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第六章

オンタリア国に到着

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「圧巻…!」

つい口から溢れてしまう位に、全貌を表したオンタリオ国の砦...というより要塞だ。近づく毎に威圧感が増していくというか…。

見た目は中東に点在する遺跡の砦だけど、砂色ではなく黒っぽくて所々白が混じった外壁は更に高く、そして長く聳え立っている。表面はゴツゴツしてるけど...石垣のようでいて、継ぎ目がなさそうだ。

起伏があれば砦の向こうを少しは覗けたかもしれないけど、生憎平坦な砂漠では無理な話だな。

それにしても…。

「魔法で構築しているのかな…?」

何が、とは言わず独りごちた俺の言葉を拾い、砦をじっと見ていたベルが答えてくれる。

『砦の材質は..深成石だな。土魔法で地下から引き上げ、年数をかけ拡張したんだろう。硬度も高めてある上、水の結界も施されてる。大方火竜サラマンダー対策って所か』

「へぇ、凄いな!」

これだけの規模の砦を、一気にではなくとも構成していったのか。どうやらオンタリオ国には優秀な魔導師が大勢いるみたいだ。と、言う事は、俺にとってはありがたくない事実なんだけど。

「...解せません。あり得るのか、こんな事が...」

ザビア将軍の困惑を滲ませた呟きが耳に届く。何がと聞いてみれば、俺がすごいと言った砦だった。

「三年…いや、四年程前に訪れた時にも砦はありましたが、今とは全く違っていて…」

何でも、砂漠地帯では建築物の殆どが土魔法を応用し、砂と石灰石を固めた物を用いて作られているらしい。

ふむ、煉瓦の窯で焼く工程は無いんだ。だったら火竜サラマンダーと同じ砂色になるよなぁ。

「ベルが言うには、あの砦は地下に埋まってた石を魔法で引き上げて造られたって」

「!?その様に高度な魔法を扱える者など、オンタリオ国が保有したなど聞いておりません!それに...この規模をたった数年で成すのなら、少なくとも数十人は必要かと」

ザビア将軍の言う通りだ。自慢じゃないけど、俺は相当な魔力を持っている。けど、地下深層から深成石を引っ張り出して砦を、しかもたった数年で造るなんて無理過ぎる。

しかもだ。ザビア将軍には分からないだろうけど、その上強化魔法に水の防御魔法が掛かってる。それらを維持するのだって、属性違いの魔術師が必要だよな。けれど…。

人間・・であれば無理だろう』

ベルの一言が物語っている。そう、つまり人外だったら可能って事だ。それも高位の『何か』ならば。益々ベルが匂わせていた「諸悪の権化」が現実味を帯びてきた気がする。

『さて…。シェンナ姫がいる限り、いきなり物理や魔法で攻撃はされないだろうけど、油断は禁物だよな』

ボス火竜サラマンダーは、勝手知ったる帰還場所である砦の正門へ真っ直ぐ走っていく。まず砦の上から攻撃される可能性を考え、防御を更に強化しつつ見上げるが…。

『…ん?兵士の姿が見えない...?』

『マスター!誰も居ないし隠れてる気配もないよー』

先に飛んで砦の様子を見てきたフゥが、無人であると報告してくれる。ちなみに張られた結界で、砦の内には入れなかったみたいだ。

減速していた火竜サラマンダー達は、頑丈そうな鉄の門の前で完全に停止した。関所とかでもそうだけど、普通国の要所には兵士達が配置されている筈なんだよな。けど、驚く事に正門の前にも居ない。

「お兄様…」

眉根を寄せ門を睨みつけるザビア将軍に、シェンナ姫も不安そうに身を寄せている。歓迎されないだろうし、攻撃も視野に入れてたんだけど、こうくるとは思わなかった。これって、俺たちを締め出すつもりなのだろうか。

『うーん...どうするべきなのか。中へ呼びかけるか?』

日没もあと少しで、気温も大分落ちてきている。姫や侍女達の体力を考えると、ここでじっと待っている訳にもいかない。

背後を振り返りラシャド達の様子を伺うと、彼らも困惑...いや緊張しているようだ。

「…『黒の魅了師』。我々に、火竜サラマンダーから降りる許可を貰えるか」

俺となるべく目を合わせないようにしながら、ラシャドはすごく悔しそうに口を開いた。火竜サラマンダーは俺の命令しか従わなくなってる。下手な行動を取れば、敵対行為と看做して攻撃されかねないからな。

「みんな、ラシャド達を降ろしてやってくれ」

了解の意味で火竜サラマンダー達に声をかけると、ボス火竜サラマンダー以外ゆっくりと地面に平伏した。無言でラシャドと側近の部下達は彼らの背から降り立つ。そして顔をこわばらせながら門へと近づいていった。

「…王宮近衛師団長、ラシャドである!カルカンヌ王国より輿入れされるシェンナ姫をお連れした。開門を…!」

張り上げた声にも緊張が隠しきれていないけど、無理もないか。

宰相バティルは、使役していた火竜サラマンダー魔鳥スラッシュ達を奪った『招かざる客』がいる事を知っている。そいつを連れてたら、自分たちも寝返った、もしくは魅了されたと判断されててもおかしくない。

『どう出るかな?やっぱり開けないか…?』

待つ事数分。静まり返った空気が不意に震え、鉄門が軋んだ音を立ててゆっくりと開き始めたのだった。
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