1 / 1
彼女の横を、ピンポン玉が飛んで行く。
しおりを挟む
お盆期間中にどう過ごすのかは、その家庭次第だ。家にステイする家庭もあれば、旅行に出かける家庭もある。彼岸で墓参りに行く、ということは少なくなっているかもしれない。
嵐が吹き荒れた高校の一学期を乗り越えた隆則(たかのり)は、テーマパークに併設されているホテルにいた。日が出ている内はテーマパーク内でよりどりみどりのアトラクションを堪能し、明日までの準備期間とホテルに宿泊する予定である。
このホテルには卓球場があるということで、自室から一階までやってきた隆則。卓球部に入っているわけではないが、小学校で多少の嗜みはあった。打つ相手が居なくとも、感覚を確かめようと遠征してきたのだ。
卓球場には先客がいるらしく、ピンポン玉が跳ねる音がする。卓の台数が二台しかないので、占拠されていにことを願うばかりだ。
ひょいと覗いてみると、ネットに向かって一人打ちをしている同い年くらいの女の子が汗を流していた。黙々と、ストローク練習をしている。
「となりの卓使いまー……!?」
入口に置かれていたラケットを手に取り、女の子の背中を素通りしようとして。
「お構いなくー……え? 隆則くん?」
なんと、熱心に練習していたのはクラスメートの優美(ゆみ)であった。
「……優美も、ここに?」
「……うん。偶然、だね」
驚くことに、優美と予定が重なっていたようだ。このようなことが起こる確率は、どのくらいなのだろうか。
高校に入学した時、二人の間に面識はなかった。ラフな関係に昇格したのは、半ば強引に学級の代表に選出されてしまったことが発端となっている。
「そうだ、隆則くんがここに来たってことは、卓球でしょ? 待ち合わせてる人がいないなら、……私と打たない?」
風呂あがりで、浴衣姿の優美。お祭り以外で浴衣を見るのは初めてだ。
隆則がその提案に同意すると、慣れた手つきでピンポン玉を送ってきた。
「それじゃあ、ルールは一ゲーム先取で、他は普通の卓球と一緒ね。11ポイントで勝ち」
「……手加減は?」
「なくていいよ。知ってるでしょ、私が卓球部だって?」
優美は、隆則に卓球経験がないと思っているようだ。まあ、隆則も現役である彼女より上回っているとは微塵も考えていない。
「いーくぞー」
一発目。やはり久しぶりの卓球で体が動かず、上げた球を空ぶってしまった。
「本格的なサーブじゃなくても、入ればいいよ?」
様子を見かねた由美が、ハンデを付けることを申し出てきてくれた。フェアプレー精神が垣間見えるワンシーンだが、丁重に断った。
二回目。今度は、上手いことコートに入った。フルスイングするのに絶好球だったが、優美はあえて球を浮かし、山なりの返球になった。
……スマッシュ!
一閃、隆則の体が舞った。コートの隅っこギリギリに着弾し、バックヤードまで飛び跳ねていった。
ポカーンと球の行く末を追っていた優美が、ポイントを取られたのに目を輝かせていた。
「やったなー! 次からは、サービスなんてしてあげなーい!」
どうやら、優美の闘志に火をつけてしまったようだ。
「お手柔らかに頼みますよー」
こんなに無邪気で楽しそうな優美は、見たことがなかった。
嵐が吹き荒れた高校の一学期を乗り越えた隆則(たかのり)は、テーマパークに併設されているホテルにいた。日が出ている内はテーマパーク内でよりどりみどりのアトラクションを堪能し、明日までの準備期間とホテルに宿泊する予定である。
このホテルには卓球場があるということで、自室から一階までやってきた隆則。卓球部に入っているわけではないが、小学校で多少の嗜みはあった。打つ相手が居なくとも、感覚を確かめようと遠征してきたのだ。
卓球場には先客がいるらしく、ピンポン玉が跳ねる音がする。卓の台数が二台しかないので、占拠されていにことを願うばかりだ。
ひょいと覗いてみると、ネットに向かって一人打ちをしている同い年くらいの女の子が汗を流していた。黙々と、ストローク練習をしている。
「となりの卓使いまー……!?」
入口に置かれていたラケットを手に取り、女の子の背中を素通りしようとして。
「お構いなくー……え? 隆則くん?」
なんと、熱心に練習していたのはクラスメートの優美(ゆみ)であった。
「……優美も、ここに?」
「……うん。偶然、だね」
驚くことに、優美と予定が重なっていたようだ。このようなことが起こる確率は、どのくらいなのだろうか。
高校に入学した時、二人の間に面識はなかった。ラフな関係に昇格したのは、半ば強引に学級の代表に選出されてしまったことが発端となっている。
「そうだ、隆則くんがここに来たってことは、卓球でしょ? 待ち合わせてる人がいないなら、……私と打たない?」
風呂あがりで、浴衣姿の優美。お祭り以外で浴衣を見るのは初めてだ。
隆則がその提案に同意すると、慣れた手つきでピンポン玉を送ってきた。
「それじゃあ、ルールは一ゲーム先取で、他は普通の卓球と一緒ね。11ポイントで勝ち」
「……手加減は?」
「なくていいよ。知ってるでしょ、私が卓球部だって?」
優美は、隆則に卓球経験がないと思っているようだ。まあ、隆則も現役である彼女より上回っているとは微塵も考えていない。
「いーくぞー」
一発目。やはり久しぶりの卓球で体が動かず、上げた球を空ぶってしまった。
「本格的なサーブじゃなくても、入ればいいよ?」
様子を見かねた由美が、ハンデを付けることを申し出てきてくれた。フェアプレー精神が垣間見えるワンシーンだが、丁重に断った。
二回目。今度は、上手いことコートに入った。フルスイングするのに絶好球だったが、優美はあえて球を浮かし、山なりの返球になった。
……スマッシュ!
一閃、隆則の体が舞った。コートの隅っこギリギリに着弾し、バックヤードまで飛び跳ねていった。
ポカーンと球の行く末を追っていた優美が、ポイントを取られたのに目を輝かせていた。
「やったなー! 次からは、サービスなんてしてあげなーい!」
どうやら、優美の闘志に火をつけてしまったようだ。
「お手柔らかに頼みますよー」
こんなに無邪気で楽しそうな優美は、見たことがなかった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。
しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。
私たち夫婦には娘が1人。
愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。
だけど娘が選んだのは夫の方だった。
失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。
事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。
再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる