何でもやっておいて損はない。

因みにこの試みだけど、それは十分ほど前に遡る。

『だったら『護符』としてお前の力を付与してみろ』

姫達に説明した懸念。それを俺がベルに話した時、提案されたのだ。

『本来なら、力の制御や分岐する技能を鍛えて初めて使えるものだが…。複雑ではないし、試す価値はある』

ベル曰く、俺は超特大の貴石…の原石らしい。磨かなければ宝の持ち腐れ的な。

『魅了』は文字通り「人の心を魅せて虜にする」に特化した力だけど、それだけじゃない。『縛り』って相手の力を封印する事も出来るし、相手の力を防御するのも可能。つまり使い道は無限にあるんだそうだ。

俺がやろうとする試みもだけど、火竜サラマンダーへ使った『力』も比較的単純かつ大雑把な部類に入るらしい。逆に、願ったりするだけじゃダメな複雑なもの…。師匠予定ウォレンさんと同じ『縛り』をやれと言われても、今の俺にはどうやって良いかが分からないから無理。

餅には餅屋。つまり俺にはウォレンさんの様な、俺の力を正しく導く特級クラスの魅了師が必須なんだと、ベルに改めて言われた。

『じゃなけりゃ、俺がここまでクソエルフにコケにされて黙ってる訳ねえだろ!』

『ベル…』

心底忌々しそうに吐き捨てたベルに、何だか胸がむず痒くなった。こいつは残虐非道と謳われてる地獄の王の一柱で、俺の魂と体を狙ってる大悪魔。だから警戒を常にしてなきゃならないのに、何だかんだ言って俺を助けてくれるもんだから、うっかり絆されかけてしまう…。

『制御も出来ねえで誰彼構わずたらし込み、挙句の果てにソロモンもどきになったら目も当てられねぇ!お前は俺だけの獲物だってのに!』

俺の感動を返してくれ。何だよ誰彼構わずたらし込むソロモンもどきって!?

『面倒臭い慈善活動なんぞ、さっさと片付けるぞ。それで約束した『報酬』も速攻で支払って貰うからな』

あ、そう。結構前向きで手助けしてくれてるの、俺が提示したソレの為なのね。…前言ちょっと撤回。やっぱりコイツ、悪魔だわ。

「魅了師殿。オンタリオの砦が見えてきました」

「!」

やや緊張したザビア将軍の声に、俺は前に向き直って眼を眇める。砂粒ほどの小ささではあるが、確かに自然物ではない何かが聳え立っているのが見えた。

『さあ、いよいよ本番だ。気を抜くなよユキヤ』

「….ああ」

ベルの声に静かに応え、俺は段々と明らかになっていく砦を見据えながら、大きく深呼吸したのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結、恋愛ルート、トマといっしょに里帰り編、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

悪役令息(Ω)に転生したので、破滅を避けてスローライフを目指します。だけどなぜか最強騎士団長(α)の運命の番に認定され、溺愛ルートに突入!

水凪しおん
BL
貧乏男爵家の三男リヒトには秘密があった。 それは、自分が乙女ゲームの「悪役令息」であり、現代日本から転生してきたという記憶だ。 家は没落寸前、自身の立場は断罪エンドへまっしぐら。 そんな破滅フラグを回避するため、前世の知識を活かして領地改革に奮闘するリヒトだったが、彼が生まれ持った「Ω」という性は、否応なく運命の渦へと彼を巻き込んでいく。 ある夜会で出会ったのは、氷のように冷徹で、王国最強と謳われる騎士団長のカイ。 誰もが恐れるαの彼に、なぜかリヒトは興味を持たれてしまう。 「関わってはいけない」――そう思えば思うほど、抗いがたいフェロモンと、カイの不器用な優しさがリヒトの心を揺さぶる。 これは、運命に翻弄される悪役令息が、最強騎士団長の激重な愛に包まれ、やがて国をも動かす存在へと成り上がっていく、甘くて刺激的な溺愛ラブストーリー。

【完結】悪役令嬢モノのバカ王子に転生してしまったんだが、なぜかヒーローがイチャラブを求めてくる

路地裏乃猫
BL
ひょんなことから悪役令嬢モノと思しき異世界に転生した〝俺〟。それも、よりにもよって破滅が確定した〝バカ王子〟にだと?説明しよう。ここで言うバカ王子とは、いわゆる悪役令嬢モノで冒頭から理不尽な婚約破棄を主人公に告げ、最後はざまぁ要素によって何やかんやと破滅させられる例のアンポンタンのことであり――とにかく、俺はこの異世界でそのバカ王子として生き延びにゃならんのだ。つーわけで、脱☆バカ王子!を目指し、真っ当な王子としての道を歩き始めた俺だが、そんな俺になぜか、この世界ではヒロインとイチャコラをキメるはずのヒーローがぐいぐい迫ってくる!一方、俺の命を狙う謎の暗殺集団!果たして俺は、この破滅ルート満載の世界で生き延びることができるのか? いや、その前に……何だって悪役令嬢モノの世界でバカ王子の俺がヒーローに惚れられてんだ? 2025年10月に全面改稿を行ないました。 2025年10月28日・BLランキング35位ありがとうございます。 2025年10月29日・BLランキング27位ありがとうございます。 2025年10月30日・BLランキング15位ありがとうございます。 2025年11月1日 ・BLランキング13位ありがとうございます。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

【完結】婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。

フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」  可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。  だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。 ◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。 ◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。

【本編完結】死に戻りに疲れた美貌の傾国王子、生存ルートを模索する

とうこ
BL
その美しさで知られた母に似て美貌の第三王子ツェーレンは、王弟に嫁いだ隣国で不貞を疑われ哀れ極刑に……と思ったら逆行!? しかもまだ夫選びの前。訳が分からないが、同じ道は絶対に御免だ。 「隣国以外でお願いします!」 死を回避する為に選んだ先々でもバラエティ豊かにkillされ続け、巻き戻り続けるツェーレン。これが最後と十二回目の夫となったのは、有名特殊な一族の三男、天才魔術師アレスター。 彼は婚姻を拒絶するが、ツェーレンが呪いを受けていると言い解呪を約束する。 いじられ体質の情けない末っ子天才魔術師×素直前向きな呪われ美形王子。 転移日本人を祖に持つグレイシア三兄弟、三男アレスターの物語。 小説家になろう様にも掲載しております。  ※本編完結。ぼちぼち番外編を投稿していきます。

処理中です...