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第六章
黒の祝福
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『お話なんぞしたくねぇよ!不快はお前もだ!イラつく奴だな!』
この悪魔、一々芝居がかった口調と態度が癇に障る。
初対面でのベルも大概だったけど、オレ様色全開で余計な道化も無かっただけ、こいつに比べたら何倍もマシだ。
そもそも奴の攻撃が貫通したとはいえ、防御結界は健在なのだ。白の精霊と俺の力に満ちた空間は、敵の排除とダメージの緩和が成される筈。なのに、未だに緩和されない状況がどうしても解せなかった。
兎に角、俺は喉にへばりつく不快極まりない『呪い』を排除しようと、ありったけの魔力を手に集めようとした。
『っ!!』
だが、途端に喉を炙る痛みが強まり息が詰まってしまう。
フゥとコノハが「マスター!」と焦り、自分たちの魔力を俺に流そうとするも、あえなく弾かれ逆に余波を浴びて悲鳴をあげた。
『くそっ!如何して…!?』
「フフッ、貴方と可愛らしい羽虫の抵抗はとても好ましい。ですが、先程も言った様に私の『呪い』を壊すのは不可能ですよ?何故なら…」
俺を見据えながら、ラウルは舞台役者の如く大袈裟に両手を翳す。
無意識に奴の動きを追い、攻撃魔法を放つのかと身構えた俺の目がふと天井を捉え、驚きに見開かれた。
『なっ!!』
ドーム型で、なんの装飾も施されていなかった天井が…消え失せている。
代わりに現れたのは、橙色に染まった巨大な月だったのだ。
俺に習い見上げたザビア将軍も、そして群衆も一様に響めく。俺達の、いや俺の反応はこの悪魔のお気に召したらしく、人外の美貌に喜色を滲ませていた。
「貴方もご存知でしょう?我ら魔に連なる者達にとって、満月は力を増幅させる糧。更に今宵は『黒の祝福』でもあるのです!フフフッ、なんという僥倖か!」
「『黒の祝福』…?』
今夜は満月だとベルは言っていた。けれど、そんな言葉は聞いていない。
「おや、ご存知ありませんか?…ああ!これは失礼。人の世では呼び名が違いましたねぇ。大まかに言えば、月と太陽とこの惑星が重なる事により起こる現象。所謂『皆既月食』ですよ」
『!!』
「どうやらその様子だと、知っているようですねぇ。『満月』と『皆既月食』が魔の者にどれ程の恵みを与えるか」
知っているもなにも、満月と新月の話を聞いた時、ベハティ母さんに念を押されていたのだ。
満月と皆既月食の最悪な組み合わせ。そしてその日は絶対、高位の魔物や悪魔に邂逅しないように外出を控えろ……と。
その時は引き篭っていたから、万が一でも起きないよと笑って聞き流していた。
その万が一が今夜起こってしまうなんて、此奴には僥倖で俺には最悪のタイミングだった。
『………』
俺は自然と、シェンナ姫に抱えられている黒蛇を見る。声は届いているだろうに、魔毒の影響かいまだに何も言わぬままだった。
どっちみち避けられなかったけど、でも何故ベルは教えてくれなかった?注意発起されていれば、もっと警戒を強めていたのに。どうして…!
「…ああ、貴方の使い魔を責めないであげて下さい?貴方と邂逅したあの時から、ソレの感知を阻害させて頂きました。フフフ、私の方がほんの少しより力が強かったのでねぇ」
ーーそうか。ベルは俺に言わなかったんじゃない。コイツの所為だったんだ…。
うっそりと笑う中世の陶器人形然な悪魔の言葉を聞き、俺は心の何処かで安堵を感じていた。
ベルは、何か含みがあって俺に情報を隠していたのではないか。そう考えたと同時に、信じたくないと思っている自分がいるのに戸惑った。毒にあてられ弱ってる姿を見た時の焦燥感も、元凶である悪魔への怒りも。
認めたくないけど、俺の中でベルの…ベリアルという悪魔の存在が、拠り所になりつつある…のかもしれない。
『…許せない。こいつ、この悪魔…!!』
安堵感は憤怒に取って代わる。人をコケにするのも、大概にしやがれ!!
手に集めていた魔力が双眼に流れ込んでくるのを感じながら、俺は怒りのままに王座でほくそ笑むラウルを強く、強く睨みつけた。
「っ…!あぁ…良い、イイですねぇ…!魂の美しさは勿論ですが、私を屈服させようとする貴方の『目』!阻んでも尚、魂を焼かれそうな痛みを感じて…堪らなくゾクゾクしますよっ」
だが、ラウルは俺の『目』を避けようともせず真正面から受け止めた。そればかりか、青白かった頬を朱に染め恍惚の表情を浮かべて、うっとりと目を潤ませている。
ダメージは多少あるようだが、やはり『黒の祝福』が奴の能力を底上げしているのだろう。むしろ攻撃を受け、気色悪く喜んでいる姿に怒りが湧き上がるも、俺は行き詰まった現状に顔を歪めた。
それにしてもこの悪魔。きっとアレだ。所謂『変態』というヤツに違いない。
『そういえば……。以前邂逅したあの白の精霊も、なんとなくアレだったな……』
……黒も白も、精霊は変態が多いのだろうか……?
そんな事をふと考えた時、頭の片隅で蛇の威嚇音が小さく聞こえた……気がした。
この悪魔、一々芝居がかった口調と態度が癇に障る。
初対面でのベルも大概だったけど、オレ様色全開で余計な道化も無かっただけ、こいつに比べたら何倍もマシだ。
そもそも奴の攻撃が貫通したとはいえ、防御結界は健在なのだ。白の精霊と俺の力に満ちた空間は、敵の排除とダメージの緩和が成される筈。なのに、未だに緩和されない状況がどうしても解せなかった。
兎に角、俺は喉にへばりつく不快極まりない『呪い』を排除しようと、ありったけの魔力を手に集めようとした。
『っ!!』
だが、途端に喉を炙る痛みが強まり息が詰まってしまう。
フゥとコノハが「マスター!」と焦り、自分たちの魔力を俺に流そうとするも、あえなく弾かれ逆に余波を浴びて悲鳴をあげた。
『くそっ!如何して…!?』
「フフッ、貴方と可愛らしい羽虫の抵抗はとても好ましい。ですが、先程も言った様に私の『呪い』を壊すのは不可能ですよ?何故なら…」
俺を見据えながら、ラウルは舞台役者の如く大袈裟に両手を翳す。
無意識に奴の動きを追い、攻撃魔法を放つのかと身構えた俺の目がふと天井を捉え、驚きに見開かれた。
『なっ!!』
ドーム型で、なんの装飾も施されていなかった天井が…消え失せている。
代わりに現れたのは、橙色に染まった巨大な月だったのだ。
俺に習い見上げたザビア将軍も、そして群衆も一様に響めく。俺達の、いや俺の反応はこの悪魔のお気に召したらしく、人外の美貌に喜色を滲ませていた。
「貴方もご存知でしょう?我ら魔に連なる者達にとって、満月は力を増幅させる糧。更に今宵は『黒の祝福』でもあるのです!フフフッ、なんという僥倖か!」
「『黒の祝福』…?』
今夜は満月だとベルは言っていた。けれど、そんな言葉は聞いていない。
「おや、ご存知ありませんか?…ああ!これは失礼。人の世では呼び名が違いましたねぇ。大まかに言えば、月と太陽とこの惑星が重なる事により起こる現象。所謂『皆既月食』ですよ」
『!!』
「どうやらその様子だと、知っているようですねぇ。『満月』と『皆既月食』が魔の者にどれ程の恵みを与えるか」
知っているもなにも、満月と新月の話を聞いた時、ベハティ母さんに念を押されていたのだ。
満月と皆既月食の最悪な組み合わせ。そしてその日は絶対、高位の魔物や悪魔に邂逅しないように外出を控えろ……と。
その時は引き篭っていたから、万が一でも起きないよと笑って聞き流していた。
その万が一が今夜起こってしまうなんて、此奴には僥倖で俺には最悪のタイミングだった。
『………』
俺は自然と、シェンナ姫に抱えられている黒蛇を見る。声は届いているだろうに、魔毒の影響かいまだに何も言わぬままだった。
どっちみち避けられなかったけど、でも何故ベルは教えてくれなかった?注意発起されていれば、もっと警戒を強めていたのに。どうして…!
「…ああ、貴方の使い魔を責めないであげて下さい?貴方と邂逅したあの時から、ソレの感知を阻害させて頂きました。フフフ、私の方がほんの少しより力が強かったのでねぇ」
ーーそうか。ベルは俺に言わなかったんじゃない。コイツの所為だったんだ…。
うっそりと笑う中世の陶器人形然な悪魔の言葉を聞き、俺は心の何処かで安堵を感じていた。
ベルは、何か含みがあって俺に情報を隠していたのではないか。そう考えたと同時に、信じたくないと思っている自分がいるのに戸惑った。毒にあてられ弱ってる姿を見た時の焦燥感も、元凶である悪魔への怒りも。
認めたくないけど、俺の中でベルの…ベリアルという悪魔の存在が、拠り所になりつつある…のかもしれない。
『…許せない。こいつ、この悪魔…!!』
安堵感は憤怒に取って代わる。人をコケにするのも、大概にしやがれ!!
手に集めていた魔力が双眼に流れ込んでくるのを感じながら、俺は怒りのままに王座でほくそ笑むラウルを強く、強く睨みつけた。
「っ…!あぁ…良い、イイですねぇ…!魂の美しさは勿論ですが、私を屈服させようとする貴方の『目』!阻んでも尚、魂を焼かれそうな痛みを感じて…堪らなくゾクゾクしますよっ」
だが、ラウルは俺の『目』を避けようともせず真正面から受け止めた。そればかりか、青白かった頬を朱に染め恍惚の表情を浮かべて、うっとりと目を潤ませている。
ダメージは多少あるようだが、やはり『黒の祝福』が奴の能力を底上げしているのだろう。むしろ攻撃を受け、気色悪く喜んでいる姿に怒りが湧き上がるも、俺は行き詰まった現状に顔を歪めた。
それにしてもこの悪魔。きっとアレだ。所謂『変態』というヤツに違いない。
『そういえば……。以前邂逅したあの白の精霊も、なんとなくアレだったな……』
……黒も白も、精霊は変態が多いのだろうか……?
そんな事をふと考えた時、頭の片隅で蛇の威嚇音が小さく聞こえた……気がした。
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